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エルメス

大好きな春がやってきて高校生になった。




また髪を伸ばそうかしら?




そんなことまで考えられるようになり




暖かい風の中で深呼吸をしてみた。




入学式の日から数人の友達ができて




なんだか素敵な学校生活になりそうな予感があり




嬉しかった。





達也は家業の手伝いで貯めたお金で




入学祝いにエルメスの時計を贈った。




美香が高校生になった1987年、




世間ではシャネルなどのスーパーブランドが次々に時計業界に参入する。




エルメスはいち早く参入を済ませていて




高級ブランド時計を持つというステータスがバブル期のOLの間で流行り




それがシャネルの時計プルミエールの人気にも火をつけた。





ブランド品を知らない美香が人生で初めて手にした




腕時計の価値について知った日、




達也のぶっ飛んだ行動に驚かずにはいられなかった。





その時に最高の瞬間、最高の物を。




それが達也の考え方で 代々続く裕福な新聞屋に生まれたことも手伝い




思いつきでお金を使うことが多かった。




進学校ではアルバイトは禁止。隠れて働く生徒もほとんどいなく





憧れた加代子の様な高校生活は送れなかった。





ただクラブ活動に手芸部があり迷わず入部した。





教わる前に母親が亡くなってしまいミシンを触る機会がほどんどなかったので




またとないチャンスの気がして入部を決めたのだ。




そこで和歌子ちゃんという違うクラスの友達もできた。




進学校ということもあり勉強の進み具合は早い。




数学なんかは一生懸命ノートを取るけれどその場では理解できない例題にもしばしばある。




バス通学にも慣れ全てが順調のように思われた。





気持ちいい夜風が吹く4月土曜の夜に




今年も達也と花見に出かけた。




一年で一番ロマンチックな季節ではないかと思えるくらい




夜桜のきれいさに儚さ(はかなさ)に胸がいっぱいになる。




木々のざわめきに心が揺れる。




桜に見とれる横顔が、月明かりに上品に輝くパールのネックレスが、小さな胸の膨らみが…




じりじりと達也の心を乱し始めた。




帰り道は無言で運転を続け





たった一つの強い欲望が ある建物の駐車場へとそのハンドルを導く。





「達也さん…?」





ここまで来て拒絶されるの恐れて





返事もせずに駐車場の車内で強く美香を抱きしめた。





それから




彼女の手を引いてホテルの一室の扉を開けた。





柔らかなベッドに並んで腰掛ける。




美香は達也を失いたくない一心だった。





会えなかった日々があんなにも寂しくて辛いものだとは知らなかった。





もう二度とあんな思いをしたくはない。





私があの人にあげられる 




たった一つのものとは…




そのことを考えた瞬間に体が震え始め




やっぱりとてつもなく恐かった。





でも私には何もない。




あげられるものは一つだけ。




自らにかけた強迫観念にも似た暗示が頭を駆け巡り




それが恐怖心をより一層煽る(あおる)




「ごっごめんなさい…ホンマにごめんなさい」




極度の緊張と恐怖心に勝てず




気が付くとそんな風に口走っていた。





「まだ恐い?」





優しい達也の問いかけにも返事ができず顔も見られない。





「最後までしないから沢山キスしていい?」






どうすることも出来なくてその後は強張る(こわばる)体を達也にあずけた。





達也の唇が身体中に及ぶ。




これはこの世で一番恥ずかしいとも思える行為で




背徳感(はいとくかん…後ろめたさ)を感じるのに




でも時折、どこか心地が良くて身体が熱い。呼吸が荒くなる。





達也はずっと欲しかったものが手に入りかけていることに




強い興奮を覚えた。




想像していた通りの柔らかい肌。




それは、まだ誰も触れたことがないから




こんなにも白く柔らかいのだろうか…。






美香はその日に起こった出来事の大きさに




朝方まで眠りにつくことができなかった。




真夜中過ぎに嵐のような春風に大きく揺れる木々のように




私は私を見失いそうで…





でも達也さんにだけは捨てられたくない。




この人がいないと私は幸せになれない。




行き着く思いはいつも同じだった。




「この人がいないと私は幸せになれない…」





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