第13話 合宿=お泊り会ってことだよね
せっかく文芸部を作ったわけだが、特に活動せずに1ヶ月がたとうとしていた。
結局のところ、第1回の活動が終わると、誰も部室に来なくなったというのが正しい。
無責任にもほどがあるかもしれないが、誰も来ないならやることもないよなということで、俺も足を運ばなくなってしまったのだ。
「どうして呼び出されたか、もちろんわかってるわよね?」
「文芸部のことだろ?」
せっかくの放課後が、生徒会長の呼び出しによって潰れる。
自分がほぼ100パーセント悪いにしても、俺にとっては放課後の1秒1秒が価値のあるものだと考えれば、夢菜の罪は大きい。
夢菜はお行儀悪く机に足を乗せ、女王様のような表情で俺を見ていた。
「せっかく協力してあげたのに、これだと活動不足で廃部になるわよ、文芸部! それでもいいわけ?」
「それは困る」
せっかく清衣と本のことについて語り合える機会だというのに。
清衣が部室に来ないのはおそらく夢菜たちが原因だと思うが……。
「だったらちゃんと活動考えなさいよね! それに、ただ本を読むだけじゃ部活動としては不十分よ! もっと文芸部っぽい活動を考えて!」
「文芸部っぽい活動って?」
「ほら、それは……本を読むとか……」
「本はもう読んでるじゃないか」
「うるさいわね……本を書いて芥川賞を受賞する、これでいい?」
どうやら夢菜は文学界をなめているらしい。
冗談だと思っていいところかもしれないが、万能少女の夢菜であれば、それくらい頑張ればできると本気で思ってそうで怖い。
相変わらず副会長の琥珀は笑っていた。
ここでふと思う。
琥珀が俺の前で生徒会副会長っぽいことをしたことあるか?
「芥川賞とか簡単に言うな。小説を書くだけでも大変なんだ」
「じゃあ直木賞はどう?」
「俺の話聞いてたか?」
「ちゃんと聞いてたに決まってるでしょ。だから直木賞だったら行けるって――」
「芥川賞が直木賞になったからって、レベルが落ちたわけじゃないぞ。文学か文芸かって話だろ? 多分」
「だったら直木賞ね。文芸部だから」
夢菜は馬鹿なのか。
「……それ、本気で言ってる?」
「本気で言うわけないでしょ! 頭おかしいんじゃないの!?」
やっぱり理不尽だ。
別れて正解だった。
「カズっち、また夢菜の理不尽攻撃食らったね」
「俺は全然笑えないけどな」
「ごめんごめん、面白くてさ」
琥珀が笑って場をなごませてくれるおかげで、いくらか冷静になれた。
彼女がいなかったら夢菜にブチ切れてたところだ。
「とにかく、文芸部っていうくらいだから、小説を書いて部誌に連載するとか、図書室の手伝いをするとか、それっぽい活動はすることになるわよ」
「小説を書く、か。いきなり書くって言って書けるものじゃないと思うけど」
「それもそうよね。だから――」
夢菜がほんの少し、表情を明るくした。
俺の前では暴君みたいな顔しか見せないから、なんだか安心する。夢菜にも明るい表情ができることを思い出した。
「――文芸部で合宿をすることにしたの」
文芸部で合宿。
その言葉を聞いて、真っ先に思い浮かんだのはアレだ。
「つまり、缶詰めってことか?」
「何言ってるの? プロ作家にでもなったつもり?」
「そこまで言わなくても……」
「まだ物語の作り方も知らない私たちが、いきなり自分たちを追い込んで作品をつくったところで、ろくなものは生まれないでしょ」
「それはそうだけど――」
「だから私の家で、ゼロの状態から学ぶの。そしてそれぞれ好きな作品を書くってわけ」
夢菜様はドヤ顔だ。
別にそんな名案ってわけでもないぞ。
「ゼロから学ぶって、講師でも雇うつもりなのか?」
「そんな予算が文芸部にあると思ってるわけ? 動画よ! WeTubeとかに上がってる動画で学べばいいの!」
「だったら別に泊まりじゃなくても――」
「みんなでお泊りするから絆は深まるし、それに――」
「それに?」
「夢葉に会いたいでしょ?」
「――ギクッ」
突然飛び出したパワーワードに大ダメージを受ける。
夢葉っていうのは夢菜の可愛い可愛い妹だ。
俺の癒しでもある。
あの天使に会えるのであれば、俺は絶対に参加する。
「ほんと、カズっちは夢葉ちゃんに弱いよね~。面倒見がいいとこ、結構評価高いぞ~」
「誰からの評価だよ」
「あたしだって。なんだ、嬉しくないの~?」
当然ながら、琥珀も合宿に参加するつもりらしい。
琥珀の言葉は無視して、夢菜が話を続ける。
「ということだから、静野さんにも絶対参加するように伝えておきなさいよ」
「清衣にも?」
「なに? 意外だったの?」
意外に決まってる。
夢菜は清衣のことを嫌っているはずだ。
少なくとも、よくは思っていないだろう。
それなのに、合宿に、しかも自分の家に招待するなんて。
「同じ部員なのに、ひとりだけ誘わないわけにはいかないでしょ。私を何だと思ってるわけ?」
悪女だと思ってます。
「ちゃんと誘いなさいよ、わかった?」
「了解です」
ということがあって。
夢菜に合宿の勧誘をするという、なかなか緊張する任務が課せられた。
生徒会室での話はそこまで長く続かなかったこともあり、いつも乗っている電車に間に合う。
そこで清衣と一緒になり、合宿勧誘のチャンスを得た。
「あのさ、今度文芸部の合宿やるんだけど、来る?」
ほんの一瞬、沈黙があった。
だが、答えはすぐに返ってきた。
「もちろん行くよ」
声は明るく、新しい清衣のものだった。
「本当にいいのか? 夢菜も琥珀もいるんだぞ? しかも夢菜の家だぞ?」
「わたしは別に、二人のことが嫌いとか、苦手とかじゃないよ。今度の合宿で仲よくなれるかもしれないし」
「そうか」
またも意外な反応だった。
女子ってやっぱりよくわからない。
早速合宿の日がやってきた。
合宿が決定した週の土日ということで、行動力が凄まじい。
夢菜の家はマンションの4階だ。
俺の家からもそれほど離れてない。
まあ、同じ校区だし、当然っちゃ当然か。琥珀も清衣も同様だ。
琥珀の今日の私服はなかなか責めていた。
最近はかなり暑くなってきていることもあり、超ショートパンツ。もう少しで本当のパンツが見えてしまいそうなくらいに短いが、大丈夫か?
健康的で瑞々しい琥珀の生脚が、太陽の光を反射している。
ピンポンを押してドアを開けると、夢菜よりも先に夢葉たんが飛んできた。
「カズにぃ!」
まだ中学1年生で、純粋無垢な夢葉たん。
綺麗に切り揃えたボブに、ぴょんと飛び出たアホ毛。
150センチほどの小柄な体が、俺に飛びついてくる。
「夢葉たん、久しぶり」
わしゃわしゃと頭を撫で、そのまま抱っこして家の中に入る。
清衣はその様子にかなり驚いている様子だったが、何か聞いてくることはなかった。
「ねえ、カズにぃ、今日ね、カズにぃが来るって聞いてすっごく嬉しかったんだよ!」
「俺も夢葉たんに会うことだけを楽しみに来たんだ」
「ふぇ? そうなの? ねんねと復縁したからイチャイチャしに来たわけじゃないの?」
子供ってのは、純粋だ。




