国境の地、アルデント
この話しをする為には今から時間を少々遡ることになる。
突然空を切り裂いた亀裂は、この世界と同様に異界のヴァリアンティス上空を一直線に切り裂いていた。
この事態を重くみた魔導国家イリテリアの最高指導者である三賢者は四人の四聖武帝達に原因解明とその対策を命じた。彼らの耳にも隣国ヴァリアンティスに起きている危機的な状況の知らせが届いていたのである。
そして十二魔導将率いる部隊をペキドスタン城に召集し、この不測の事態に備えることとした。
中でもヴァリアンティスに比較的近い町に滞在していたラナーク・アルバナード隊に、部隊の一部を情報収集に当たらせたのである。
土煙を上げて疾走するバイクが三台。
広大な森を抜ける一本の道路、イリテリアの中央から離れた辺境の地では舗装されている道などあるはずも無く、荒れて砂利だらけとなった道が次の町まで延々と続いていた。
先頭のバイクが止まり、続いて後を追っていた二台もバイクを止めエンジンを切った。
先頭を走っていた女性が空を見上げる。視線の先には空を一直線に切り裂いた痕がくっきりと見えていた。
彼女の名前はシリウス・バスラー。ラナーク隊の副隊長であり、アデラ・バスラーの姉でもある。
「ふぅー、ここで少し休むか…………」
「シリウスさん、神族の末裔と言われるヴァリアンティス人が手こずる相手って、どんな奴らなんでしょうね……あの空の傷痕についてもそうだ、何をどうやったらあんな事が出来るんだ?」
目つきの鋭い強面の男が彼女に問い掛ける。彼の名前はギース・マクエヴァ。低く凄みのある声で喋るが、彼にとってこれが普通なのである。
「余計な事は考えるな! 我々は只の先遣隊だ。この人数だけで事を収められるとは上の連中も考えていないだろう……」
「そうですよギースさん! 僕達だけで何が出来ると言うんです? あのヴァリアンティスが救援を請う為にイリテリアに使者を遣わすだけでも異例中の異例なんですよ!」
彼の名前はレントン・クルーガー。気弱そうな青年であるが、これでもえり抜きの精鋭である。
「そんな事は分かってるんだよ!! 俺が言いたいのは、そんな奴らを相手に戦わなければならないと言うことだ! 相手の正体もまだ何も分かっていないと言うのに!!」
レントンの言葉にイラッとしたギースは声を荒げた。
「だからこそだ……我々は何が起きているのか把握する必要がある。我々は、その為の『目』にならなければならないのだ」
「ですけどシリウスさん……ヴァリアンティスの使者によって、だいたいの話は三賢者に伝わっているんでしょ?」
「ああ……各地域に配属されている部隊がペキドスタン城に集結するくらい深刻な話がな……」
「くそっ……一体どうなっていやがるんだ……」
すると突然、彼らの周囲の光が遮られ、濃い影が差す――三人は上空を見上げた。
飛行していた魔導機動歩兵ゲルケンが少し遅れて到着したのだ。
「あっ、姫達の到着だ……」
レントンが呟いた。
「遅せーぞ、おまえ達!! そっちは空飛んでんだろ!? もっと早く飛べねーのか!」
「うっさいわねー!! そんな事はゲルケンに言いなさいよ!」
彼女の名前はクウラ・パーパス。彼女は魔導機動歩兵ゲルケンの胸部に増設した搭乗部の柵から身を乗り出して叫んだ。
「あのー、ギースさん……ゲルケンは私達に気を使ってゆっくり飛んでくれているのであって……そんなに怒らないで欲しいの……」
彼女の名前はリンネ・パーパス。姉のクウラとは双子の姉妹であって、年齢は僅か10歳の天才魔導士である。
「リンネ、あんな馬鹿とマトモに受け答えする必要は無いわ、ほっときなさい!」
「ンだと、コラーッ!! チビ餓鬼のくせに! 俺より少し魔法が使えるからって、大人を見下してんじゃねーぞ! オルァーッ!!」
「ギースさん……大人げないですよ……」
レントンはヒートアップしているギースを宥めた。
「おまえ達いい加減にしろ! あと少しでアルデントの町だ。そこで飛行艇をチャーターして山脈越えをする。ヴァリアンティスは間近だという事を忘れるな!」
シリウスは呆れたように言い放った。
魔導国家イリテリア――その国にヴァリアンティスとの国境近くにアルデントという小さな町がある。
この地は険しい山々が連なる連峰の壁がヴァリアンティスとの国境を隔てていた。
そして、この静かな町にも怪物は姿を現したのである。
それはヴァリアンティスがある山側から現れ、何をするでもなく空中をフワフワと浮遊していた。最初、二~三体だったその物体は、次第に数を増やし、やがて不気味な程に増えていった。
それは海に生息するクラゲのような形をしているが、大きさはその比ではなく傘だけでも四~五メートル程もあり、それが風に流されるように集まってきたのである。
町の人間は建物の外に出て、それらを不安げに見詰めていた。
「何だ、この騒ぎは……」
このアルデントの町は常時十数名の国境警備隊が常駐をしている。彼はその隊長であり、名をハスラー・クラウゼンと言った。
「クラウゼン隊長見てください! 見たことも無いような物体が空に浮かんでいます」
「あの黒いやつか……あれは生き物なのか!?」
「分かりません。住人の話によると山を越えて集まって来たみたいなのですが……」
「ヴァリアンティス側からか……あそこで何かが起きていることは連絡を受けているが、空を引き裂いた閃光といい、一体あの国に何があったんだ……」
「まさか……あのクラゲみたいな物がヴァリアンティスからやって来たと言うのですか?」
「可能性の問題だ……だとすると、ここは危険かもしれん。おまえ達は住人を安全な場所へと避難させろ! 他の隊員も全て動員させてだ!!」
「はい、了解であります!!」
広場に集まっていた町の住人は、国境警備隊の指示により別な場所へと誘導される。
まだ建物の中に残っている人も警備隊や町の人々の呼び掛けにより、急いで外に飛び出し避難を始めていた。
だが、上空よりそれを見ていた怪物に動きがあった。怪物の一体がゆっくりと降下を始め住人へと襲い掛かったのだ。
「おいっ!! あれを見ろ! こっちに来るぞ!!」
長い触手を広げ獲物に目掛けて滑空する怪物――人々は恐怖のあまり悲鳴を上げた。
「きゃぁぁぁぁ――!!」
「シューティング・フレア――!!」
男の叫び声と伴に一本の炎の矢が現れ怪物の体を射抜いた。
大きな穴の開いたクラゲの怪物は目標を失い大きな音を立てて地面へと激突した。
「クラウゼン隊長!!」
炎系の魔法で怪物を撃退したのはハスラー・クラウゼンであった。
「こいつ……人を襲いやがった……」
彼の気掛かりは現実の物となった。この正体不明の生き物はヴァリアンティスで起きた事件に関係しているとみて間違いないと言えたからだ。
「あのクラゲみたいなやつは、どんどん数を増しています。このままじゃ大変な事に……」
「あんな怪物をイリテリアの地へ入れてたまるものか……レイル! アッシュ! おまえ達は住人を安全な場所へと避難させろ!! 残りの者は俺と一緒に怪物の殲滅だ!!」
「はい、クラウゼン隊長!!」




