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カチコミ、突入、Anymore

ラボ入口の重圧な防爆扉の前には、澱んだ空気と共に暴力の気配が濃密に詰まっていた。

総勢三十名。黒いフェイトコートを羽織り、その下には仕立てのいい黒スーツと、感情を塗り潰す黒サングラス。このイエローエリアにおいて、その出で立ちはどこからどう見ても組織化されたギャングのそれだった。彼らが無造作に、かつ習熟した手つきで保持している得物は「スイーパー」。近距離制圧に特化したその火器を手に、この場にたむろしている時点で、彼らが望んでいるのは対話ではない。ここでの濡れ仕事ウェットワークスを完遂すること、それだけが彼らの脳内にあるすべてだった。

その連中のさらに後ろ、守護神のごとく控えているのが「ウォーカー」だ。トライアンフ社製のガーター。警備用として設計されたその機体は、全高

五メートルに達する巨躯を誇る。見上げるような鋼鉄の質量が、背後の影から冷徹なプレッシャーを放っていた。駆動系がアスファルトを噛むたびに、重々しい金属音が足元から伝わってくる。

「……ありゃ、カーライルの飼い犬どもだ」

廉が低く、忌々しげに吐き捨てた。彼は背負ったゴルフバッグの重みを直す。その中には、ウッドでもアイアンでもなく「降魔刀」が収められていた。といっても、この世界においてそれは日本刀の単なるブランドに過ぎないが、その頑強な造りと切れ味は、廉のような使い手にとっては信頼に値する実利的な道具だった。

「ねえ、あのガーター。奪えないかしら?」

フィンの視線が、五メートルの巨躯を誇るガーターに向けられる。彼の脳内ではすでに、奪取した後のタクティカル・シミュレーションが幾つも描かれていた。

その後ろで、クフィルがすでに指先を虚空に踊らせ、クラッキングの構えをとる。網膜に投影されたコンソールは、すでにガーターのセキュリティ・プロトコルを捉え始めていた。

「……無理は言わないでほしいけれど。でも、この手の作業機器はスタンドアローンで運用されることは想定されていない。外部ネットワークの認証プロセスがある以上、必ず入り口はある。防壁があったとしても、この手の普及モデルに、僕の手腕で破れないレベルのものは積み込んでいないはずだよ。コストが見合わないしね」

クフィルの冷静な分析は、フィンにとってのゴーサインだった。

フィンは周囲の喧騒に気配を溶け込ませながら、ゆっくりと歩き出す。スラックスの後ろに回したのは、ライデン社がかつて世に送り出した名作、風外見のリボルバー「R6u」だ。千早ブランドの銃を使わない彼に対し、「愛社精神を疑う」などという陰口は社内に絶えない。だが、フィンはそんな雑音を、これまで積み上げてきた圧倒的な「実績」という沈黙で封殺し続けてきた。道具は馴染むものを使えばいい。それが彼の鉄則だ。

(……多分、あいつらのタイプXは最低限のインプラント程度だな)

フィンのIANUSによって拡張された視界には、連中が身につけている諸々のアウトフィットの宣伝タグが五月蝿く飛び込んでくる。彼はあえて広告フィルターを弱めに設定し、その宣伝画像に付随するデータから、敵の練度と神経系の反応速度を見極めた。見落としはない。

「今日はここで工事かい、ご近所ネイバー。ちと酔い醒ましに付き合ってくれよ」

フィンは、死地へと踏み込んでいるとは思えない軽快な、しかし底冷えのする声を放った。

目に映る以上の危険はない。そう見切った瞬間、彼は互いの間合いに無造作に踏み込んだ。

サングラスの奥で、男たちの瞳が驚愕に揺れる。

だが、彼らがスイーパーの引き金に指をかけるよりも早く、世界は加速した。

抜く手も見せぬ、R6uの早撃ち。

銃撃の閃光が、狭い通路をストロボのように照らし出す。一呼吸。そのわずかな時間の中で、フィンは魔法のような手捌きでリロードを完了させる。

乾いた銃声が十回響き、それと同時に十人の黒スーツが、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

「――っ、野郎!」

残った連中が狼狽し、銃口を向けようとした瞬間、フィンの背後から「風」が吹いた。

廉だ。

彼は、ゴルフバッグから刀を抜くことさえせず、その重厚な質量ごと間合いの外から振り下ろした。本来なら量産品の刀が収まっているだけの筒だが、廉の身体能力がそれを振るうとき、それは物理法則を歪めるほどの衝撃波へと変換される。

ドォォッ、という空気を引き裂く重低音。

不可視の槌に打たれたかのように、さらに十人の男たちが後方へと吹き飛ばされた。壁に激突し、あるいは折り重なって床を転がる彼らに、もはや反撃の余力はない。

残ったのは十名。

彼らが死に物狂いでスイーパーの反撃を開始しようとした、その時だ。

「ダメでーす」

戦場の熱を凍らせるような、涼やかな声が響いた。

シスター・アオが、まるで空間の隙間を縫うように、無造作に敵陣へと「侵略」した。

その動きに躊躇はない。その手は慈悲深い祈りのためではなく、精密な破壊の道具として振るわれる。

シュ、シュシュッ。

鋭い風切り音と共に、アオの手刀が閃光となって空を裂く。

彼は黒スーツたちの命を奪うことさえせず、ただ、彼らが身につけていた「ネクタイ」だけを、次々と鮮やかに切り落としていった。

コンマ数秒の静寂。

喉元に冷たい感触を覚えた十人の男たちは、一歩も動けなくなった。ネクタイを斬る精度で、自分の頸動脈が容易に断たれていたはずだと、本能が警鐘を鳴らしたからだ。戦意は完全に粉砕された。

僅か数秒。

フィン、廉、アオ。この三人によって、五メートルの巨躯を誇るガーターを含む総勢三十名の集団は、一発の反撃も許されぬまま完全に無力化された。

「……さて」

フィンが、R6uの熱を逃がすようにシリンダーを戻した。

背後のガーターも、クフィルのクラッキングによってシステムを沈黙させ、今は物言わぬ鉄の彫刻と化している。

一行は、倒れ伏した男たちを一瞥もせず、ラボの奥へと歩を進めた。

目指すは、地下最深部――「育児室」。

この血と硝煙の匂いが漂う入口の先に、どのような歪んだ情景が広がっているのか。彼らはそれを確かめるべく、闇の中へと踏み込んでいった。

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