再婚
また巡ってきたクリスマスに
達也はシャネルのバッグと口紅、香水を送った。
一つだけではパッとしないし なんだか寂しい。
それで口紅と香水をつけたのだ。
誰にでも当たり前のようにいるはずだと思っていた親が美香にはいない。
帰宅してもアパートから暖かい夕飯の匂いがする幸せもない。
なぜならその夕食を毎日用意しなければならないのは彼女自身なのだから。
それでも健気に暮らし、父親を恨むようなそぶりも見せない美香が
時々、たまらなく不憫で
その境遇を埋める為に何でも買い与えてあげたい…
そんな病的な気持ちをかき立てるのだ。
女子大生がもてはやされる時代に差し掛かっていた当時、
16歳の美香にシャネルのバッグはどう考えても早すぎる…。
それでも使っていくうちに違和感がなくなるのだ。
その物に相応しいようになれるから不思議である。
達也の好意はより強く美香の心を縛りつけた。
私を見ていてくれるのはこの人しかいない…。
その思いは日に日に増すばかりだった。
そんな中、優の受験が終わり
美香と同じ高校に行くことになる。
美香はバスで、優は自転車で通学をした。
4月初めのある夜、
修からの連絡があり 今からアパートを訪ねるという内容だった。
電話を取った優は風呂場に行き、のん気に一番風呂を堪能している
すりガラスの向こうの美香に
「なんかおとんが話あるから今から来るって」
大きな声で話しかけた。
修は9時過ぎにスーツ姿のまま若い女の人をつれて現れた。
「実はお父さんな、この人と結婚することに決めた。
10月に子供も生まれる…絵美は取引先の営業事務の子で…」
「分かった。でも俺らは俺らでこのままここで生活する。
悪いけど、俺らが18になるまでは生活費だけ今まで通り入れて欲しい。それだけ」
優は修の言葉を遮り 自分の要望だけを言い放つと自分の部屋に行ってしまった。
美香が優を呼びに行っても もう顔を見せる事はなかった。
なんだか悲しい事実に美香の目からは涙がこぼれ落ちる。
「美香はどうしたい?」
修は尋ねた。
「うちも ここで暮らしたい…」
「そうか…絵美は皆で一緒に暮らしてもいいって言うてる。だから気が変わったらいつでも連絡してな」
「美香ちゃん、私は山下絵美です。今23歳で修さんとは職場で出会ったの。とても素敵な人で…出会えたことにホンマに感謝してる。
だから時間がかかっても二人とはホンマの家族のようになりたい。
赤ちゃんが生まれたら見に来てくれへんかなー…」
「はい……」
思ってもいないのに はいと返事をした。
修は順子とは別れていた。
勝気な順子よりも おっとりとした絵美を選んだのだ。
優しい絵美はどこか出会った頃の麻衣子の雰囲気に似ている。
修は今でも若かった頃の麻衣子を鮮明に覚えていて
思えばあの頃が一番幸せだったような…
気が付くと昔の事ばかりを懐かしんでいた。
彼女の死から逃げ、二人の愛の結晶である子供達からも逃げた。
絵美に出会ったことでやっと止まっていたいた時間が動き出したような
前を見て歩くことができるようになったような…
彼女の存在なしではもう生きる気力さえ失うかも知れない。
二人が帰った後、
美香は座り込んだまま大粒の涙を流した。
父親に誰か好きな人がいるから家に帰ってこない。
それはもうずっと前から知っていた。
でも母親以外の人を見つけて結婚するという事実。
この事実がショックだったのだ。
一回り以上も離れた若い女の人と…
それにその人は妊娠をしている…。
それは心が粉々になるほどのショックだった。
風呂に入りに 部屋から出てきた優が
「泣いてもしゃーないだろが!
もうええちゅうねん!
金だけ振り込まれて今まで通り暮らすだけやん。
金さえあったらええねん!
まだ泣きたかったら自分の部屋で泣きー」
怒りに任せて美香を怒鳴りつけた。
美香は朝まで泣き続け翌日に学校を休んだ。
その日は 朝にごはんが炊けているだけで
優のお弁当は用意されていなく
美香は登校する時間になっても部屋から出てこなかった。
優は学校から帰宅すると朝の茶碗が沈んだままの流しで夕食にべちゃべちゃのチャーハンを作った。
美香の部屋のふすまを叩き
「美香ちゃんごめん。許して?今、チャーハン作ったから食べようや。美香様!」
パジャマのままの美香がふすまを開けた。
泣きはらして腫れたまぶたが なんだか痛々しかった。
「美香お嬢様、お食事の用意ができてます。こちらへお越し下さい」
優はそんな風にふざけて深く一例をする。
「もうええわ…(笑)」
べちゃべちゃのチャーハンを食べながら二人は仲直りをした。
「俺、バレー部に入るかも知れへん」
「え?サッカー部やないの?」
「なんか二年の人にめっちゃ口説かれて見に行ってみたら何か良かったねん。だから入ろうかなと思って」
「へー。でも優くん背が高いからええかも?」
優の身長はいつのまにか父親よりも高くなり175cmを越えていた。




