憂鬱な暮れ
楽しかった夏休みは
あっという間に過ぎてしまい
気が付けばもう二学期の始業式を迎えていた。
それでも夏休みの間に色んなことがあり色んなことを覚えた気がする。
星野へは心を込めて手紙を書いて
げた箱に入れた。
「まだ星野君のことをよく知らないから沢山おしゃべりできる良いお友達から始めて下さい」
美香は加代子のアドバイス通りの文面を丁寧につづった。
季節が秋に移り始めても
相変わらず美香は恵と加代子と一緒にTAKEのライブに通っていた。
英語だけの歌の意味は分からなかったけど、
日本語の歌はなんとなく覚えて
恵と二人で口づさんだりそれなりに楽しかった。
ただ美香はあることに気づく…。
なんとなく学校の誰もが自分の名前を知っていて
恐怖に似た嫌な気持ちが芽生え始めていたのだ。
同学年の人はもちろん、
二年生や三年生まで…
目立つことなんて一切した覚えもないのに。
でも、だから学校ではもっと目立たないようにしなくては!
そんな思いにいつも駆られていた。
より控えめになってしまい
友達もさほど増えなかった。
用がない時は廊下に出ない。
教室から出ない。
人にジロジロ見られたくない。
他のクラスでのいじめの話なんかを耳にした時は
次は自分なんじゃないかという根拠のない心配をして
もし恵に嫌われてしまうことがあったならばこの世の終わり…
私は生きていけない…。
そこまで思い詰めるようになった。
毎晩、恵に何か変なことを言ったり嫌われる原因を作ったりしていないか
その日一日を振り返らないと眠れなかった。
一方、恵の方は
そんなつもりは微塵もなく(みじんもなく)
素直で心の優しい美香のことが好きで
むしろ、可愛くて有名な美香と親友なことが自慢だった。
そんな風にして一年で一番繊細な季節が過ぎようとしていた。
達也は何かあっても何もなくても電話をくれる。
いつしかその声を聞くたびに元気をもらえるから
電話を待つようになる自分がいた。
電話が鳴る度に達也かも知れない…。
そんな風にずうずうしい期待してしまう。
12月、吐く息は白く
体育では大嫌いなマラソン大会を控えていて
授業の度に校門を出て5km走る練習が繰り返された。
美香は最後から数えた方が圧倒的に早く、
夏休み過ぎから不良の仲間入りをした女子数人が授業をさぼる中でも最後まで完走しようと頑張った。
もしドベだったら…
もっと有名になってしまうかも知れない。
それだけは絶対にいや!
頭の中はその思いだけだった。
その願いが通じたのか
本番は決して良い順序ではないけれど最後から20位の辺りでゴールすることができ
ほっと安堵の気持ちに包まれた。
星野とは次の席替えでも席が近くなることはなく
全く話をする必要がなかった。
名簿順の男女4人のグループで座らされる
理科の実験室や美術室でも美香の名字の方が早い為
重なることがなかった。
良心が痛むような思いが時々したが
美香は今のところ
「災いを切り抜けられている」
そんな風に思っていた。