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 哲平はその光景の意味するところをすぐに理解することができなかった。いや哲平だけではない。

「え……え?」

 実咲人も感情発声を繰り返しながら男に突き付けていた指先をさまよわせる。

 さっきまで圧倒的な高みにあったはずの男の顔が、今は哲平達の視線の下にあった。

 ぐすっ。

 野球のグローブみたいな掌で覆われた後ろから、えずくような声が洩れる。隆々と発達した首から肩にかけての筋肉が小刻みに震えていた。

「……きで……い……ない」

 体格にふさわしく、低くてこもった、そして全くふさわしくない、か細く震えた声だった。

 何を言っているのか聞き取ろうと哲平は実咲人の肩越しに身を乗り出す。男が、自分と同じ武高の制服姿であることに今さらながら気付く。

「どうしたの、きみ。お腹でも痛いの?」

 うずくまってしまった男の傍らに実咲人が屈み込んだ。

 男が顔を上げた。全体に角張った輪郭の中で、そこだけ丸い目玉から大粒の涙が流れている。

「なに?」

 実咲人が目線を合わる。

「好きで大きいわけじゃないっ!!」

 吠えた。

 吹っ飛ばされるみたいに仰け反る実咲人。その頭頂部が後ろにいる哲平の顎を直撃。

「あてて……」

 瞬間脳が痺れたが、実咲人が力無くもたれかかってきたので急いで抱き止める。

 男としては少しばかり華奢な、女子にしては少し硬い体に哲平はどういう反応をすればいいのか分らない。

 男は再び立ち上がっていた。最初に見た時よりもさらに威圧感が増している。まるで冬眠から覚めた熊だ……泣いてるけど。

 実咲人が体を震わせた。

 無理もない。

 いかに怖いもの知らずとはいえ、直接の物理的脅威の前では分が悪い。

 いざとなったら無理矢理突き飛ばしてでも男の前からどかせる。なんとか実咲人だけでも逃げ出せれば、直巳を連れて戻って来てくれるかもしれない。

 実咲人を抱いた手に哲平は力を込めた。

「ダメだよテッペイ……離して」

 実咲人がいやいやをするように身を捩らせた。切なく掠れた吐息をついて、もう一度大きく震えた。

「おしっこ漏れちゃう」

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