陰湿な羨望
※12/12冒頭3文が抜けていました…失礼致しました!!
金曜日は達也と焼肉を食べて付き合いでライブを見に出かけた。
ライブハウスには英二も昭彦も来ていて
その場の流れで気の進まない打ち上げにも達也について行って顔を出さなければならなかった。
打ち上げの席からふと達也が視界に入った時、今まで気が付かなかったけれど
美香は達也がほんの少し痩せたように感じた。
もともと痩せ型の達也だが、なんだか体の厚みが薄くなったような…
東京できちんとご飯を食べられているのかしら?デビューの準備やレコーディング疲れ?
急に心配になった。
「美香ちゃん?ずっと前にも打ち上げで会った、覚えてる?近藤美穂やねんけど」
そう言って誰かが美香の肩をたたいた。
「あっ…お久しぶりです…」
それはいつか違うバンドの打ち上げに達也に連れられて来た際にトイレで声をかけてくれたOLの美穂だった。
型パットのきっちり入ったジャケットとタイトスカートにゴールドのアクセサリー。目がつり上がるほど高く結ったロングヘアーのポニーテール。
最初に会った時よりも派手になっていたので分からなかった。
「元気やった?」
「はい…」
「まだ達也さんと続いてはるんや。すごいなー」
「………」美香は返事に困った。
その瞬間、周りの女の子達が一斉に美香を見る。
やっぱり打ち上げは好きじゃない…。私をチラチラとチェックする沢山の目。
居心地が悪いどころか毎回必ず胃がキリキリと痛む。堂々としてたらええって誰とも目を合わさないでテーブルを見ていることだろうか?
でもこの日、美香は黙り込まずに初めて違う話題で会話を切り返した。
「今、いくつバンド見に行ってはりますか?月に何回くらいライブハウス行ってます?」
「う~ん。うちが贔屓に(ひいきに)してるのは3つ。あと、新しいバンドも最近 発掘したねん。ライブハウスはなんやかんやで毎週行ってる感じ(笑)」
「美穂さんすごい!もうかなり顔広いのと違います?」
「すごいってそんな~。でもどんどんメンバーと知り合いになり続けてる。この前もな~…」
美穂は自分の得意の分野を美香に聞かれて有頂天でべらべらと絶え間なくしゃべり出す。
良かった…。これでうちの話題はもう出てこない。美香はホッとして美穂の話を聞いた。
美穂の話を聞くうちに美香は彼女に加代子を重ねていた。バンドの話をする時の嬉しそうな表情がどことなく似ているのだ。
そうこうしているうちに達也が隣に来た。
「そろそろご無礼するでー」
美香は蒸し熱い外に出る事を思い、着ていた白いカーディガンをさらりと脱ぎバッグに収めた。
「色々と面白い話をありがとうございました」
「美香ちゃんまたね。お疲れさまー」
美穂はタバコを片手に美香に手を振った。
彼女の視界に入ったのは美香の白くて華奢な背中に映えるワンピースのばってん(クロス)にか細い腕…。
これが生まれつきの美人…。どんなにお金をかけて派手に着飾っても私の方がダサく見える。
無垢でどこまでも透明感のある美香を前にして 私は今夜イケてると思っていた美穂の自尊心は冷え固まっていた。
「あの二人今からどこ行くんやろ?」
「そりゃあ行く所はひとつやんなあ?(笑)達也さんもたまってはるやろうし?」
「いや、分からへんで?東京でもう別の人がいてはるかもよ?」
「ほんならあの子は大阪の女やん(笑)」
「本人気付いてへんけど、遊ばれてるだけとちゃうの?」
「でもまだつながってるだけ根性あるわ。飽きられないように努力してるんかな?」
「ものすごい ええ声出すとか?(笑)純情そうな顔して床上手?(笑)」
「あんたヤラシイでー(笑)」
「そこまでするなら、うちはファンのままでええですー!」
「あはははは……」
タバコの煙で曇るテーブルの向こう側で不敵な笑みを浮かべて噂話を楽しむお姉さま方に混じり美穂も毒を吐いた。
自分があまり可愛くなくて、パッとしないという劣等感を美香の不幸話で盛り上がる楽しさで紛らわしたかったのだ。
でも…白く滑らかな背中にピンクのハイビスカス柄のクロス。華奢な腕に細い首、小さな顔…美香の残像がしばらく脳裏に浮かび続けて消えない。
あの子はいつも達也さんに可愛がられて、ライブもきっとタダ。楽屋にも入れる、TAKEの他のバンドマンとも近い関係。助手席にちょこんと座って、ご飯も食べに連れて行ってもらえる、ファンの知らない達也さんの素顔を知ってる。
二人きりの時はどんな話をするのだろう?どんな言葉をかけられながら抱かれているんだろう?歌に詞をのせる時もきっとあの子の事を考えながらで…うちだって誰かの特別になりたい。
自分の為に歌を作ってくれる。ファンより先に聞けるデモテープ。ライブ中に合う目、付き合いで連れていかれる打ち上げ。美香に起きているであろう事を自分の身に起きていると想像し続け美穂の妄想は止まらなかった。




