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ワンマン

光線の向こうに浮かび上がる5人…。




あの日の達也のつぶやきが実現したのだ。




小さなホールは人で埋まり




客の興奮が5人の肌にまで伝わってくる。





達也はこの日、どうしても美香に見に来て欲しかった。





それから、優と優の友人数人にもチケットを出した。





「2曲目が始まったら控室から外に出て見に来て、Neglect(曲名)くらいでまた戻り」





ライブが始まれば後ろの関係者席を気にする客がほとんどいないから。





オーナーの協力もあって美香はそんな方法でライブを見ることになった。





達也から4枚のチケットを預かった日、





初めて優に達也との関係を話した。





「そいつ、そんなにかっこええの?いい奴なん?」

チケットを手にしながら優が口を開く。





「そうよ。かっこいいし、なんかすごい人…。どんくさいうちを引っ張っていってくれはる人」





「ふ~ん…」

内心、どんな奴なのか見に行くのが楽しみだった。




受験勉強の息抜きには絶好な機会だとも思った。



 


軽い気持ちで出かけた優と3人の友達は その夜に衝撃を受ける。




客のものすごい熱気とエネルギー。





それを受け止めて激しいパフォーマンスで返してくるメンバー。





ただただ かっこよかった。





美香ちゃんはあんなド派手な奴と付き合ってたんだ…。





付き合ってるってことはもうやったんだろうか……?




達也のMCの間にそんな余分な想像が張り巡らされたが、再び曲が始まればステージに釘付けになる。





四人の少年は新しいエネルギー渦巻く世界に触れて ほんの少しだけ大人になった気がした。





ラスト曲の後、ギターとベースのピックが数枚空を飛ぶ。





ドラムのスティックが宙を舞い、





達也が小さな花束を10束ほど投げた。女の子達がそれを奪い合う。





Neglectのサビに入った頃、達也に言われた通り美香は外に出た。





預かった鍵で外のドアを開けて控室に入る。





薄い壁越しに次の曲を聞いていると満面の笑みを浮かべたオーナーが入ってきた。





「ええな~。今日は大入りやわ。ホンマに気持ちいい。堀にビデオ撮らせてるから今度上映会しようか(笑)」





ストーブの上で沸いているお湯でコーヒーを入れてくれた。





「ありがとうございます」





「たっちゃんな、なんかえらいいい男になったわ 最近…」





「え??」





大きな歓声が聞こえてメンバーが戻ってきた。





冬なのに流れる汗をそれぞれタオルでぬぐう。





オーナーが一人一人の肩をたたきお疲れさんと声をかけた。





ライブの余韻に浸っているメンバーの前で達也はさっと衣装から着替え

「ほな、菊地屋(打ち上げ会場の居酒屋)で」




と言い残し 急ぎ足で美香を連れて駐車場に走った。






「達也さんや!!」





「たっちゃん!」





一瞬、女の子達の声が耳に入ったが二人は振り返ることなく車に乗り込み立ち去った。






大きく立てた髪が車内の低い天井のせいでへし曲がっている。






やっぱり本当は優しい達也の存在と今夜の光景に美香は胸がいっぱいだった。





胸がいっぱいすぎて…なんて言ってよいか分からなかった。





「弟達ちびっこ、楽しんでくれたかな?」





「うん、そう思う。優くんはけっこう行く前から楽しみにしてた」





「なんかさあ、弟の顔って美香の(オス)バージョンやな(笑)





やっぱり姉弟(きょうだい)やわ(笑)





ライブ中にふと思ったねん」





「いやや(笑)そんなこと考えてたなんて…雄って 何かいややわ」





「雄は雄やん。俺も雄。毎日、美香の裸ばっかり考えてる(笑)」






「ホンマにいやや!さっきはあんなにカッコよかったのに…」





「ええやん(笑)でも今日はホンマに良かった!」






アパートに着くと




達也は片手を伸ばして11束目の小さなブーケを後ろのシートから取って





美香に差し出した。





「これ、10束を客席に投げた。はい、会員番号0番さんへ」





会員番号とはその年の夏までやっていた





おニャン子クラブからきている言い方で





二人は当時、国生さゆりが大好きだった。






「いいの?ありがとう…」





「でもそれ受け取った人は 俺といやらしいキスをせなあかんねん(笑)」





今夜の達也はライブでたくさん体力を消耗したのにもかかわらず





絶好調で口からは冗談ばかりが飛び出した。





「でも、来てくれてホンマにありがとう。ホンマに良かった」





そう言うと達也は顔にかかる髪をかき分けて





目の前の柔らかな唇にそっと口をつけた。





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