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 むふーっ、とカバが唸ったような音がした。見れば柾が実咲人に向かって目を剥き出している。かなり不気味だ。もし暗い夜道などで出くわしたら全速力で逃げたくなること請け合いである。びびらせた相手が女性なら通報されても文句は言えまい。

 だが目下の対象は「男」の実咲人である。見た目のわりに性根は座っているっぽいから、変態が少しばかり奇怪な言動をしたぐらいでさらなる面倒事が出来したりはしないだろう。

 と思ったのだが。

 甘かった。

 柾の変態性を過小評価していた。

 柾はバネ仕掛けみたいな動きで跳ね上がると実咲人の方に腕を伸ばした。狙うは胸、手の平はお椀の形に丸められ、今にも乳房を揉みしだかんばかり。

 男のはずがないと思っての蛮行なのか。

 それとも。

 男と聞いたがゆえの兇行なのか。

 どっちの方が危険なんだろう。

 いずれにせよこんな暴挙を直巳が見逃すはずがない。すっと身を沈めると、前に出ようとする柾の足を水面蹴りで薙ぎ払う。

 見事に決まった。

「あ」「あ」「あ」

 哲平、柾、そして直巳の声が重なった。

「え?」

 柾の巨体が倒れかかっていく先に、実咲人がいた。

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