第20話 ヒロインとヒロインと主人公
清衣は図書室の隅で泣いていた。
大きな本棚の後ろに隠れていて、さっきは見つけることができなかったわけだ。
「あちゃー、やられたね」
琥珀がほんの少し悔しそうに言う。
この場の空気を少しでも緩和しようとしていることはなんとなくわかった。
清衣の姿が見えると、夢菜はすぐに頭を下げた。
「静野さん、その……ごめんなさい。私のせいでこうなったから……」
「……ううん」
まだ目に涙を浮かべる清衣は、違うんだと首を振る。
「立花さんのせいじゃないよ……ただ、すぐに逃げ出した自分が……情けなくなっただけだから」
「でも、原因は私が――」
「こんなことで逃げて、泣いちゃうなんて……わたし、弱いよね」
自嘲気味に笑う清衣。
全然そんなことないのに、自分を追い込んで、ギリギリまで追い詰めて――。
「静野さんは強いわ」
「……」
何か声をかけようと口を開きかけたところで、夢菜が言った。
「私、静野さんに嫉妬してたの」
「わたしに?」
「気づいてないわけ? カズはあんたのことが好きなのよ! 私がこれだけアプローチしてるのに、カズはあんたのことを――」
「――え!? か、カズ君が!?」
それは本気で驚いた声だった。
朝の静かな図書室に、静野清衣の大声が一瞬で広がる。
「あんたは中学の頃から魅力的だった。私だって、ほんの少し嫉妬するくらいにはね。本気で気づいてなかったわけ?」
「わたしは……ずっとカズ君のことを――」
「そう、カズ、あんたもよ。静野さんだって、あんたのために高校デビューして、わざわざ転校してきた。二人は両想いなの」
夢菜は眉尻をつり上げ、怒ったように、悔しがるように、悲しむように告げた。
清衣と俺と視線が絡み合う。
ずっとすれ違い続けてきた、中学から今日までの約2年間。
今やっと、お互いにわかり合えたような、そんな気がした。
「普通誰でもわかると思うんだけどな~」
琥珀が小さな声で呟く。
そして夢菜は肩の力を抜き、溜め息をこぼした。
「私、今日で生徒会長を辞めるから」
「「は?」」
俺と琥珀の反応が重なる。
ここでいきなり何を言う?
「最後に生徒会長は性格の悪い奴だって全校生徒に流して、全てを終わりに――」
「そんなことしないで!」
責任の取り方にしては重すぎることを言う夢菜に対し、声を上げたのは被害者の清衣だった。
「立花さんが生徒会長じゃなかったら、この学校は終わっちゃうよ」
涙を拭き、夢菜にまっすぐ向き直る清衣。
そしてそのまま――。
「抱き締めちゃった」
琥珀の一言が、この状況の全てを表していた。
清衣が夢菜を優しく抱き締め、お互いに涙を拭き合う。
俺と琥珀は蚊帳の外。
この二人の間に、大きな変化があったことは確かだ。俺が何か発言するような機会は一切なく、清衣と夢菜の抱擁で全てが解決した。
夏休み前、最後の部誌は部員3人による小説の連載だ。
まずは夢菜の短編小説。
三部作の最後ということで、注目度も高いだろう。
エンディングでは、カズと夢子は結ばれなかった。お互いに違う道を進んでいこうと誓い合い、関係性が発展することはなかったのだ。
清衣はファンタジー小説の続編ではなく、自分の過去を題材にしたノンフィクションを掲載した。
ひとりの陰キャ女子が、ある陽キャ男子に憧れ、性格を変えてまで高校デビューする物語。
だが、最後に主人公の陰キャ女子は元に戻っている。
自分のありのままの姿が受け入れられ、愛されていることを知ったからだった。
そして俺。
陰キャ主人公のバトルものだが、かなりよく書けたと思っている。
彼は知っていた。
陰キャは孤独なんかじゃない。自分の世界を愛し、自分の世界で生きる孤高の存在なのだ、と。
図書室での一件から、清衣と夢菜は下の名前で呼び合う仲になった。
夢菜のせいで俺と清衣が両想いであるということが判明したわけだが、まだ関係性が急速に発展するようなことはない。
「今日もボッチ飯?」
清衣は過去を知られたことで、以前よりも自然体になった。
無理に話を合わせたり、行動を共にしたりするようなことはなくなり、好きな時にひとりの時間を楽しめるようになっていた。
周囲の友達もそれをしっかりと理解していて、単独行動が原因でハブられるなんてことにはなっていなかった。
「そういう清衣こそ、ボッチ飯に来たのか?」
「うん、そんなとこ」
中庭のベンチ。
お互いに声が届く距離にいるが、ボッチ飯なので隣には座らない。
絶妙な距離感。
だがこれがよかった。
「あ、夢菜ちゃん」
「ちょっと清衣、ちゃんと肩くっつけて座りなさいよ! 私が引いて応援するって言ってるんだからね!」
どこからともなくやってきた夢菜は、笑いながら清衣の隣に腰掛ける。
「カズもしっかりしなさいよ! デートに誘うとかしたの?」
「いや、してないけど」
それを聞いて、夢菜がちっちっちと首を振る。
「いい、夏休みになったら文芸部の合宿第2弾をするわよ! 今度はちゃんとしたコンテストに応募するために小説を書くの」
「それ、いいね」
「でしょ」
すっかり仲よしな清衣と夢菜。
きっと今後、俺と清衣の関係は発展するだろう。
また二人で映画館にも行きたいし、本屋にも行きたい。
だが、今はまだ。
同じ文芸部の仲間として、夢菜と琥珀と、楽しくやっていきたいなと。
そんな気楽なことを考えた。
【あとがき】
こんにちは、エース皇命です。
今回の作品は陰キャと陽キャに焦点を当てたラブコメでしたが、楽しんでいただけましたか。
本来のプロットは40話分作っていて、後半は琥珀がヒロインレースに加わる、という内容のものでした(実はちょっと伏線があった)。
とても盛り上がりそうだったのですが、メインヒロインの清衣と夢菜よりもインパクトが大きくなる可能性があったので、清衣と夢菜が仲よくなるというところまでを書いて完結とさせていただきました。
読者のみなさんは、清衣と夢菜、どっちのヒロインが好みでしたか?
↓エース皇命のラブコメ
『俺を振った元カノがしつこく絡んでくる。』
『メインヒロインとの恋愛フラグを全部ブチ壊した俺、サブヒロインと付き合うことにする』
『悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件』




