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また唐突になにを突拍子もないことを……!
実咲人の妄言におののきつつ前を見ると、男の顔面が湯気を吹きそうなほど真っ赤に染まっている。
いよいよ本気でぶち切れたか。哲平の背筋は寒くなる。
「んっ!」
哲平の腕を振り切り、実咲人が飛び出した。まるで体当りするみたいな勢い。
まさか、相手の気を乱しての不意打ち!?
そんなことはなかった。目の前にそそり立つ男を実咲人は華麗にスルー、一目散に個室に飛び込む。
すぐさま扉が閉ざされ、鍵が掛けられる。
哲平は呆然とする。
しかし考えてみれば、トイレというのは用を足すための場所だ。もともとしたかったのなら、ばたばたしているうちに我慢し切れなくなるのも当り前だ。
「っしょ」
小さなかけ声に微かな衣擦れが続く。
なんとなく気恥ずかしくて、視線を横に逃がすと。
「…………」
実咲人の入った個室の扉に向かい、目を血走らせている男がいた。
こいつ。怒ったんじゃなくて、「女子」のおしっこに鼻血噴きそうになってただけかよ。
「おい」
哲平が突っ込むと、男は扇風機みたいにそっぽへと首を回す。
とりあえず荒事は避けられたみたいだ。が、心安らかな気分からは遠い。
実咲人が実は男だと知れば、邪な関心も失せるだろう。
「いいか」
あいつはな、と哲平は切り出そうとした。
聞こえてきたのはひとすじの水流。
野郎二人は磁力に引かれるように顔を向けた。