表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/52

邁進

邁進まいしん…恐れることなく突き進むこと

シティホテルで過ごした宝石のようなクリスマスも過ぎ





新年を迎えた。




ここ二年は大晦日にTAKEのライブがあったり




達也が初詣に連れて行ってくれたおかげで




美香も優も寂しい年末年始迎えていた過去が嘘のようだった。




それから昭和という一つの時代が終わり新しい時代に突入したのだ。




テレビの向こう側で「平成」と書かれた色紙を美香と優は眺めていた。





1月8日…今日から日本は平成の世なのだ。なんだか実感がわかない。それはいつもと変わらない二人きりの寒い日曜日だった。





三学期が始まってすぐの頃、





達也は美香のバレー部の手伝いがない月曜日の夕方にアパートを訪ねていた。





彼女が準備途中の夕食を 遅い昼食代わりにつまみながら空腹を満たし





タバコを火をつけると ふいに口を開いた。





「あんな、メジャーの話が来てんねん」





「え??」





「俺らにメジャーの話が来たって言うたの」





「え??」突然すぎて言葉が出てこなかった…。





「のりさん分かるやろ?のりさんのバンドのマネージャーと





事務所の社長と時々話すようになってデモテープも聞いてくれて





ライブも何度が見に来てくれて。前に挨拶したやん?覚えてる?」






「…………ごめんなさい。覚えてない…」





「とにかく ええチャンスが舞い込んで来てんねん」






「ホンマに?何か夢みたい!!」





「夢ちゃうでー。実力10%、運90%(笑)東京で一旗揚げる時が来たねん」



驚いて上手く言葉が出てこないけれど





達也と離れてしまう事だけはなぜが すぐに気がついた。





見る見るうちに怯えた表情に変わっていくのが自分でも分かるくらいに…。





「何?心配なん?」





タバコを灰皿に押し付けた後、





達也はそっと 台所に立つ美香の背中まで忍び寄った。





「うちは心配してない……」




言葉とは裏腹に瞳に涙がにじむ。





「東京なんて遠くないで?メジャー行ったら新幹線の券、なんぼでも買うたる。」




もう達也のいない生活なんて考えられなくなっていた。




彼氏であり、時に父親以上の役目も担って(になって)くれる人が




この人の他にいるだろうか?……





いるわけがない。






4月からは3年生になるから また憂鬱な進路選択の時期が巡ってくる。




そんな時に達也なしで どう過ごせと言うの?




美香の不安は既にピークに達していた。




でも笑顔でいなければ…。




こんな時は努めて笑顔でいるべき……。




そうやって思考を立て直している途中で強く抱きしめられ




滲んだ涙がほほを伝い出した。




「ホンマにごめんなさい。泣くつもりなんてないのに…」





「東京に行ったからと言うて今までと何にも変わらへんねん。




俺は俺やし、月に一回は絶対に大阪に帰ってくる。電話もする。




3年生になったら受験やん?俺おらんほうが ええんちゃう?」




美香はまだ就職が進学が決めていなかった。





※昭和62年頃…高校卒業後の女子の就職率は、大学や短大へ進学する割合よりも高く




四大よりも短大進学が主流だった。





「美香は頭がええねんから絶対に大学に行った方がええねん。




就職もいいけど ええ高校に入った意味ないやん」





このまま達也が私を東京に連れて行ってくれたら…




一瞬そんな刹那的な考えが頭をよぎる。




でも、優はどうするの?




やっぱり私はここで頑張るしかないのだ…。




諦め(あきらめ)のため息がこぼれた。





冬の夕暮れ時の弱い西日が美香の心により一層の寂しさを運ぶ。




「優が帰ってきたら もう泣くなよ…。




優にはそのうち俺から話するわ」





美香は達也のためにコーヒーを、自分のためにミルクティーを入れて




テーブルまで運んだ。





「よっしゃ!今から楽しい事だけ考えようや!!




優も帰って来るし東京行きの話は忘れて、




もし考えられへんかったら美香の服 脱がす(笑)」





「それおかしいわ(笑)何にも関係ないやん!」





「美香を裸にする時が一番最高な瞬間やねん・・・」





「いややわー。ホンマにいやや(笑)けがらわしいねん」





あっという間に日が暮れて しばらく経った頃に優が帰ってきた。




達也のおかげで何事もなかったかのように




その日の夕食を終えることができ




三人でテレビを見て夜11時過ぎに達也は仕事に出かけた。




夜、布団に入って今日のことを振り返っていると




なんだか達也が東京に行ってしまうなんて信じられない気持ちになった。





でもこれから私はどうなるのだろう……?




えたいの知れない不安感だけが残る。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ