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乱れ桜

今年も達也と花見に出かけた。




来年はもうこんな風に二人で大阪で花見をすることがないかも知れない…。




そんな悲しい思いが心の半分以上を占めていて




きれいな夜桜が涙でにじんで見えなくならないように




必死で涙をこらえた。




春休みの終わりからずっと食欲がなく、食べたいものが分からなくなっていた。





弁当も夕食のメニューをおろそかになってゆくばかりだった。





達也が東京に行く日も一日一日と迫っていて




7月のメージャーデビューに合わせて発売されるCDのレコーディングのために




5月から上京するのだ。




車に戻った時に初めて我がままを呟いた。





「帰りたくない……」




「そう言うても明日、学校あるやろ?俺も今夜仕事やねん」




「いやや………」




感情に任せて達也を困らせた。




「今日は帰り。な、土曜日会うやん」





「ずっと一緒にいたい。ずっと一緒にいたい。」




涙がはらはらと流れた。





達也は今まで見たことのない美香の態度に少し戸惑ったが一緒にいたい気持ちは同じだった。





「ほんなら、ホテル泊まろうか? けど、仕事の時間だけは抜ける。




仕事だけはどうしても休まれへんねん。なるべく早く上がって戻るから。




それから朝、家に送って行く。ほんで着替えてちゃんと学校に行くんやで」





美香は小さくうなずいた。





その日は迂闊にも家に電話を入れる事も思いつかないほど達也と一緒にいたい気持ちでいっぱいで




押しつぶされそうだった。





部屋に入るなり抱きつく美香をしばらく撫でた後に達也はその腕をゆっくりとほどき




シャワーも浴びないで抱いた。




美香もそれで良かった。




達也といられる事以外に自分が満たされる方法が分からなかったのだ。





12時少し前に達也はシャワーを浴びて仕事に出かけた。




美香は達也が置き忘れたタバコを見つけると




なんとなく好奇心で火をつけてみた。




恐る恐る口をつけ吸い込んでみると 




それは達也からいつも香る匂いと同じ風味で口に広がる。




なんだかそれが不思議と美香を落ち着かせた。




これがあればいつも達也がそばに居てくれるような…




そんな気がした。




美香もシャワーを浴びてうとうとし始めた頃、




達也が仕事を早く切り上げ戻ってきた。




4時過ぎでまだ外は暗い。




外が明るくなるまで二人はベッドの中で抱き合って




達也は美香の白く柔らかい肌に触れることで再び満たされ




美香は触れられることによって愛が通い合っている感覚を取り戻した。




空が白み始めた頃、美香を乗せた車はアパートに着き




明日 土曜日も会うことを約束し




達也の車は朝日の中を走り出した。




玄関の鍵を開けて静かに自分の部屋にもどると




それと入れ替えに優が起きてきた。




カーディガンを脱いでキッチンでエプロンをかぶり




すぐに朝ごはんの支度に取り掛かった。




「優くん・・・昨日はごめんなさい。電話もしないで」




「達也さんと一緒だったやろ?」





「うん……。ごめんなさい」




「あの人もうすぐ東京に行くんやろ?昨日、夜に電話があった。」





「ホンマ?何か言ってた?」





「美香ちゃんのことよろしくって」




「そう………」




美香は金曜日だというのにうかない顔で登校した。




頭の中はさっきまで一緒にいた達也にまた会いたい気持ちでいっぱいで、




出会ってもう6年目になる長い月日すら……




信じられなかった。






達也と離れることが沢山の思い出をも現実味に欠けるものに変えてしまいそうだった。





その日は新一年生に部活動を公開する初日で





美香は手芸部とバレーの往復をした。




手芸部では去年の文化祭での合同パッチワークキルトの作品や




個人作品のスカート、ワンピース、鍋敷き、手提げ、コースター、タペストリーなどを




テーブルに並べ女子生徒に説明をしながら見せた。




バレー部では、マネージャー募集と大きくBC用紙に書いた紙を貼って




美香と里美は新一年生のマネージャーを募った。




中には優 見たさにやってくる一年生の女の子もいて




体育館のバレーコートの周りはにぎわっていた。




「佐藤優先輩のお姉さんですか?」




一年生の二人組みが美香に話しかけた。





「はい。佐藤の姉です」




「うわ~佐藤先輩に似てるし、めっちゃきれい」




まだ15歳の二人の瞳は美香の大人びた美しさに憧れの眼差しを向けた。




「もし、マネージャーに興味があったら顧問の二村先生に知らせて下さい。




厳しい仕事はなくて一生懸命に選手のサポートをするのが一番の役目です」




そうは言いながらも美香の心はここにあらずで仮入部届けの用紙をぼんやりと配った。




きちんと髪を乾かさずに朝方まで達也とベッドにいたせいで変なクセがついてしまっている。




左肩に髪を流し一本で結っているだけなので早く家に帰りたかった。




バレー部のマネージャーを獲得するという大事な初日なのにジャージも家に忘れてしまい




優の物を借りる始末だ。




早く家に帰りベッドの中で、お風呂の湯船の中で、昨日達也に抱かれたことを思い出したかった。




テラスを伝って体育館にそっと入る込む西日は美香の頬を、髪を優しい色に照らし




髪の寝癖すら彼女をより艶やかに はかなげに見せた。




その悩ましげな横顔が二村の胸をより焦がす。




どうして教師と生徒の関係でしか出会えなかったのだろう。




彼女を抱きしめたい…彼女に触れたい…




まだ処女なのだろうか…どうか何も知らないでいて欲しい…




切ない希望と切望が溢れて止まらなかった。





土曜日、またしても美香は達也に抱かれた。




今までにないほど情緒不安定で




美味しいご飯を食べたり、映画を見たり、街をぶらぶらしたりと




もう普通のデートが出来なくなっていた。





何度抱かれても心に平穏がおとずれることはなく





自分でもどうしてよいか分からなかった。





達也も美香の異常さに気が付いていた。





美香を抱こうとすると決まって彼女は極度に緊張し恥ずかしがる。




その緊張を解く作業に少々時間がかかるのだが、




ここ最近はそんなそぶりを見せなくなった。




目の瞳孔が開いている様な潤んだ不思議な瞳を見せ、真っ暗でなくては受けつけなかったはずなのに




お互いの顔が見える程の薄明かりの中でも素直に応じるのだ。





土曜の昼下がり、達也は様子のおかしい美香を気づかって行為の後も優しく触れているうちに初めて2度目に及んだ。



事の後は、なぜか急に後ろめたい気がした。そしてどうにか希望を持たせようと ベッドの中で前向きな言葉をできる限り並べた。




「レコーディング終わったら一回、帰ってくんで~。デビューの7月までは きっとヒマやねんから(笑)ジャケットの写真パパッと撮って終わりやねん。




ライブのリハーサルしてツアー終わったら、またヒマになんねん(笑)




そしたら暫く大阪に住むかな。美香の勉強の邪魔せ~へんようにしなあかんな(笑)




はっきり言うて俺の方が心配やねん」





達也は美香の顔をちらっと見たが




彼女は無表情でどこかうつろな瞳をしていた。




それでも達也は続けた。




「俺がいない間に美香が誰かに振り向いてしまったら、




他のバンドやってるやつが声かけてくるかも知れへんし




学校で気になる人が現れるとか・・・




醜い心配が色々あんねん(笑)」




くすっ………。




微かに美香が笑ったのをかわきりに




「俺はまだまだ小さくて醜い心配してる奴やから




美香がもっとええ人見つけたらどないしよう」




そう言いながら美香の上にのしかかってくすぐった。




とうとう彼女は声をあげて笑い出し




「達也さん待って待って!!ちょっと待って!!」と笑いながら激しい呼吸と共に訴えた。





達也がしばらくの間美香をくすぐり続けたので




彼女はぐったりし、体が大きく揺れる呼吸をしている。





「やっと笑ったわ。強制的にやけど(笑)





そんなに思いつめて逆に俺のこと嫌いになったらどうすんねん?




そっちの方が心配やわ」




美香の顔には弱々しい笑顔が戻っていた。




大きな瞳は少し垂れて、口元には小さなえくぼ。




達也はこの笑顔が大好きだった。








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