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期末テストと夏休み

中間テストから一ヶ月足らずで




期末テストが近づいてきていた。




今度は技能教科も加わり




試験は9教科にも及ぶ。




その事を知った時、




美香は今回はダメかも知れない…そんな風にすら思った。




それでも試験の範囲表が配られた日からコツコツと几帳面な勉強を始めた。




恵は美香の家に寄り、一緒に勉強をするようになった。




彼女の前回の順位は412名中328位だった。




親が忙しいのでその成績に対してとがめられる事もなかったのだが




良い成績を取った美香に影響されて勉強をする気になったのだった。




「テストが終わったら夏休みだし、ライブに行けるねん」




これが二人の合言葉だった。




恵が帰り



急いで夕食の支度をし




その後も美香は勉強を続けた。




学校でもらう わら半紙のプリントで不要なものを取っておいて



その裏面で漢字の練習をしたり



英単語の練習、数学の計算用紙として…




そんな風につつましく期末テストに備えて打ち込んだ。




外では降り続く弱い雨の音が静かな夜に心地よく響いていた。





蒸し暑く太陽が一段とギラギラ照り始めた頃





7月2日、3日、4日と三日間に渡り期末テストが実施された。




廊下をふらふらと歩く不良生徒の行動にも慣れ




昼食はパン屋のパンを楽しむ。




テスト期間だけの小さな楽しみが好きだった。




テスト二日目の下校の時には




仲間とたむろしている義人と見かけ




驚きと恐怖で心臓がキューっとなる感覚を覚えたが




義人は美香を見つけるとすぐに顔をそらして背中を向けた。




ホット安堵の気持ちが広がる。




なんだか嬉しかった。




テストの結果は




中間テストに引き続き




目を疑うような高得点だった。




保健体育は少し低かったけれど平均点もそれなりで何の影響もなかった。





達成感と充実感に満ちていたのだが…




終礼で家庭訪問の知らせのプリントが配られた時、




美香の顔は曇った…。




引っ越してからお父さんは一度も帰ってきていない。




あれからもう一ヶ月が経っていた。




家庭訪問の話はいつすれば良いのだろうか?




会社にでも電話をして欲しいの……?




それとも担任に父親は仕事が忙しいから家庭訪問は難しいと訴えればいいのか…?




これを解決出来なかったら楽しい夏休みはきっと来ない……。




そんな風に思えた。





例えば心を量り(はかり)に例えたなら




沢山の喜びも楽しみも




たった一つの心配で




その天秤てんびんは水平になってしまうのだ。





美香の心もそのたった一つの心配事で




重く傾いてしまった。





嫌々ながらも



早くそこから抜け出したくて





夕食の後、優がお風呂に入っている間に父親の会社に電話を入れた。






時刻は8時少し前…




引き出しから父親の名刺を取り出し




電話をかけてみると





父親は既に会社を出たと男の声で伝えられた…。





美香は電話の前で呆然とした……。





知りたくなかった真実……。




やっぱり父親はもう帰って来ないかも知れない。




ここに引っ越したのは




もう帰って来なくてもいいようにだったんだ……。




涙で視界が緩む。




ちょうど優がお風呂から上がったので




続けてお風呂に直行して




湯船の中で泣いた。





どうしてうちだけこうなの…?




お母さんが亡くなったあの日に幸せも失ってしまったのだろうか…?




どうしてうちだけなんだろう……




全ての事が悲しく思えた。




翌日の学校で




掃除の時間の前に




美香は担任に話しかけた。




「先生…」




「佐藤、どうした?」




「家庭訪問なんですけど…うちは父親の仕事の都合が付くか分からなくて…」



「そうか…」




「一応、訪問の予定を組むから

また都合悪いようだったら言うてや」




「はい」




一瞬、先生が



それなら佐藤の家は今回は見合わせよう。と言ってくれないか期待したけれど




そうはいかなかった。





数日後に家庭訪問表が配られた。





佐藤美香という自分の名前を見つけてため息をつく。




それでも下校後すぐに父親の会社へもう一度電話を入れた。




「美香?」




「あっお父さん…7月17日の火曜日に家庭訪問があるんやけど…」



「何時?」




「六時から…。無理やったらええよ。先生に言うし、先生も事情は知ってはると思うねんから」




「その日は夕方から得意先に行かなあかんねん。」




「分かった。先生にそう言う。うち、成績も生活も何も問題なし。大丈夫やねん。」




「そうか…。すまんな…また何かあったら会社に電話しーや。優はちゃんとやってんの?」




「うん。優はちゃんとやってるテストの点数も悪ないで」




「よっしゃ!わかった。」




「じゃあお父さんまたね」




「おう!またな」





学校で再び担任に家庭訪問の件を報告すると




父親との電話をもって




家庭訪問とするという事になった。




優の小学校の夏休み前の家庭訪問も同じ結果になり




なぜかホット胸をなでおろした。





それから職員室の前に貼り出してある自分の成績表を見に行くこともなく夏休みを迎えた。






朝はラジオ体操がある優を起こすことから一日が始まり




図書館に出かけたり




茶華道部で使う草花を取りに行ったり




夜には恵と長電話をしたり





それなりに楽しく過ごしていた。




恵とは初めて心斎橋へ洋服を買いに出かけた。




そこには可愛いものがありすぎて目が回りそうだった。




そして初めてスーパーではない




アイスクリームショップのアイスクリームを買って食べた。



店内にある可愛いベンチでさえなんだかすごく高くて良い物に思えた。




恵はデニム素材のパフスリーブのワンピースと水玉のカチューシャ、



髪を飾る赤色のリボン、パールのネックレス、黒いサンダルを買った。




美香は大人っぽい仕立ての紺色のワンピース、



同じく紺地にクラシックなオレンジのバラ柄が映えるシフォン素材のひざ下パンピース、



恵とお揃いの黒のサンダルを買った。





夕方には美香の家により




二人でファッションショーをしながら




ときめく時間を過ごした。




加代子は夏休みのアルバイトが忙しく両親と同じように朝からほとんど毎日出かけている。




恵は美香の家を尋ねることが増えていた。





冷蔵庫の食材を持ち出し




美香の家で一緒に料理をして夕食を食べることもしばしばあった。




その日も二人で夕食を作り優と三人で食卓を囲んだ。





八月になったら




もう一度買い物に行こう。





そんな約束をして恵みは八時半頃に美香の家を後にした。





沢山歩き色んな物を見れた一日を思い返しながら食器を洗う。




お米をかしてセットし




居間で夏休みの宿題を進めた。





お風呂の後は遅くまでテレビを見ようとする優を注意して




自分の部屋で壁にかかるワンピースを眺めながら真夜中のラジオの歌番組を楽しんだ。




カレンダーがふと視界に入り




ライブまであと2日…



と再確認をした。




回り続ける扇風機が美香の髪を揺らしている。






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