28
はたして何をどうしろと言うつもりなのか。哲平は表面大人しく畏まりながらも頭の中では激しく警戒を募らせた。
「嫁に貰え」的な何かでないことはもはや確実な状勢だ。まさか「チン○もぐ」的な何かではないだろうな。もし余りに余りにもな内容だったらなんとしてでも離脱を図る。たとえばこの野郎を上手く楯か囮に使えば。
哲平は横目で柾の様子を探った。思い切り視線がかち合う。
こいつ。同じ事考えてやがったな。
再び同時に顔を背け合う。
「あなた達、きちんとなさい。これから実咲人が自ら手討ちにしてくれるのよ。立場を弁えなさい」
何やらひどく不穏な単語が聞こえた気がしたが、まずは従う。たとえ実咲人の思考は読み切れなくても、直巳ならば分る。もしここで逆らったりしたら物凄く痛いことになる。文字通りの意味で。
実咲人は改めて二人に相対した。
「柾くん」
「はい」
「テッペイ」
「なんだよ」
直後、脳天に雷が落とされた。直巳の持つ紫の包みが振り下ろされていた。
「……はい」
呻くのをこらえて哲平は返事をし直す。
実咲人が少し困ったような顔を直巳に向けた。
「直巳、ぼくのためを思ってくれるのは嬉しいけど、すぐに暴力に訴えるのはよくないよ」
「…………。あなたがそう言うのなら」
直巳は不本意そうだったが同意した。
「ありがと、直巳。──それで、きみたちがぼくにしたことだけど」
実咲人の声が低くなる。一見すると不機嫌そうだったが。
「やっぱりその、失礼だよね。……おトイレしてるとこを覗くなんて」
桜の花弁が色づくみたいに、薄く頬が赤らむ。隣で柾が鼻の穴を膨らませるのが見なくても分った。
「いくらオトコのコ同士だからって、さ」