表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/52

風花

風花かざばな…晴天時に雪が風に舞うようにちらちらと降ること


人生で今が一番勉強する時期…。これを終えたら私はもっと自由になれる。新しい生活と今よりも自分で自分を幸せにできるチャンスが待っている。




そんな風に思いながら美香は毎日、机に向かった。




プルメリアの恭子からカシミヤのストールと紅茶にハーブティー、クッキーの詰め合わせ、綺麗な文字でつづられた手紙も届いた。




少なからず自分を応援してくれている人がいることが嬉しかったし、その期待に応えたかった。





達也は新曲の制作で忙しく、あれから会うことはなかった。





誕生日の電話以来、電話もなかった。




時々、不安に襲われて気分が沈んだ時は恭子のくれたハーブティー、台所にあるココアを飲んで一生懸命に心の回復を待つ。




思い浮かぶのは決まって達也と過ごした日々の事。彼が口を開けばいつも美香を笑わせる話ばかり。時々、作りかけのメロディを鼻歌で歌ってくれた。極論が多いけど本当はそれに温かい思いやりが込められている。




家事は気分転換になるので美香が続け、疲れている時は出前を頼むようになった。




苦手な数学で分からない問題は優の助けを借りた。




努力と思いは結ばれる…。




そういう気持ちを忘れずに最後まで悔いのないように勉強を続け、とうとうセンター試験を受ける。滑り止めの私立の大学を入試を受けに行き、センター試験よりも一段と難しい見たことのない問題に愕然とした。半分も合っているのだろうか?疑問だった。得意な現代文や英語すら全く手応えを感じられない。特に英語は知らない単語ばかりで戸惑った。



もう少しその大学の過去問を沢山解くべきだったと後悔しながらも のちにすんなりと合格通知が届く。




2月の終わりにはいよいよ二次試験を迎えた。




この大学で4年間を過ごせたら…大学内の景色を美香は眺めた。




そのまま卒業式を迎え、色々とあって楽しかった高校生活も終わりを告げる。





巣立ってゆく美香を二村は切ない気持ちで見送った。




まだ佐藤優が1年在学する。その間に奇跡が起きてくれないだろうか…?




最後の最後にそんな淡い期待も抱きながら。





合格発表の日は小雪が舞っていてとても寒かった。




美香は一人で合格発表の掲示板を見に、電車に乗り込む。




もう全ては終わっていること、私には悔いがない。精一杯やったもの…。




大きな掲示板に自分の番号を見つけた時は足の震えが止まらなかった。




何度も何度もその受験番号が本当に正しいのかを確かめても信じられなかった。




不合格の者はその場を去り、合格した生徒が大声で喜んでいる。二回生、三回生がちらしを手にサークル勧誘にはしる。




その場に立ち尽くしている美香にも在学生の生徒が声をかける。




「合格おめでとうございます!テニスサークルどうですか?」




「ホンマに合格できたんやろうか?まだ信じられなくて…」





「821…821……ありますやん!ちゃんと。合格!合格!!」




その男子生徒のおかげで美香は自分が合格している事実を認められつつあった。




沢山のチラシをもらい公衆電話から自宅に電話を入れる。






「優くん、番号あった。でもまだなんか信じられへんの。どないしよう…」




「番号あったんやろ?何回も見たの?」





「見た。サークル勧誘の人にも見てもらった」




「ほんなら合格やん!!おめでとさん!」




「どないしよう…」




「とりあえず、うちに帰ってきい」





手に持ったチラシに舞い落ちる小さな雪。




風花かざばな…晴天時に雪が風に舞うようにちらちらと降ること…そうかこんな日の事を風花というのね。いつか勉強した内容が頭の中でリンクする。見上げれば空はきれいな水色をしていた。




不思議とそれ以外は何も心に浮かばず、美香は無心で電車に乗り大阪へ帰った。




でもいざアパートのドアを開け優の顔を見た瞬間に色んな感情で胸がいっぱいになり涙がこぼれ落ちた。声を上げておいおいと泣いてしまった。




優は美香の肩に両手を置きながら「おめでとう。でも自分泣きすぎやん。声が野獣みたいやで(笑)」と本当はひどく感激して自分も泣きたいくらいだったが わざとふざけた。




少し落ち着いた頃、緊張しながら学校にも電話を入れて担任と話をした。




サンドイッチが出来ているから食べに来なさいと絹子おばさんが上に上がってきた。




シルクから父親の会社に電話を入れ、合格を伝えると 後は絹子おばさんが長々とお父さんと話をしていた。




その日おばんさんは一日中機嫌が良く、来るお客来るお客に美香の京大合格をしゃべってまわった。




夕方、部屋に戻り達也に電話を入れたが留守番電話だったので





「達也さん…合格しました。今までホンマにありがとう」とメッセージを入れた。




母方の親戚にも電話で報告し、プルメリアにも連絡を入れた。





その夜はなかなか眠れなかった。





気持ちが落ち着かずに台所で静かに温かいミルクティーを入れて部屋に持ち込んだ。




しばらくして電話が鳴り響き、受話器を取ると達也だった。





「おお、佐藤さん。ついにやってくれましたな~(笑)おめでとう。



でも今までありがとうって何?(笑)まさか俺を捨てようとしてへん?もう用無しかい!?(笑)」




「違う違う(笑)今までホンマに色々と助けてくれてありがとうって意味」




「ほな…来週、東京に来たら?毎日は一緒におられへんけど、どこかで丸一日あけるから。」




「ありがとう。ホンマにありがとう…」




久しぶりに聞く達也の声が美香を涙ぐませた。





電話をきって温かいミルクティーをすすりながら そっと窓を開けると




冷たい風がふわっとカーテンを揺らす。





私はこれからどうなってゆくのかしら?




幸せになれるかしら?




外はまだ寒いのに春の香りが漂う…そんな気がした。




ありがとう…。




達也さんへ?優君へ? お母さん? 友達? 今まで頑張った自分へ?




よく分からないけれど、ありがとう…。無意識に口からこぼれた。




優しい西日・上 (完結)4/6.2012






4/6.2012完結しました。幼い頃の記憶に残っている昭和という時代を思い出しながら調べながらだったので不定期更新になってしまいました。それにも関わらず最後まで読んでくださりありがとうございます。優しい西日・下 の方もマイペースですが執筆していきたいと思います。宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ