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哲平はどういう反応を返せばいいのか分らなかった。
慰めればいいのか。でも一体何について?
ふざけんなと怒鳴ればいいのか。どう見てもふざけてなどいないのに?
あれこれと思い惑っているうちに。
セーラー服に包まれた、女の子らしい丸い肩に、手を伸ばそうとしていた。
寸前で止まる。
待て。俺は今何をしようとしていた。
大きく深呼吸。努めて客観的に現状を分析する。
目の前にいるこいつは男だ。いくらちょっとばかり可愛い、いや、半端なくめちゃくちゃに可愛らしい顔立ちをしていたとしても男を胸の中に掻き抱いて嬉しいか。
断じて否。ついさっきも思った通り、論外だ。
「テッペイ?」
哲平が強く首を左右に振ると、実咲人は気遣うような素振りをする。
なぜだ。非情に拒絶した相手のことをどうしてそんなに心に懸ける。どちらかと言わなくてもゴーインマイウェイで他人の顔色を窺うようなタイプじゃないのに。
一つの可能性に思い当る。
俺だからか?
そもそも実咲人は出会った最初からやけに積極的だった。必ずしも手放しの好意ではなく、むしろ逆に馬鹿にするみたいな態度だったりもしたが、それだって最後には哲平を認めることに繋がった。
本当は一目見て哲平を気に入ってたのに、素直になれなかっただけ、とか。
哲平は実咲人を見つめた。
実咲人は軽く首を傾げた。前髪が揺れて花のような香が立った。
これで男とか、嘘だろ。
そんなのは天地陰陽の理に反している。直巳が遺伝子的には男とかいう方がまだあり得そうだ。
っていうか、嘘なんじゃ……?
事情はさっぱりだが女子の身で男子高である武成に通うための方便として「男」ということにしてあるとか。
それと虫除け的な意味も込めて。
俄然その仮説が真実であるような気がしてきた。
となれば決断は早かった。
「分った。責任取る」
柾が明言した。
「…………。ま、柾っ、てめえなにいきなり横から割り込んできて勝手なことほざいてんだよっ!!」