断章1 ヒロイン同士の語らい
文芸部の合宿初日の夜。
カズがひとり、リビングのソファで寝静まる頃。
家の住人である夢菜と夢葉は各々の部屋で眠りにつき、清衣と琥珀は和室に布団を敷いて横になっていた。
もとはまったく親交のなかった二人だが、今回の合宿を通して、琥珀の方から清衣に話しかけることが多く、以前よりもかなり打ち解けていた。
清衣にとって、琥珀が夢菜よりもずっと親しみやすい存在になったことは当然だろう。
「ねね、布団くっつけて寝ようよ」
「……いいよ」
琥珀は距離感が近い。
これぞ生まれながらの明るいキャラなのかと、清衣は戦慄する。
少し遠慮しながらも、清衣は布団を琥珀の布団のところまで引きずり、ごろんと横になった。
「夢菜がいろいろとごめんね~。静野さん、結構遠慮してるでしょ?」
「そんなことないよ」
「嘘つけ~」
お腹をこちょこちょと触ってくる琥珀に対し、清衣は苦笑いする。
「まあ確かに夢菜は悪女っぽいところがあるし、怖いかもしれないけど、根っからの悪女ってわけじゃないから安心して」
「うん」
「中学の頃から一緒だから知ってると思うけど、夢菜って完璧超人っていうか、なんでもできちゃうじゃん?」
「そうだね。ほんとにすごいと思う」
「でもね、それは別に天才だからとかじゃなくて、全部夢菜の努力なんだ。中学の時、夢菜が放課後ひとりで残って勉強してるの見ちゃってさ。1番になればお母さんが褒めてくれるからなんでも頑張ってるんだ、って」
「……」
「まあでも、才能があるのは間違いじゃないか。普通、努力したからってそう簡単に1番になれないもん」
「そうだよね……立花さんは、いつもすごい」
天井を見たまま、清衣が小さな声で呟く。
そしてゆっくり、隣で横になっている琥珀に視線を送った。
「わたし、ずっと立花さんに憧れてたんだ。綺麗で優秀で、堂々としてて、カズ君にふさわしくて……でも、だからこそ、ずっとコンプレックスだった……わたしは暗いし、可愛くないから……」
「静野さんは可愛いと思うけどな~。ていうか、中学の時から美少女だったじゃん」
「そんなことないよ」
「んー、謙虚なヤツめ~」
琥珀が清衣の方に寝返りを打つ。
二人の視線が絡み合った。
「静野さん……ううん、清衣はカズっちのこと、好きなんでしょ?」
いきなりの質問。
しかし、覚悟はできていた。
「うん、わたしはカズ君が好き」
「やっぱりね――って、まあ誰でもわかると思うけど。カズっちって、幸運な男だね~。夢菜と清衣っていう、超可愛い女の子二人から好意を向けられてるなんて」
「立花さんも、やっぱりまだカズ君のことが……」
「未練たらたらだよ。カズっちに振られた側だからね~。あーあ、あたしもカズっちのこと好きになっちゃおうかな~」
僅かに開いた襖。
その隙間から、夢菜は二人のやり取りを盗み聞きしていた。
わかっていたことではあるが、清衣もカズのことを想っていた。
本人の口から放たれる、好きというセリフ。
実際に耳にすると、複雑な感情が夢菜を襲ってくる。
カズが清衣に惹かれていることくらい、夢葉はわかっていた。だからこそ、焦燥感と嫉妬が混じり、彼女の中で蠢く。
「何してるの?」
「――ッ!」
太ももをツンツンされ、小さな声を掛けられる夢菜。
驚きはしたが声までは出なかった。
「夢葉、もう遅い時間でしょ」
「むぅ。夢葉はもう中学生だもん。10時は起きてるもん」
「そんなムッとしないで。いい?」
頬をぷくっと膨らませる妹を抱え、自分たちの部屋に戻る夢菜。
そこまで広い家ではないので、夢菜と夢葉の寝室は一緒だ。
急に部屋を出ていった姉のことが気になり、夢葉がこっそりついてきてしまった、というわけである。
「お姉ちゃん」
「なに? もしさっきの覗きのことで言いたいことがあるなら――」
「あんまり清衣お姉ちゃんをいじめないでね」
「……」
妹からの忠告に、夢菜は言葉を返すことができなかった。




