無邪気な姫と最強コマンド
「佐々木さん、柴崎です」
「どうぞ」
思いのほか声が明るかったので、僕はちょっと安心した。
「こんにちは。佐々木さん、夏奈」
ベッドに寝かされた女の子が、笑って包帯に包まれた手を振った。
随分と器具の数が減り、包帯もそれに伴って減っている。順調に回復しているようだ。
「担当の先生もびっくりしているの」
佐々木さんが、優しい表情で夏奈の髪を撫でる。
「良かったです」
佐々木さんは僕の持ってきた花束と花瓶を抱えて、病室を出て行った。窓際には既に三つの花瓶が並び、それぞれに活けられた花が咲き誇っている。
「綺麗だね」
「うんっ」
夏菜が大きく笑う。本当に嬉しくて仕方がない、という素直な感情表現。
「おじいちゃんと、ミナとカナコが持ってきてくれたの!」
「良かったね、夏奈」
ぐりぐりと僕が頭を撫でると、夏菜はきゃっきゃっと歓声を上げた。
「あたし、花畑が見たいなぁ」
「へぇ?」
「このお部屋、白いでしょ? 一面のピンクの、可愛いお花畑がみたいなぁ」
夏奈は無邪気に笑い声を上げ、僕の手をぎゅっと握った。
きらきらした大きな瞳が、真っ直ぐに僕を覗き込む。
「ね、おにいちゃん、お花畑作って?」
一秒、二秒・・・・・・。
きらきらした瞳が、徐々に潤み始める。
「お願い、おにいちゃんっ」
握った手に、力がこもる。
うう。限界。
「うん・・・・・・」
ああ・・・・・・。なんで僕は、純な瞳に弱いんだろう。
「ありがとう、おにいちゃん! 約束だよぉ!」
満開の笑顔を前に、僕はただ引きつった笑みを浮かべた。
笑顔は子供どもだけの武器じゃないのだ。大人だって、『誤魔化す』という最強コマンドを使うことはできる!
それにしても、どうしたらいいものか・・・・・・。