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不敵

「不敵」

敵を敵とも思わないこと。大胆でおそれ を知らないこと。


それ以後、美香はライブに顔を見せなくなった。




恵は加代子やTAKEのライブで出来た年上の友達とライブに通う。




TAKEが繰り広げる激しいライブが好きだったし




一生懸命働く内山の姿を見守るために毎回足を運ぶのだ。





加代子は社会人になっていて そのストレスを発散したくて




仲間と一緒にいつも最前列でヘッドバンギングをしていた。





TAKEはライブをする度にその知名度をあげ




大阪でも名の知れたバンドになりつつあった。





達也は先輩バンドのライブに美香を連れ出すようになり





打ち上げにも美香同伴で顔を出すようになった。





10月10日の祝日に二人はデートの約束をしていて





誕生日に指輪とワンピースをプレゼントしたばかりなのに





達也はこの日、また別のワンピースを買い与えた。





夜9時近くになり、





「ちょっとだけ顔出さなあかんとこが あんねん」





独り言のようにつぶやくと車は居酒屋の近くの有料駐車場に向かった。





「どこ?」




「タクティスの打ち上げ。ホンマにちょっと顔出すだけ」




タクティスとはTAKEとよく対バン(同じ日にライブに出る)バンドでバンドぐるみで仲が良かった。





「車で待っててもいい?」

打ち上げには色んな人が来ているだろうから行きたくなかった。





「ええよ。すぐ戻るわ」




達也は美香を車に残し居酒屋の大きなのれんの向こうに消えていった。





30人くらいが集まっている大部屋の座敷に行くと




メンバーが達也に気がつき喜んだ。




ほんの少しのつもりが30分くらい経ってしまったのだろうか?




ふいに座敷の向こうに会計を済ませるガラの悪そうな男3人が視界入る。




なんだか急に美香のことが心配になり




「もう一人車におんねんけど連れてくる」といい残し店を出た。





気の進まない美香の手を引いて再び居酒屋に戻ると





座敷にいるの色んな人の




興味本位丸出しの視線が彼女に降り注がれる。





こげ茶のロングカシュクールワンピースに




濃いエメラルドグリーンと紫の大花柄が入り乱れる薄地の華やかなストール。





それだけで格別な存在感を漂わせていた。






控えめに達也の隣に小さく座ると





緊張の為か胃がチクチクと痛み出す。






たくさんの視線を感じるのにタクティスのメンバー以外は誰も美香に話しかけなかった。





体育座りに大勢を変えても胃の痛みは治まらず





ずっと隣にいて欲しかったのに達也はメンバーの一人と席を移動し




向こうの方で笑い転げている。





美香は一人トイレに席を立った。






わざとゆっくりと用を足す。





飾ってある造花を見ながら手までも思いっきりゆっくりと洗い




胃の痛みが紛れないか待っていた。




鏡のでカバンの中身を整理していると扉が開き




誰かが入ってきた。





鏡の前でその人と隣同士になった時




「達也さんの彼女ですよね?」と話しかけられる。





恐る恐るその人の顔を鏡越しに見ると




「ホンマにきれいな人やなあーと思って。どうやったらそんなにきれいになれるのか教えて下さい」





と続け にっこりと微笑んだ。




その笑顔はなんだか素敵できれいになる必要なんてないと思える。




「そんな…きれいだなんて……」





「いくつですか?うちは18、会社で事務してます」




「わっ私は16で高校生です」





「えっ?ホンマに?年上に見えた…何年生?と名前は?」





「一年生です、佐藤美香です」





「見えへんわー。ホンマにびっくり。うちは、近藤美穂




一緒にアイスクリーム頼んで食べへん?なんか色々話したいわー」




その人の態度は急に馴れ馴れしく豹変した。





でも、その場限りでも一緒に話ができそうな人が見つかって良かったと




救われる思いがした。






席に戻ると二人は並んで座り




まだ鈍い胃の痛みが続くのでストールを広げて肩にかけた。




美穂は美香が年下だと分かると一緒に打ち上げに来た数人の友達に紹介し




アイスクリームのスプーン片手にぺらぺらとバンドやライブ、いろんなことを話し始めた。




しばらくすると達也が隣に移動してきて




「友達できたん?良かったやん。何か食べたいものある?頼んでやろうか?」と話しかけてきた。




「あったかいお茶が欲しい…」




達也に熱いウーロン茶を頼んでもらった。





「達也さんの彼女、16に見えへん」




「あのな、この人ホンマは25歳やねん(笑)」




女の子達が一気に笑う。




最後に美穂に 電話番号の交換を頼まれ居酒屋を後にした。






帰りの車内、機嫌の良い達也が




「あんな、俺らワンマンすんねん。今日決めた。」




と思いつきでつぶやいた。







でもそれは遠くない未来に実現することになるのだ。







美香は確信していた。




この人はどんなことでもやってのける。不敵な人…。





もし許されるなら…ずっとそばでそれを見ていたい。





居酒屋で笑い転げている達也の顔が少し可愛いかったことを




本人には言えず そっと思い返した。





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