第19話 高校デビューってなんだおい
今回の件に関しては、本気で感情が昂っていた。
近くにいた陽キャ女子の方に急接近し、話しかける。
「清衣はどこだ?」
「うわ! びっくりした~。え、陰君じゃーん。話してるとこ初めて見た~」
どうやら、俺の今日までの陰キャの努力は間違っていなかったらしい。
場違いかもしれないが、ちょっとした達成感を覚える。俺、陰で陰君って呼ばれてるんだな。
「そんなことはいいから、清衣はどこに行った?」
「知らないよ。ただ、中学の時のこと聞こうとしたらさ、教室を走って出てったから~」
「そうか……」
陽キャ女子の表情を見る限り、いつも通りというか、彼女自身も清衣が逃げ出したことに関して驚いているというか。
「清衣に酷いこととか言ってないよな?」
「え、なんで~? むしろ嬉しいけど? だってぇ、中学の時は静かであんまり友達いなかったんでしょ? だったらウチらが清衣ちゃんを独占してるってことじゃ~ん。マジ最高」
「……そうなのか?」
「男としても、中学時代に誰からも手を出されてない女の子の方がいいって思うっしょ~? それと一緒だよ~」
「なるほど」
変な話だが、納得してしまう。
彼女の周囲にいた清衣のいつメンも、同意するように頷いている。
清衣の過去の漏洩は、思っていた以上に好印象だった、ということだろうか。
「わかった。いきなり話しかけて悪い」
「別にいいけど~。てか、陰君ってそんなしゃべるタイプだったんだ~。また今度話そ~」
「……あ、はい」
次に俺が向かうべきところは、清衣のいるところだ。
清衣は努力して、高校で陽キャデビューした。
俺も同じく、努力して陰キャデビュー。
だから彼女の気持ちはよくわかる。
過去の黒歴史は絶対にバラされたくないのだ。
「あ、カズっち。清衣ちゃんの噂、聞いた?」
廊下を走っていると、少し焦った様子の琥珀と遭遇した。
「聞いた。今は清衣をさがしてる」
「あたしもだよ。この噂流したのって、夢菜だよね」
「そうらしい。だけどまずは、清衣を見つけないと」
「うん」
ここからは琥珀と協力して清衣をさがす。
学校は限られているから、清衣がいそうなところを潰していけば、すぐに見つけられるはずだ。
まずは文芸部の部室に足を運ぶ。
「いないね」
「だな」
清衣は見つからない。
今度は図書館。
「いないね」
「だな」
どうしよう。
もうどこに行けばいいのかわからない。
これ以上清衣が隠れていそうなところなんてないぞ。
「……こうなったら、まずは夢菜のところに行こう」
「そうだね。今回に関しては……やりすぎだよ……」
夢菜は必ず生徒会室にいる。
もうここは自室のような感覚なんだろう。
勝ち誇った笑みを浮かべながら、会長席に腰掛けていた。
「夢菜!」
「あらあら、カズじゃない」
「清衣のこと、夢菜が――」
「噂を流したのは私よ。だから何?」
「……お前、なんでそんなことをした?」
「だって……」
ここで夢菜が口ごもる。
どうして清衣の過去を流したのか。
清衣が隠したがっていた過去を。
「嫉妬してたんだよね」
琥珀が口を開く。
その言葉に、夢菜の表情が歪んだ。
「夢菜がそんな汚いことする必要ないと思うけど」
「……私は……」
最初の威勢のいい様子はどこへ行ったのか。
衰弱したように、うつむく夢菜。
「私にもよくわからないの。琥珀の言う通り、嫉妬なのかもしれない……でも、私はただ……」
「清衣をさがそう」
俺は夢菜の真正面に立っていた。
「自分の気持ちを清衣にぶつけるんだ。そして、ちゃんと清衣に謝れ」
「……もう遅いわ。噂は全学年に流したし、今ではほとんどの生徒が――」
「そんなことはどうでもいい! まずは清衣と顔を合わせて、話すことの方が大切だろ!」
「カズ……」
夢菜が何か言う前に、俺は動き出していた。
手首をつかみ、そのまま生徒会室の外に連行する。
俺たちには、お互いにしっかり向き合うことが必要だ。
俺と夢菜と清衣。
思い返してみれば、すれ違いが多かった。
夢菜とは一度付き合い、別れている。
清衣は何も言わないまま中学を去った。
そして、高校で再会した。
俺たち3人は、運命の赤い糸で結ばれている。
そう思うのは、俺だけだろうか。




