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捧物

6月。



じめじめとして雨風(あまかぜ)のふく中、




恵は美香のアパートに来ていた。




部屋がいつも小奇麗で 出されたお茶のグラスや




冷蔵庫にある何気ないマグネットまで羨ましくなる。




ぽつんと置かれているテレビの上の




須磨水族館のウォータードームさえセンスがいいと思い込まされるような…




そんな錯覚に陥る(おちいる)。




今日、彼女がここに寄ったのはどうしても美香の耳に入れておきたい報告があったからだ。





「美香ちゃん、うちな…」




二人だけしかいないのに何故か小声になり





「先週の金曜日…ウッチーとしたねん。ウッチーの家で」





「え?ホンマに?  痛かった?」





「うん。痛い。」





「痛いってどんな痛さ?」





「なんか言葉で言うのは難しいねんけど、とにかく痛い。血もちょっと出て




でも次からは大丈夫みたいやで」





「そっか…うちは どないしよう…」





「けど、達也さんとだったら、ええんちゃう?うちはええと思う」





「そやなぁ…もうずっと待ってくれてはるし。いつまでもこのままではいられへん。それは分かってる」




美香達よりもずっと後にくっついた恵と内山の方が早く結ばれたのだった。




そして、身近な恵が経験済みになったことが美香の背中を大きく押す。





それは高校の友達とはまた違った世界で




二人だけが共有できる秘密の話題だった。




その後はTAKEが東京でライブをする話なんかを恵から聞いた。




ローディーのウッチーが恵に流す情報は




達也が美香に伝える情報よりもいつもほんの少しだけ早かった。





6月27日土曜日。




とうとうその日が訪れたのだった…。





まだ昼すぎなのに暗い空、大粒の雨が降り注ぐ中





達也はアパートの駐車場まで迎えに来た。





ワイパーの動きに追いつかないほどの大雨で





それは、これからしようとする行為に対する神々の怒りではないかとさえ思えてくる。





遅い昼食に回転寿司に行った後、





ついにまたあの場所へ…。





美香は静かに心を決めた。





それでもいざ部屋に入ると克服しかけた恐怖心がいとも簡単によみがえる。





それから新たな不安もあった。





果たしてこの後もずっと達也と付き合っていられるのだろうか…?





飽きられたりはしないのだろうか?





新たな不安の方が 恐怖心よりもずっと深刻で





気持ちが押しつぶされそうだった。






泣いてはいけないのに また泣いてしまう。






「結局いやなん?」





「もし、うちとしても…その後もずっと付き合っていられる?





ずっと優しくしてくれる?」





やっとそれだけを言うと もっと涙が溢れた。






「なんでそんなこと心配すんの?


 



俺はそんな男ちゃうで?




そんな風に思われてるなんて想像もしてへんかった」





「ごめんなさい!! そういうつもりで言ったんと違う」





「俺も我慢の限界っちゅうやつがあんねん!




結局、信用してへんから いっつも心配してるとちゃうの?




そんならもうええわ…」





「ごめんなさい!ホンマにごめんなさい!




付き合えたのがいまだに奇跡で 奇跡ってそう長くは続かないから…」





「奇跡ちゃうがな?綿密な計画で俺が落としたの(笑)




毎日、そんな心配してたら頭おかしなるでー




むしろ処女あげたんだから一生責任持てや!




くらいのこと言っててええんちゃうの?」





どうしてこの人から放たれる言葉はいつも強くて




力がみなぎっているのだろう…。





やっぱりこの人になら私の全てを捧げてもいい。





さっきまでの鳥肌の立つような恐怖は弱まり、美香はまるで救いを請う信者になったかのように目を閉じて達也を受け入れた。





この日、二人は初めて朝まで一緒にいた。





なんだか達也はこれまでで一番優しく接してくれた気がする。





一度身体を許したら関係が壊れていくなんてどうして怯えていたのだろうと思えるくらいに…。







帰宅すると優は部活でいなかった。




意味もなくなんだかホッとする。





この頃から達也は美香ちゃんと呼ばずに




美香と呼び始め




美香は達也に敬語を使わなくなった。


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