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告白

恵はやっぱり5月のライブに美香を誘った。




「美香ちゃんもまた一緒にどうかって姉ちゃんも言ってねんけど どうかな?」




「うん。行きたいなあ…。達也さんがチケット売ってくれはるって言うてたし…でもいくらなんやろ?」




「1800円やって。もし美香ちゃんお金なかったら うちが貸すよ。またオシャレして行こうや」




「お金大丈夫。あるよ……」




「ほな決まり!楽しみやわ~」




恵は本当に嬉しそうだった。





1800円か……。




食費のお金から1000円だけ借りよう…。美香はそう考えた。





その次の日の4時限目が終わって




クラス中が給食の準備に取り掛かり始めた時、





一年六組に 三年生の不良が二人現れた。




「佐藤美香いる?」




クラス全員が静まり返る。





美香と恵はトイレに行っていた。




教室に戻ろうと廊下を進むと二人組の不良に出くわす。




「佐藤美香?ちょっと用があんねんけど。すぐ終わるから焼却場まで来て欲しいねんけど…」




美香と恵の顔が青さめる。




顔も名前も知らない不良に呼び出された美香をクラスメートも心配な顔つきで見つめる。




「ちょっと話したい奴がいるねん。ほんまにすぐ終わるから、来て?」




「………友達も一緒にいいですか…?」




「ええよ」




とっさに恵も巻き込んでしまった。



「恵ちゃんホンマにごめんなさい!!」




「私はええねん。美香ちゃんが心配やし初めから付いていくつもりだったねん」




美香と恵は手をつないで




恐る恐る不良の後を付いていった。





ゴミ捨て場の焼却炉に続く道を体育館の裏から進む。





そこには3人の不良がいた。




外見からして決して交わりたくないたぐいの集団。




それに何よりも怖かった。





真ん中の背の高い男が口を開いた。




「俺と付き合えや」




あまりに突然の事で、美香には意味が分からなかった。




意味が分からないというよりも




その時、その不良の存在を初めて知ったのだから無理もない。



誰なのか名前すら知らなかった。




「…………」




「どうなん?」




「…………」



「まだ中学に入ったばっかりでなんにも分からへんのちゃう?」



違う男が口を挟んだ。



「じゃ、近いうちに返事してや」男がそういい残してタバコに火をつけながら焼却炉を後にする。




呼び出しに来た不良二人が




美香と恵に話しかける。




「あんたら毎日ゴミ捨てに来るやん、それを見てた義人が美香ちゃんの事 好きになってしもうてな…」




給食の後には20分間のそうじの時間がある。




単純に名簿順で区切っただけのグループがあり




そのグループで掃除場所をローテーションする。




名簿が続いている美香と恵は当然同じ班で教室のそうじのグループだった。




仲が良い二人は教室の大きなゴミ箱を一緒に持って焼却炉へ行く。




義人はそんな美香の姿をたった数週間で愛しいと思うようになってしまったのだ。





今日は三つ編みのおさげ髪、


ポニーテール、


ひとつ縛り、


二つ縛り、


一本縛りの三つ編み…



体育倉庫の付近から




どんな髪型をしても可憐な美香をずっと見ていた。





「あんまり怖がらんでもええよ。義人はいい奴やねんから。なるべく早く返事したってな」




と不良が笑いかけた。




美香は小さく小さくうなづき




恵と一緒に焼却場を後にした。





「なんやねん。あの人ら!いややわー。気にせんようにしようや」



恵は美香にそう声をかけ気丈に

振るまった。




美香はただうつむいて恵の腕に自分の腕を絡めた。




教室に戻るとクラスメイトは既に給食を食べ始めているところで




恵が戸を開けると皆が一斉に二人に注目した。




「どないしたん?」




クラスでも目立つ存在になりつつある一人の男子が声をかける。




「どうもせーへんわ」



恵が答える。





その日の給食をほとんど味わうことができなかった。





この日以来、




そうじの時間にゴミ焼却場に行くのを嫌がり




他の人に代わってもらうようになった。






下校の際も逃げる様に




人目を避ける様に恵と足早に帰り




登校の時もどこかビクビクしていた。




せっかく楽しくなりかけていた学校生活が一気に憂鬱なものへとなってしまった。





どうして私だけ………




そんな被害者的な思いにさえ駆られた。





学校帰りの食材の買出しに行くのも怖かった。




そうこうしているうちに




5月12日(土)…。




ライブの前日になった。




土曜日だという事もあり恵の機嫌は最高潮になっていた。




「明日、お昼からうちに来てな~そんでゆっくり支度しようや~」




恵は部活動の時間も私語が多くて注意されてしまったほどだった。




ライブは楽しみであるけれども美香の心にはあの告白の事がまだ重くのしかかったままだった。




いいえと返事をする勇気がなく




かと言ってあんな不良と付き合うのは考えられなかった。





部活の帰り道、商店街に寄ると




不良の女子生徒が数人うろうろしているのを見かけた。




まさか…自分を探しているのではないかという気さえして




美香は方向を変えて一目散に家路を目指した。




今日は、冷蔵庫にあるもので夕食を作ろう…カレーなら困らない……。




夕食のカレーを済ませて




食器を方付け




早めに宿題を終わらせてしまおうと机に向かっていた時に電話が鳴り響いた。




優は風呂に入っている。




夕方の事もあり怖くて電話に出られなかった。





呼び鈴が納まると




受話器を手に取ってこっそりとずらして置いた。




こうやって受話器をずらして少し上げておけば呼び鈴がなる事がもうない。




万が一、父親が電話をかけてきていたとしても つながる事はなく彼の耳に話中の音が届く。



受話器をきちんと戻し忘れた事にして謝ろう…そう考えた。




美香は静かな夜に宿題を全て終わらせ眠りについた。





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