第1話 駄女神の受難
風薫る5月。
久々に現代日本に帰還した俺は、特に目的もなく家を出た。
(……まあ。時系列的には“昨日の続き”…つまり俺の状況、只夢を見ていた――うん)
実は俺。
引きこもっていた。
就職したあり得ないブラック企業。
つい数日前。
我慢の限界を超え『退職代行』に頼んで自由を獲得したところだ。
解放されて3日。
だからこそ、ゲームに集中できていたのだが…
(まあ……金はないがな)
ポケットを無意識でまさぐる俺。
指先に感じる小銭たち。
(ひーふーみー……コンビニくらい行けそうだな)
改めて大きく深呼吸をし、地球の空気を吸い込む。
そして違和感。
「……えっ?――魔素!?……少ないけど…マジ?」
『……ねえ』
驚愕の事実。
なんとこの地球。
かなり薄いが…
あの異世界を構成していた大気の成分である“魔素”。
僅かながらに含んでいた。
(……もしかして……)
何か声が聞こえた気がしたが。
俺はそれをガン無視。
おもむろに異世界で得た魔法の基礎。
自らの体内に魔素を吸収させ始めた。
『ダメ―――――!!!』
「っ!?」
メキッ!!
空間が軋む。
世界の色が一瞬モノクロに支配される。
「うおっ!?」
慌てて俺は術式を破棄。
数瞬の時を経て、世界はいつも通りの色を取り戻していた。
(っ!?やべえ……薄いんじゃない――質が違うだけ……マジか…)
改めて俺はチートだ。
何しろ数千年という長きにわたり、あの異世界『ケイレス』を支配していた絶対的魔王を瞬殺するほどの超絶能力者。
つまり…
(魔力が!?――ゴクリ…これ、魔法、使えるんじゃ……)
『うーあー、だから駄目だってば!!』
――うるさいな。
なんだこの幻聴。
俺はおもむろに脳内で術式を詠唱してみた。
『……ヘルフレイム』
ドンッッッ!!
まるで核爆発。
俺を中心に、地獄が顕現。
俺は慌てて『保護術式』で感知できていた生命反応。
そのすべてに結界を構築。
転移魔法で自室に逃げ込み布団をかぶっていた。
※※※※※
けたたましく行きかう救急車と消防車。
平穏だった現実世界。
突如激しい爆発が、この地方都市をことごとく蹂躙しつくしていた。
『――現場です…見てくださいこの惨状…現在消防と自衛隊による救出活動が続けられています……あっ、速報です――えっ!?……死亡者――誰もいない???』
ジー…プツン
「……はあ。良かった――大量殺戮だけは避けられたみたいだな」
あの瞬間。
俺を中心とした半径1キロにはおよそ10万人の命があった。
咄嗟に展開した俺渾身の超絶保護結界。
慌てていたため複合的効果まで発動。
(うん――きっと病気や酷い怪我の人とかも……メチャクチャ元気になっただろうね――ハハハ、ハ)
おそるおそるテレビで確認してみたが。
どうやら死人はいないようだ。
現場から切り替わってスタジオの状況が流れていた。
テロップには『――この世の終わり?…不可解な都市消滅事件』とか……
あー、うん。
すまん。
※※※※※
『――被害状況をお伝えします。全壊・半壊の建物は12万戸、水道などのインフラはほぼ壊滅……予想される被害総額は2兆円を超えるようです――』
あれから5時間。
既に薄暗くなっている俺の部屋ではアナウンサーの報告がテレビから流れていた。
究極の破壊兵器。
――勇者。
この現実世界はその爆弾を抱えてしまっていた。
※※※※※
自室、布団の中。
俺は改めて“幻聴”と思い込みたかった駄女神とのパスを構築。
今の現状のすり合わせを行っていた。
「――あの…イシュリーン?」
『……………』
「えっと……ハハハ。――怒ってる?」
暗鬱とした魔力が俺の精神世界を埋め尽くす。
やべえ。
ガチで切れてる。
「コホン……女神イシュリーン様」
『…………なに?』
おう。
やっと答えてくれた。
「……えっと……誰も死んでない――そうだよね?」
『はあ。――相変わらず出鱈目ね。あんたの魔法』
あの異世界『ケイレス』
実は命の循環が世界構築の礎となっていた。
だからこそ有無を言わせずに他者の命を奪う事。
それは禁忌指定されていたんだ。
女神イシュリーンはその摂理を司る女神。
ポンコツ…
コホン。
少しずれているとはいえ、それだけは見過ごせないんだ。
「……セーフ判定――それでいいかな…」
『アウト!アウト!!アウト――!!!良いわけないでしょ!?この馬鹿!!』
伝わる怒りの波動。
そしてそれを上回る――恐怖の感情。
『グスッ…ヒック……神様に怒られちゃう……』
あー。
それはまずいね。
転生時、一度だけ出会った神。
あれはさすがの俺でも敵わない。
「アハハ……てかここ地球じゃん?――ワンチャン干渉外…とか?」
『っ!?』
途端に何かをつぶやく女神イシュリーン。
そして明らかに肩の力が抜けていく。
『……この世界の摂理――狂わさないなら褒美として認める――ですって』
「……は?」
『だからっ!!あんたは一応あの世界の救世主なの。だから戻って来れたし力も使える――認識しなさい』
うーむ。
どうやらお咎め無し。
そういう事だよね?
『……それから…』
「うん?」
何故か伝わる悲壮感溢れる暗鬱とした魔力。
俺は思わず身震いしてしまう。
『わたくし――『地球を守れ…その出鱈目からな』……グスッ――もう帰れないよ――』
俺の精神世界で響く女神の嘆き。
それはいつまでも続いていたんだ。
駄女神の受難。
まさに今、その幕は開かれていた(笑)
プレーシャーのない連載(笑)
心躍ります。
不定期でぼつぼつ投稿していきます。




