表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/52

拒否反応

11月中旬の日曜日。




達也と遅い昼食にハンバーグを食べて




二人はなんとなくホテルへ入った。




仲良くTAKEのライブレポートが乗っているバンドの雑誌を見て




テレビを見て生き生きと面白い話をする達也が大好きだった。




それなのに……




肝心な瞬間が来ると達也のことが受け入れられなかった。





体が強張り(こわばり)初めての時よりも上手くいかなくなっていたのだ。





「体調悪い?無理せんでええよ」





その言葉を待っていたかのように体の力が抜けて 




後には鈍い疲労感が残る。





トイレに行ってしばらく戻って来ない達也をよそに





もしも今月、一度もしなかったら妊娠の心配もない




などと頭の中は妊娠への恐怖でいっぱいだった。




その次の週もやっぱり達也を受け入れることができず




大きなベッドの隅で美香は小さくうずくまった。




翌週は12月に入り




土曜日の夕方に達也の車がホテルに向かうと気が付いた時




「ごめんなさい…。うち…」





「何?もう俺のこといや?もう嫌いなったん?




何があったか知らんけど、俺何にもしてへんやん。」





達也がついに声を上げて荒い運転を始めた。





ショックと恐怖で胃がきりきりと痛み出す。




「何か言えや!……はっきり言うてや」



「ごめんなさい……」

恐くて涙が流れる。




「だから謝ってほしいのとちゃうがな。泣きたいのはこっち。




意味が分からへんやん。まともに話 しようや。




何もせーへんからとりあえず入るで、話しよう。




怒鳴ったり、手出したりせーへんから、な…」




達也に続いて暗いホテルの廊下を歩いた。





「ここ座り」



達也は美香をソファーに座らせポットのお湯で緑茶を作るとテーブルに置いて




向かいの壁と同化している長いすに深く腰掛けてタバコの火をつけた。




「どこからでもいいから話してや」





「…………」





「黙ってても何も分からへんやん。俺、何かした?したんだったら謝るわ」





美香は大きく首を振り更に涙をこぼしながら




声を詰まらせて口を開いた。





「今日は生理で………………」





「それは誰のせいでもないわな・・・」





「この間は…………………」





「ええよ。思ってること言うて」





「加代子ちゃんの事があってから うちも妊娠せーへんかって……




そう思ったらもう全てが恐ろしくなってしまって」





そこまで口にした時、自分の口から出た「妊娠」という言葉の忌々しさ(いまいましさ)に両手が震えた。




「絶対、妊娠せーへん。加代子ちゃんがなんで妊娠したか分かる?つけてへんかったからやろ?」





それはただの気休めにしか聞こえなくて




ただ大きな不安と憂鬱と忌々しい気持ちに付きまとわれて苦しくて




涙が後から後から溢れた。





「考えすぎやん。俺は絶対に妊娠させたりせーへんよ。




今までだってそうやし、これからもそうやん」




「……………………」




「じゃあ、万が一 妊娠したら結婚してもええわ。




俺は逃げたりせーへんし、新聞屋を継がしてくれって親に頼む。





でもそれ以前に絶対に妊娠させたりせーへんねん。





妊娠って言うけど、そんなに簡単にするもんと違うんちゃう?





つけても妊娠するなら世界中の女の子が結婚する前にお母さんやん」





達也の言葉にほんの少しだけ納得ができたものの





まだ不安と恐怖は完全にはぬぐえなかった。





でも不思議な事にもしも妊娠してしまったら結婚という未来の形がある事に





小さな安心を覚える。





妊娠=全ての終わり という残酷すぎる方程式が「結婚」という





幸せの象徴語に摩り替わった瞬間だった。




美香は思い出したように緑茶に口をつける。





「もうぬるいんちゃうの?笑」





「うん、少しぬるい」





小さな笑顔を浮かべた美香を見て達也はほっとした。




同時に心のモヤモヤがすっきりと消えた爽快感を深く味わう。





今度は美香が二人分のお茶を入れなおし




仲良く並んでふかふかのソファーに座った。





「なんでいつも暴走すんの?佐藤さんは(笑)びくりするわ」





「暴走してない(笑)」





「いやいや、ものすっごい暴走やん(笑)」





関係がねじれても分かり合える瞬間が来る幸せというか




その後に見られる美香の はにかむ笑顔が達也はたまらなく好きだった。





クリスマスを間近に控えた日曜日の昼過ぎには




また達也を受け入れられるようになった。





それは本当に優しい触れ方で美香の罪悪感を一瞬薄れさせた。





夜は中華料理屋で持ち帰りをしてアパートで優も加えて3人で夕食を囲んだ。




美香が笑う時に見せる小さく引き締まったあご




口元に浮かぶ小さなえくぼを食卓で見た時、




達也は再び幸福感で満たされ今夜も冷えるけれど仕事を頑張ろうと




心の中で思えるのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ