第17話 キスとかはしない映画館デート
「デートみたいだね」
映画館まで清衣と並んで歩く。
集合場所は映画館の最寄り駅だった。
そこからは徒歩10分。
清衣はセクシーさを強調したショートデニムパンツに、腹出しコーデ。かなり攻めた私服だった。
肌の露出が多すぎて、どこを見るべきなのかわからなくなってしまう。
「男女が二人きりで歩いていたら、デートってことになるのか?」
「そうだと思うよ」
「なら、これはデートなのかもしれない」
傍から見て逢引きであるのなら、それは間違いなく逢引きだ。
だが、俺にとってのこのデートは、普通のデートの何倍も価値があり、意味がある。
ずっと引き出し損ねていた清衣の本音。
今回のデートを通して、映画鑑賞を通して、知りたい。
大好きなファンタジー映画を観れば、前よりも本心をさらけ出してくれるかもしれないし、自然体な清衣を見せてくれるかもしれない。
そんな期待があるからこそ、今日の俺も服装にはそれになりに気遣っている。
陰キャに対して悪意はないが、少なくとも休日に陰キャオタクの少年が着るようなものではないと言えるだろう。
映画を観ている間は、特に何も起こらなかった。
恋愛的な意味でドキドキするシーンはなかったし、感動して涙を流し、お互いに顔を見つめ合ってキスをするなんていうシチュエーションにもならなかった。
俺たちは真剣に映画と向き合ったのだ。
登場したキャラクターが何を考え、何を感じ、何を求めたのか。
物語の最後では彼らはどんな成長を遂げたのか。
派手なアクションにテンポのいいかけ合い。
2時間の映画としては完璧な流れと完璧なエンディングで、観客の心をグッとつかんできた。
「これはヒット間違いなしだな」
「1作目より2作目の方が面白い映画って珍しいよね」
「貴重な成功例だ」
そして思ったが、やっぱりファンタジーは素晴らしい。
あの圧倒的スケール感。
独特の世界観に、彼らのこれまでの歴史を彷彿とさせる劇中の音楽。
――ファンタジーが書きたい。
ふと、そんなことを思ってしまった。
実は今俺が執筆している小説のジャンルはファンタジーじゃない。
『陰キャの、陰キャによる、陰キャのための世界征服』という、陰キャバトルものだ。
だが、こうして壮大な世界観で展開されるファンタジー映画を観たことにより、頭に浮かぶ物語の構想がファンタジーチックなものばかりになってしまった。
とはいえ、せっかく今まで書いていた陰キャ作品を放棄し、新しい作品に手を出すというのも気が引ける。
「清衣のファンタジー小説、俺も作るの手伝っていいか?」
「え?」
気づけば、そう提案していた。
「細かい世界観を考えたり、キャラクターの設定を考えたりするだけだ。執筆自体は清衣がするとして、世界観の構築を手伝わせてほしい」
「……もちろんいいよ。それじゃあカズ君は、今日からわたしの助手だね」
「そういうことになるな」
映画館を後にしながら、俺たちは自分たちの作品の話に花を咲かせていた。
映画館デートは、映画を観て「はい終わり」じゃないのが普通だ。
2時間の映画が終わり、時刻は昼の12時25分。
せっかくだから昼ご飯を一緒に食べよう。
ということで、俺たちは映画館近くの安いファミレスに足を運んでいた。
話題は清衣の書く小説についてだ。
俺も助手としてサポートするということになったので、本格的に内容を考えていくフェーズに入らなくてはならない。
多分だが、このままだと俺の原稿も清衣の原稿も部誌の発行には間に合わないだろう。
もうすぐ完成するはずの夢菜の小説だけ載せておくしかなさそうだな。
「これ、世界観とキャラクターの設定。ちょっと恥ずかしいけど……読んでみて」
頬を赤らめる清衣は、なんとも可愛らしい。
「これは……」
資料に目を通してみて気づく。
――主人公のモデルは清衣自身だ。
まず、名前がすごく似ていた。
スーイなんて、明らかに自分の名前から考えている。
そして彼女の性格は内気でおとなしい。
それはまさに、中学の頃の、俺が憧れた清衣の性格である。
「自分がモデルってわけじゃないからね」
付け加えるように言う清衣だが、それには無理があるだろう。
どう考えても、これは中学時代の清衣だ。
そして問題はヒーロー。
この物語における男主人公だが――。
――俺だ。
いや、正確に言えば中学の頃の俺だ。
明るく、リーダーシップに満ち溢れていて、物事の中心に立つような目立つ存在。
それがかつての俺だった。
キャラクターの名前はカズー。
決定打となったのはこの名前である。
彼は王国の騎士団長という立場の存在でありながら、気さくで話しかけやすいと記してあった。
だが、そんなカズーには婚約者がいるらしい。
その婚約者というのが、とんでもなく美人で、明るくて、国民全員から愛されるような聖女ユメリア。
まあこれは、間違いなく夢菜をイメージしているんだろう。
ページの下のメモには、主人公が騎士団長カズーに憧れ、国を代表するような聖女になる、という簡単なプロットが書いてあった。
「そうか……」
これはフィクションでありながら、ノンフィクションだ。
清衣の体験をもとにしながら、このキャラクターを作っている。
もしこの物語の流れが、彼女の中学から高校までの軌跡を表しているとするなら……清衣は俺に憧れて、高校で陽キャデビューしたということになるのではなかろうか。
「清衣……俺はその……てっきり……」
「言わないで……まだ」
「いや、実は俺も――」
――清衣に憧れて陰キャデビューしたんだ。
そのセリフは言えなかった。
清衣は俺に憧れて陽キャデビューし、俺は清衣に憧れて陰キャデビュー。
お互いの気持ちが通じていたのか、それともギリギリで噛み合わなかったのか。
この日、これ以上の会話に踏み込むことはできなかった。




