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15

「お、お前っ、どーしてここにいるんだよ!?」

「え、どうしてって?」

 思わず声を張り上げた哲平に、実咲人がきょとんと首を傾げる。

 森の中で初めて人間に会った仔鹿みたいに愛らしく、哲平は危うく見惚れかけたが、芳香剤とアンモニアとメタンの入り混じった特有の臭気がここがどこなのかを否応なく思い出させた。どう考えてもセーラー服にはそぐない。

「ここ男子トイレだぞ!女子用は隣だ!!」

 全力で突っ込んだ。

 しかし実咲人はなおも意味が分らないという顔をする。

「だからそれがどうしたのさ。変だよ、テッペイ」

「変なのはお前だ!!」

 頭を抱えたくなった。男(?)のくせにセーラー服を着ている(それもやたらと似合っている)というだけで大概なのに、男子校の男子トイレに入り込んで平然としているなんて、これはもう変人を通り越して変質者の領域に……いや待て。

 男のくせにセーラー服、は確かに変だ。

 セーラー服が男子トイレ、も間違いなくおかしい。

 だがこの二つを三段論法式に繋げれば、男が男子トイレ、になる。変じゃない。

 とはいえ。

 哲平はしげしげと実咲人を見直した。この格好で、一体どうやってするつもりだ。スカートめくり上げてか?

 やばい。なんか変な気分になってきた。

 ドアの方に向き直る。このままここにいるのは色々と危険だ。

「どこ行くのさ」

 だがその後ろ襟を実咲人が掴む。

「していかないの?たまったままだと体にも悪いよ?」

「ばっ、お前何言って」

 咄嗟に振り返って口を塞ぐ。もし誰かに聞かれでもしたらとんでもない誤解を招きそうだ。


 ジャー、ゴボゴボゴボ。


 え。

 哲平は凍り付く。

 頭はすぐに理解していた。「大」の方に先客があったことに、迂闊にも今まで気付いていなかったのだ。

 しかし信号が脳から先に出て行かない。男子トイレの中でどう見ても女子な相手の口を塞いだ犯罪必至な体勢で。

 カチャカチャとベルトを締めるような音に続き、個室の扉が勢いよく引き開けられる。

 知らない男だった。そして圧倒的だった。

 背丈も筋肉も平均値を上回る哲平が、比べればまるで小枝と葉っぱで作った人形みたいに貧相だ。しかもただでかいだけではない。目線の配り方にも立ち方にも隙がない。

 ──こいつなら直巳とだって闘えるかもしれない。きっと結構な見物になる。

 そんな想像を巡らせたのは、もちろん今の状況を忘れたかったからだ。

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