チェリーパイと日常
そして、今。
金本さんは(五つ目の)チェリーパイを口に運ぶばかりで何も言わず、稀子は無表情でパソコンのキィを叩き、櫻井さんと美玖さんはそれぞれ視線を宙に漂わせている。
この状況が、かれこれ二時間くらい続いているわけだ。
明日は開校記念日で学校が休みだから、時間だけはたっぷりある。
『そうも言っていられないだろう』
それもそうなんだけど。できるだけ早く、夏奈の願いを叶えてあげたい。
・・・・・・以前から思っていたけど、稀子は僕の考えが読めるんだろうか。
『君の考えなんて、誰だって読めるさ。単純だからね』
え、そうなの?
金本さん、そんなに大きく頷かないでください。傷つくから。
ああ、櫻井さんと美玖さんまで・・・・・・。
「って、金本さん、いくつ食べてるんですか!」
「八つだけど」
普通に言い切っているけど、それはワンホール分だ。
この金本さん、渋い二枚目オーラが薫り立つ細身からは想像がつかないけれど、呆れるくらい甘党なのだ。
「僕の分は?」
「七海さん以外の分はありますよ」
櫻井さんのさりげなく酷い台詞。
これが、僕ら『喫茶 ピエロ』の日常だ。