弥生
やがて春が来てついに高校三年生になってしまった。
春休みはTAKEの東京のワンマンライブについて行き
いつの間にかまた一段と人気を増したTAKEに気が付いた。
ラストソングの前のMCでステージの光が達也に集中する中、
ついに7月のメジャー行きの公式発表をした。
それは終始、達也らしい言葉で美香の心はもちろん
ファンの心にも熱い思いを届けた。
その夜達也はレコード会社の社長と則芳(のりよし Folgersのリーダー)、Folgersのマネージャーと美香を伴い銀座のとあるクラブに飲みに行った。
美香は夜の飲み屋街に行ったこともなく
冷たい夜風にあたり凍える思いでとても緊張していた。
Plumeriaと書かれた上品にライトが輝く扉の向こうは
シャンデリアにソファー、豪華な内装が施された空間が広がっていて
美人の女の人達が煌びやか(きらびやか)なドレスやスーツを着て楽しそうに男の人と会話を楽しんでいる。
「いらっしゃいませ、待ってましたわ」
着物を着て大きく髪を結った女の人が社長に頭を下げる。
「のりくんにたっちゃん、麻生くん(マネージャー)も元気そうで」
その人は、則芳も達也のことも知っているようだった。
「この可愛らしいお嬢さんは?」
優しくも美しい眼差しがちらりと美香に向けられた。
「ママ、この娘は達也くんの彼女で今日は大阪からワンマンライブに付いて来た美香ちゃん」
社長が紹介をしてくれたので
「佐藤美香です」とだけ言い頭を下げた。
「私はここのママをしている上条恭子です。宜しくね」
ママが美香に名詞を差し出した。
さらに二人の女の人が加わりテーブルはにぎやかになる。
ママ、社長、達也、美香。女の子を挟んで則芳、マネージャー、女の子の順に座っていて
社長はママと何やら楽しい話をしている。
「緊張してるん?」
達也がそっと美香に話しかけた。
「うん……こんなところ初めて来たから」
「ここは銀座って言うて、一流の人の飲み屋街やねん。
大阪とはまたレベルが違う」
「美香ちゃん、銀座の女の子に顔負けしてへんよな~京都が生んだ美人!さすがやわ(笑)」
則芳が口をはさむ。
「でもこの人は暴走すんねん、時々。なあ(笑)恐い女やで(笑)」
達也が冗談を返す。
「あら京都なの?私も京都」
ママが則芳の言葉に反応した。
「ねえ?美香ちゃんいくつ?」
「18ってとこやな…」達也が返答した。
「そう。まだ学生さんかしら?」
美香は声もなくうなずいた。
「今度、私 京都にお茶を飲みに行くから一緒にいかが?」
「……………?」
こういう時、なんて返事をしたら良いのかさっぱり分からなかった。
「ママは可愛い女の子とデートするのが好きでね、
男は相手してくれないんだよ(笑)僕が何度誘ってもね」
社長が笑いながら言った。
「いややわ~社長。社長とは何度もデートしてるやないの」
ママも笑いで切り返す。
黒いスーツの従業員が来てママに耳打ちをした。
「社長、皆さん ちょっと失礼します。すぐ戻ります」
そういい残すとママは席を外し、次のお客の席に向かった。
その後はもっとよくしゃべる女の人に入れ替わり
社長と達也以下 皆ずっと笑いっぱなしだった。
美香は、早くホテルのベッドに帰って達也と一緒にゆっくり眠りたい。
そう思っていた。
帰りがけにママは少しだけ戻ってきて社長の方に背広を掛けたりしていた。
ホテルに戻ると達也はベッドの中で
「7月ってどんくらい暑かったか覚えてへんな~…」などと呟いた。
もう頭の中は7月のメジャーに向けてでいっぱいなのだろう。
その事がなんだかとても寂しくて悲しかった。




