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過ち

※Folgersがメジャーデビューをした11月に時間軸が戻ります。


ずいぶんと寒くなった頃、




恵が思いつめた顔をして美香の家を訪れていた。




達也が買ってきた缶入りのクッキーをテーブルに並べながら




暗い表情を浮かべたままの恵が口を開くのを待った。





「あんね……姉ちゃんAKIさんの子妊娠したらしいねん…」





「え?うそ…・・・??」





「ホンマ……」




「なんで??うち分からへん」





「うちも分からへんよ!でもAKIさんと2回だけしてしまったらしいねん。たぶんその時に…」





美香は絶句した。




確かに加代子は長い間AKIのファンだ。





近づきたくて近づきたくて





近づけた結果がこれなのか……。





「それでな、AKIさんにその話したら連絡が取れんようになってしまったらしいねん」




「ひどい……」





「うちな、姉ちゃんの力になりたい。達也さんからAKIさんに連絡とってくれるように美香ちゃんから言ってくれへんかな?ダメかな……。




ウッチーが間に入ったら生意気やわって半殺しにされるだけやと思うし」




「……分かった。達也さんに言ってみる」





何故か人事とは思えなくて一気に不安と恐れに体が震える思いがした。




妊娠をして…連絡が取れなくなった……。





加代子の笑顔が急に頭をよぎった。




加代子ちゃん今どんな気持ちでいるのだろう…。






二日後の土曜日。





バレー部の合同練習試合があり手伝いのために午後からも学校にいた。




お茶を沸かして冷ましたり、体育館の軽いモップがけ、





ラインに立ちサーブやアタックボールのイン・アウトを判定する。





試合の行方よりも加代子の事ばかりが気になっていた。





1ゲームが終わったところで休憩を挟む。





選手の汗が落ちていてはいけないので再びモップがけをする。この汗が原因で試合中にすべってケガをする可能性もあるからだ。






体育館から手洗い場に行った時にふと声をかけられた。





「佐藤さん?○○小だった」





「はい…」





「俺、吉川孝彦。覚えてる?」





他校のジャージを着た筋肉質の短髪の少年が誰なのか全く思い出せなかった。





「俺、昔 小学校を卒業した日に佐藤さんに手紙を出してん。恥ずかしい奴やったわ(笑)」





「あっ…」




美香はようやく思い出した。






あの手紙…?もうとっくの昔に捨ててしまい跡形もない。





転校後の小学校の事なんてあまり思い出したくないし思い出もない。





それが正直な気持ちだった。





「佐藤さん、頭いい学校入ったんやな。ホンマにすごいわ」





「たまたまで…」と言いかけた時、





「美香ちゃん!お茶まだ沸かした方がええでー」と大きなやかんを持った優がやって来た。





「分かったー」





吉川とはちあわせた場面を優に見られたのでしぶしぶ紹介をした。






「大阪の小学校に転校した時に同じクラスだった吉川孝彦くん。うちの弟の優です。」と言った瞬間、





「センターの吉川さんですよね?いっつも気になってました」

優が吉川に話しかけた。





二人が楽しそうに話し出したので美香は大きなやかんに水をはり





職員室の隣の給湯室まで歩き出した。





パイプ椅子に座りガスの炎を見ながら再び加代子の事を心配する。




彼氏はどうなったのかしら?





いいも悪いも とにかく加代子ちゃんが早く楽になる事が一番。






2ゲーム目はジャッジを交代してもらい




熱戦の中、行ったり来たりを繰り返す白いバレーボールをただなんとなく眺めていた。





余りにもぼーっとしすぎてしまい 途中、応援することを忘れていた。





「佐藤ちょっと疲れたんちゃう?今日はホンマにありがとう」





心ここにあらずの美香に気が付いたのか二村が声をかけてきてきた。





「いえ先生、大丈夫です。あんまりお役に立てませんでしたが…」





「そんな事あらへん。佐藤が手伝うようになってくれて皆ますます気合が入ってんねん」





二村は袖まくりしたジャージから覗く美香のか細い腕に見とれていた。





その体に触れる事が許されるのは一体どんな奴なんだろう…




二村は無意識にそんな考えさえ浮かんでくる自分が信じられなかった。






美香は帰りに優のこぐ自転車の後ろで揺られながらも




まだ加代子の事と結ばれて妊娠してしまったという事実について考えていた。





夕食を終えても風呂に入っても頭から加代子とAKIの事が離れなくて





深夜を待って仕事の為に起きる達也に電話をかけた。







「おっ佐藤さん、最近寒いけどブルマ2枚履いたりしてんの?(笑)」





受話器の向こうでは何も知らない陽気な声が響いていた。





「明日、会える?聞いて欲しい事があんねんけど…」





「何?今言うたらええやん。今聞くよ」





「今は言えない…ごめんなさい。」





「そんなに深刻なん?何か気になって仕事 放っぽり出しそうやわ」





「ホンマにごめん。でも達也さんの事とちがうよ。うちの事ともちがう」





「ふ~ん…。ほんなら仕事終わってそのまま朝5時ちょっと前に家行ってもいい?ほんで少し寝たら話聞く」





「ええよ。ありがとう」





達也があと数時間でアパートまで来てくれるのが嬉しいし ほっとした気持ちで電話を切った。






「優くん、朝5時くらいに達也さん来るけど…」





「なんで5時やねん?」





「仕事終わったらそのまま来てくれはる。ちょっと話しをせんとあかん事があるの…」





「あっ俺、吉川先輩の家に明日、昼から行くねん。金子も一緒に。夜は吉川先輩の家で出るからええわ」





美香は念の為に4時30分に目覚ましをかけて眠りに付いた。





軽い緊張からか目覚ましが鳴る前に目が覚めてしまい布団の中でごそごそとしていると





アパートのドアを小さく小さく叩く音が聞こえた。






ドアスコープの向こうには会いたかった人が立っている。





今その会いたかった人がベッドの中、隣でひじを付きながら添い寝をして髪を撫でてくれる幸せ。





加代子の妊娠の話を聞いた時のショックが少しだけ安らいでいった。






気が付くと朝の10時半過ぎで美香はベッドから出て





優の朝ごはんを用意した。





ぴかぴかと光る白い炊き立てのご飯にやわらかな湯気が立ちのぼる味噌汁、鮭の塩焼きと海苔。





ホットケーキを食べない達也の為に今朝は和食に切り替えた。




達也は優が出かけるまで ぐっすりと眠っていて





美香はその間に宿題を終わらせたり音を立てない軽い掃除を済ませた。





「よく寝たわ」





達也はそう言いながら居間に来て静かにたばこに火をつける。





「朝ごはんあるけど食べる?」





「おう、食べたい。今日、何?」





「味噌汁と魚と海苔よ。おかず少ないけど…」





「白い飯があったら俺はあとは何でもええねん」




出された朝食はとても美味しかった。調理した人のきちんとさがまるで伝わってくるような気がするから不思議だ。




「それで、佐藤さんは何に悩んではるの?」




達也が思い出したかのようにその話題を切り出した。





「加代子ちゃんのこと知ってる?」





「……何?何かあったん?俺は何も知らんで」





「AKIさんから何も聞いてない?」





「何も聞いてへんなあ…」





「加代子ちゃん……妊娠したってAKIさんの子……」





「?うそやん??」





「加代子ちゃん、ずっとAKIさんが好きやってん。それでずっと好きでいたから近づけるチャンスが来て…でも妊娠したってAKIさんに言ったら連絡取れんようになってしまって。




木曜日に恵ちゃんが相談しにここに来たの。達也さんに話してみてくれへんかなって」





「分かった。昭と連絡取ってみる。でもあいつ何も言うてへんかったわ…。別に悩んでる様子もなかったしなあ」





「どうしてこんな事になってしまったんだろう……」




あの日、修の口から絵美が妊娠していると聞いて以来




「妊娠」という言葉がたまらなく不愉快なものに思える。




胸を掻き毟られるような、鳥肌が立つような表現しづらい不快感をもたらす言葉なのだ。




達也から昭彦を責める言葉が出てこないのも なんだか気に入らなかった。





結婚前に妊娠する事は罪。そもそも安易に体を重ね合わせる事から悲劇は始まるのだ。そんな思いすら頭に浮かぶ。




そうとは知らない達也は、目を合わせずに下を向いたままの美香が急にかわいそうになり




そっと抱き寄せた。




今だけは抱きしめられても嬉しくない…。いつもみたいに安心できない。





「うち、AKIさん逃げてはると思うわ。皆そう思うてる」





「そんな事は本人同士しか分からへんねん。加代子ちゃんって彼氏おったんちゃう?ライブに一緒に来てたの彼氏とちゃうの?」




「…………」何と言い返したらいいのか浮かばず悔し涙なのか?

熱い涙が頬を伝った。





「なんで美香が泣くねん?おかしいやろ?」





達也の言葉が余計に熱い涙を誘う。




本当は加代子を心配するふりして自分の心配をしているのかも知れない。





不安と罪悪感、戸惑いの気持ちが入り混じり




どうして良いのか分からないし、自分はなんなんだろうと思う…。




「俺が責任もって解決したるって言いたいねんけど




これはやっぱり二人の問題やと思う、な…。分かる?昭には必ず連絡取るから」





達也の体温が美香の全身に伝わった頃、





不思議と荒立った心の波がおさまってゆくのが感じられた。





その日、達也は美香と中型のスパーへ出かけ夫婦のように食材を買い込んだ。





寝転がりながらテレビを見る達也の横で夕食には天ぷらを用意した。





優が帰って来ないので二人だけの夕食で





新婚ごっこのような幸せな食卓を囲んだ。





結婚したら幸せになれるのかしら?




結婚って絶対的な幸せが約束される形なのではないかしら?





食器の片づけを始めた時、ふとそんな風に思った。





達也はほんの少し仮眠を取り、真夜中に美香の家から仕事に出かけた。





結局、加代子は子供をあきらめる形で昭彦との話し合いがつき




その後のお金の件なども含める世話はなぜか加代子の彼氏が全てやった。




それからしばらくして加代子は優しい彼氏なのに




その男を捨て、また昭彦を追いかけるようになる。




ライブにも今まで通りに通い、昭彦との親密な関係も続いているようだった。





美香にはその行動がよく理解できなかった。





デートの途中、達也の用事で昭彦と会う時に




よく違う女の人を連れているのも なんだか嫌で




美香は明彦とあまり口をきかなくなっていった。





もうひとつの変化は自分も妊娠してしまうのではないか?




という恐怖が芽生えてしまった事で




もしそんな事が起きてしまったら…もう何もかも終わり…。




それは最悪の結末のように思えた。



やっとエブリスタ連載部分のコピーが全て終わりこれから新しい章を連載できそうです。待っていて下さいました方々ありがとうございます☆

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