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根層2

変わらぬ毎日。砂漠化は止められていないものの、争いもなく充実した日々

学園の試験もあと2か月に迫っていた。その日はソリュのお兄さんが荷馬車で三人を送り届けてくれる予定で

試験までの残り僅かな時間を勉強に費やせるようにと最近では幼馴染たちも午後は仕事の手伝いではなく

勉強する時間に使うようになっていた



穏やかな夕日の下、休憩を取りながら解けなかった問題の答え合わせをする


「この問題、リーンの葉とチーの実の種を混ぜたらのところ」

「そこは、リーンの葉が晴れた朝に採ったものなら雨の朝に調合しないと効果がなくなるだろう」

「あ、そうか。実の夜と混合してた」

「実の夜は別の魔法だろ」


ルクスの疑問にアズが答えるのを見ながらおやつの木の実をかじるソリュ


「二人とも真面目だよねー」

「ソリュは分からないところないのかよ」

「あるよ。けどさ、休憩中は休憩しないと」

「もう、時間がないのにそんな悠長な」


更に乗った木の実がするするとソリュの口に吸い込まれていく

時間が迫ってきてぴりついているルクスとマイペースなソリュ

そんな二人のやり取りを笑いながら見ているアズ


そんな三人の頬を優しい風が撫でる



「ルクスーー!!!」



勉強を再開しようかと皿を片付けていると

近づいてくる声


ソリュの弟が走って近づいてくる



「どうしたの。」


いつもならまだ、家の仕事を手伝っている時間なのに

目の前までくるとゼエゼエと肩で息をしながら整わない呼吸のまま

ソリュの問いかけに答える


「ルク、スの…オヤジさ、んが」

「え?ルクスのお父さん?」

「ハア、ハア。倒れて…」



ソリュの弟の言葉にルクスが勢いよく走りだす

少し遅れてアズとソリュが


まだ呼吸の整わない弟は悲痛な声を出して後ろをついて来ようとするが


「あんたは、ゆっくりでいいから!」


ソリュの言葉にその場に留まり、2人はルクスを追いかける

街に着くと、みんな知っているんだろう。走れるように道を開けてくれて

たどり着いたのはルクスの家。真っ青な顔をしたルクスの父親の横にはオメガ

おろおろと今にも泣きそうな顔で立っているのはルクスの母親と

支えるように立っているソリュの母親


「オメガさん。どうなんですか」

「…最近無理して魔力を使いませんでしたか?

心臓の横の魔法核に亀裂がはいいている」


オメガの言葉に覚悟をしたかのように胸の前で組んだ手にギュッと力がこもるルクスの母

何かを察したかのように目が開き崩れ落ちるルクス


「ルクス!」


ソリュがルクスに駆け寄り、アズはただじっとオメガと患者を見つめる


「治らないことはないが…商会でエンジュは手に入りますか?」

「エンジュ……入るとは思いますけど」


いつもの元気なソリュの母らしからぬ歯切れの悪さで返事がくる

それもそのはず、エンジュは根層の民からしたら高価すぎて

手に入っても簡単に買える金額ではない。

買い手がいないものを商会で仕入れる訳にはいかないだろう


「仕入れてください!!」

「えっと、ルクス君エンジュってね」

「知ってます。でも…僕の試験のお金があります」


「ルクス!ダメ!」


繰り広げられる会話の意味が分からないのかおろおろするルクスの母親と

ルクスの意図が分かるソリュ親子


「父さんが倒れたのは僕のせいだ。

僕が勉強する時間を作るために無理をしたから」

「ルクス!でも!三人で試験受けようって!アズからもなんか言ってよ!!」


「ひとまず、今日明日でどうにかなることはない

ルクス、ここに薬を置いておくから忘れずに飲ませるように

飲ませ方は分かるな?」


「はい。オメガさん」




「病人の前で話すことではない。ルクスは詳しい話をお母さんにしてあげなさい

ソリュ、これはルクスが決めることだ。ソリュとアズは自分たちにできることをしなさい」



オメガの言葉にその場は一度お開きとなりルクスの家から出る


「なんで、着いてくるんだよ」

「……だって、アズは何も思わないの?」


街の端っこまで家に帰らずオメガとアズの後ろを付いてきたソリュに痺れをきらし声をかけると

目に涙を浮かべるソリュ。どんな取っ組み合いのけんかをしたって泣くことなんかなかったソリュの涙に

アズはぎょっとして立ち止まる。やり取りは聞こえているだろうけれどさっさと岐路に着くオメガ


もう暗い空の下どちらから誘うわけもなくその場に座り込む二人


「このままだと、ルクスは試験受けられないよね」

「まあ、そうだろうな」

「ルクスの気持ちは分かるんだよ。

私だって父さんが倒れたら同じ選択をする」



膝を抱え膝の間に顔を埋めながら喋るソリュの表情は分からないが

いつもよりも覇気がないのは確かだ


「アズだって、オメガさんが倒れたらそうするよね」


決めつけるようにソリュに言われるけど、いまいちピンとこない

そもそも、オメガが倒れたら助けられる者は根層にはいないだろう


「…師匠が言ってた俺らにできることだけど」

「こんな時に勉強の話?」


アズの言葉に、顔を上げたソリュがアズを睨む


「いや、そうじゃなくて」


ソリュの目を静かに見ると更にきつく睨まれながらも言葉を続ける


「なにか、作って売ってみるとかさ」

「何かって何よ。ここじゃあ生活でいっぱいいっぱいだから

あんな大金すぐには稼げないわよ」


なにかはしたいけど、ソリュの言う通りで根層で他人に施しをできるほど

生活に余裕のある人はいない

ただ、自分もソリュも何もせずに勉強に励めるとは思えない


「薬草入りクッキーとかどうかな。

師匠に砂糖を分けてもらって。そしたら本を読むときに子供たちを通して少しは

足しにできるだろう。」


「それなら、少しは…じゃあ私は兄弟たちと家の近所の子たちにお願いして

今度の読み聞かせはお金をもってきてくれるよう噂を広めてもらう

クッキー作りはいつにする?」

「師匠にお願いしてみないと分からないけど

多分ダメとは言わないと思うから、明日の勉強時間に作ろうか」


「分かった。じゃあオメガさんがいいよっていったら魔法で知らせて」



不安そうにしていたソリュもやることが見つかったからなのか

先ほどまでとは違い顔に笑顔が戻っていて

張り詰めた空気がなくなったことにアズも安堵する


話し始めてから相当な時間が経っているようで、明かりの消えて家も目立つ

一応ソリュを家の前まで送っていくと、ソリュのお母さんが夕飯を持たしてくれて

大事に抱えると、オメガの待つ家に急いで戻る


「ただいま」


明かりが漏れる家に着くとペンと紙に何かをかきこんでいるオメガ

アズの声にも反応しないのは集中しているせいだろう


「師匠、ソリュの母さんから夕飯もらったから食べよう」

「ああ。遅かったね」


急いで帰ってきたからまだほんのり温かいスープとしょっぱく煮た動物の肉を

皿に盛っている間にオメガはテーブルの上の紙やらペンやらを片付ける


いつもよりだいぶ遅くなった夕食を二人でいただく


「師匠、お願いがあるんだけど」


寡黙なオメガと夕飯の席で会話が弾むことはない

ただお互いの言いたいことや、勉強の話がほとんどだ


アズの言葉にパンをスープにつけようとしていたオメガの手が停まり

アズと視線を合わす


「家の砂糖を分けてほしいんだけど」


「砂糖?何に使うんだ?」

「ソリュと俺で薬草入りクッキーを作って広場の読み聞かせの時に

売ってみようと思って。」

「ふーん。好きにしていいよ。

家の中のものは、アズのものでもあるんだから」



オメガから許可をもらったアズは先ほどまでちびちびと食べていた

夕食を急いで口に入れると


「師匠ありがとう!ごちそうさま!」


忙しなく自室に引っ込んでいく


随分と大人びてしまったかもしれないと、ルクスの父を見る目で思ったけど

まだまだ子供っぽいところのが多いなとアズの自室の扉を横目にみながらオメガは口元を緩めた



自室に戻り、ソリュに魔法で伝えると直ぐに返事が戻ってくる

今までまとめたレシピ集を引っ張り出すとその中から砂糖を使っても小銅貨5~6枚で売れそうな

お菓子を探す。量も考えるなら木の実も入れたクッキーが丁度いいだろう


この世界の通貨は小銅貨→銅貨→小銀貨→銀貨→金貨→白金貨


となっていて根層で使用するよくて銀貨までだ

普段の生活で使用するのはほぼ小銅貨でパンなら小銅貨2枚新鮮な肉なら銅貨2枚

干し肉なら銅貨1枚が相場である


明日一度売ってみて、改善してみるのもいいかもしれない

机の上にレシピを丁寧に置きローソクの灯を消す


訪れた暗闇と共に疲労感が重くのしかかった


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