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その姿は美しかった。
スーパーモデルみたいなどこか非人間的な外見の所有者の直巳が、軽く目を伏せ、微動だにせず姿勢を正している様には、完成された芸術作品の如き趣があった。タイトルを付けるとしたらきっとこうだ。
『自決』
いやちょっと待て。
全く他人事ではないのだ。一蓮托生を気取るつもりなど毛ほどもないが、哲平だけ責任を逃れることを直巳が許してくれるはずもない。
頼みの綱は実咲人、か。
怒ってはいるだろう。色々と常識外れな奴でもある。だが少なくとも直巳みたいに容赦のない人間ではない。
と、思う。思いたい。思っていてもいいですか?
哲平は実咲人を見上げた。実咲人が見返す。震えが走る。
まるで天上から見下ろされているみたいな、無条件でひれ伏してしまいそうな感覚。
「そろそろ終わりにしようか。もう式も始まるだろうしね」
実咲人は言った。いつの間にか周囲からは人の気配が消えている。参列者はもう皆会場に入ったのだろう。
「覚悟はできているわ」
控え目な、それでいて強い意志を感じさせる調子で直巳は言った。
「真っ先に処断されるべき元凶が哲平と柾なのは動かせない事実だけど、あなたへの不敬行為を防げなかったのは私の咎。謹んで裁きを受けます」
実咲人は頷いた。その面持ちはあくまで厳しく。
「きみ達に、ぼくに対する罪を贖ってもらう」
何だ。何をさせられる?掌に汗が滲む。
「ごめんなさい」
え?
意味が分らなかった。哲平は瞬きを繰り返す。
他の二人も同様だったらしく、困惑の気配が立った。実咲人はしかつめらしく教えを賜う。
「悪いことをしたと思ったらきちんと謝る。責任を取るっていうのは誠意を尽くすってことだよ。いい?それじゃあ、さんはい」
信徒達は女神の前に頭を垂れた。
“ごめんなさい”
(vol.3に続く)