再会
「大阪は梅雨明けです!」ニュースキャスターの元気な声とともに
蒸し暑い日々がやってきた。
期末テストに向けて美香は早めに勉強を始め
苦いアイスコーヒーを口に運びながら夜遅くまで起きている日々が続いた。
勉強に集中している間は達也のいない寂しさを忘れることができるし
進学や良い就職口を志願する生徒が今まで以上にテスト勉強をするので
美香もその波に押されていた。
テストを来週に控えた夜に達也から電話が入る。
「元気なん?佐藤さん、ちゃんと勉強してはるの?」
「元気よ。勉強もしてる」
「今日やっとレコーディングが終わったわ。ライブのリハ入る前にちょっと休めるから皆で大阪に帰ろうかと思ってん」
「ホンマに?嬉しい!どないしよ」
「なんか欲しい物ある?」
「何もない。達也さんの送ってくれた電子レンジ毎日使ってるよ。ホンマに便利。ありがたい」
「おう あれなー、ええやろ!?まあ俺が帰ってくるまでは遊びに行かんとしっかり勉強して、風邪引かんように。なんかむちゃくちゃ美味いもん食べにいきたいなあ…お好み焼きも作ってや~」
「分かった。帰って来るの待ってる」
何気ない達也との会話が美香を元気にした。
その元気で期末テストも乗り切る事ができ、ついに達也が帰ってくる日が前日にまで迫っている。
学校はテスト後なので穏やかな雰囲気が流れ、夏休みを目前にして授業は復習ばかりだった。
木曜日、学校から帰るとアパートの3階にタバコをふかす男の人影が…
達也だった。
美香は緊張で高鳴る胸を押さえて階段を上る(のぼる)。
「お、お帰り。しかし暑いなあ」
サングラスの達也が微笑んだ。
「たっただいま…」
いつもはすっと開けられる家の鍵が今日はもたもたする。
達也は居間に上がると大きく深呼吸した。
「この匂い。この匂いや…」
それは美香のアパートに漂う懐かしい匂いで達也は深呼吸を繰り返した。
「あとこの匂いもや~!」
そう言って制服のままの美香に後ろから抱きついた。
「え?待って、ちょっと待ってよ!?」
美香の体にキューっと緊張が走る。
達也が彼女の体を自分の方へ向けサングラスを外した時、美香の目は既に潤んでいた。
「寂しかったな、ごめんな」
その言葉とほぼ同時に涙が頬を伝い白いセーラーに染み込まれてゆく。
達也は美香を強く抱きしめて無臭の中にある彼女の匂いを深く深く吸い込んだ。
美香の呼吸が穏やかになり落ちつきを取り戻した頃、
達也は開いている美香の脇にすかさず手を回して彼女をくすぐって笑わせた。
「もういやや(笑)なんでいつも突然くすぐるねん?」
美香も負けずに達也をくすぐった。
笑っていつもの二人の調子が戻ると、達也は足元に置きっぱなしの大きな紙袋の中身を出し始めた。
「これどう?似合うと思うねんけど」
ピンクを基調にしたハイビスカスプリント無数にあるリゾート感たっぷりのワンピースだった。
パステルカラーからはっきりと濃いカラーまで完璧なグラデーションで広がるハイビスカスの柄。
美香の目が輝いた。
「可愛い…嬉しい!今すぐ着てみてもいい?」
「ええよ。でもここで服 脱がなあかんねんで」
「なんでやねん!?(笑)」
美香は自分の部屋に行き、そっそくワンピースを試着して ふすまを開けて達也に見せた。
「ええやん。似合ってはる」
達也は再び抱きしめて 露に(あらわに)なった細くて柔らかい腕を手のひらでなぞった。
その晩はお好み焼きをつくろうと台所でキャベツを刻む美香の後姿があった。
達也はタバコを片手にその後姿を懐かしい思いで眺めていた。
艶のある髪に止められたフェンディのバレッタ。
自分が買い与えた全ての物を美香が大事に使っている様子を見るのは達也にとって この上なく気分の良い事だった。
優が帰宅した後は3人でホットプレートを囲みお好み焼きを焼く。
このホットプレートも達也が東京から送ったものだ。
お好み焼きの香ばしい匂いが充満する居間で熱い白米をほおばり、冷たい麦茶を口にする。
久しぶりに大きな笑い声が飛び交うにぎやかな夕食。本当に楽しかった。
達也は10時過ぎに友達やバンドのメンバーと飲みに行くためにアパートを後にした。
美香はお風呂に入りながらもらったばかりのワンピースを丁寧に手洗いした。




