パス
恵と加代子に久しぶりに会い、
中学の時の友達も合わせて皆でTAKEのライブに出かけた。
加代子にはバイト先で彼氏ができた。
その彼も今夜はTAKEを見に来ることになっている。
会場に着き驚いたのはノリの激しい客がどっと増えていたのと
激しく飛び跳ねる男のファンが何人かいたことだ。
一体感が生まれ 以前にも増した盛り上がりを見せている。
少しだけ危険を感じて美香は後ろの方でライブを見た。
達也の歌う顔が人の隙間から時々しか見えない。
なんだか彼を遠くに感じる。
それからバンドにローディーと呼ばれるスタップが二人できていた。
その日、加代子は彼氏と一緒に帰り
達也は内緒で4人を車で家まで送った。
麻利子と沙織の二人を先に送ったところで
「めぐちゃん…ちょっと聞いて欲しいことがあんねんけどいいかな?」
唐突に口を開く。
「はい…何ですか?」
「前から言わなあかんと思ってて なかなか言われへんかったけど
俺ら、付き合ってる」
「ホッ、ホンマですか?」
「美香ちゃんが黙ってたこと 気分悪いやろうけど俺に免じて許してくれへんかな?」
「そんな…許すとか…でも、ホンマにびっくりした」
美香は心の準備もなにもないままに 急にそんな話が出て恵と顔を合わせられなかった。
「今度から二人にパス出そうと思うねん。そうすれば後ろの関係者席で見れるし」
「えー?ホンマですか?どないしよう??美香ちゃん…」
恵は大声を出して驚いた。
「なんかヤローの客も増えてきてるから あんまり前で見てたら危ないんちゃうかなっと思って。
あとな スタッフのウッチーも心配してんねん。あいつ、めぐちゃんのことが気になってるみたいやし(笑)」
「なんでうちのことなんて…」
この瞬間、恵に小さな恋心が芽生えた。
予想もしていなかった人からの好意。
でも悪い気はしない。
むしろ胸がときめき舞い上がる気分だった。
恵を家の前で降ろすと 車は静かに走り去った。
「びっくりした?(笑)」
「びっくりしすぎて死にかけた…」
「そこまでびっくりせんでもええやん」
「でもめぐちゃんに言うてしまったら もう誰かさんが変な心配して泣かんでもええしなあ(笑)
俺も誰にも手が出せんで
まあ一石二鳥ちゅうやつや(笑)」
公園のわき、この懐かしい場所に車は止まった。
「まだ怖いやんな…」
「怖い……でも、もう少ししたらできると思う」
「ホンマ?」
小さく頷いた。
「ほな待ってる」
とても申し訳ない気持ちがした。もっと私に勇気があれば…
「24時間365日、そのことだけ考えて待ってるわ(笑)」
「そんなんいやや(笑)」
「でも俺、こんなに誰かに優しくしたこと今までないでーホンマに」
「ありがとう…」
なんだか嬉しかった。だから、もう少ししたら…もう少ししたら…必ず……
自分自身と約束をした。達也とセックスをするのだ…。
次のライブから二人にはパスが渡され
チケットがなくてもライブハウスに出入りができるようになった。
関係者席であるライブハウスの一番後ろ、
30cmほどの段差があり
ロープで仕切ってある場所でライブを見るようになる。
そこからは達也の顔もよく見え
客の入り具合も一目瞭然だった。
時々メンバーのカメラで写真を取るように頼まれたり
それからライブハウスのスタッフやオーナーとも顔見知りになっていったのだ。
恵はローディーの内山と 次第にたくさん話をするようになり
美香の前でも口を開けば必ずウッチーという言葉が飛び出す。
「でも、やっぱり美香ちゃんはすごいわ
あの達也さんと付き合えるなんて。
どんな話してんの?達也さんと」
「うーん…バンドの話もあるし、世間話もするし…
でも達也さんって何も怖いものがないんやっていつも思う」
「確かに。あの人は無敵やわ(笑)ウッチーも怒られるけどやっぱりめっちゃ尊敬してるって言うてるし」
「ウッチーさん頑張り屋よね。すごいな」
「あいつはまだ ホンマに未熟やからTAKEの下で(もとで)もっと修行せなあかんねん」
それから間もなくしてだった。
恵とウッチーが付き合いだしたのは…。
それは達也が思っていた通りの展開だった。




