第11話 休日はボッチを満喫したい
土曜日はひとりでゆっくりしたい。
文芸部の活動は不定期だし、もちろん休日を潰すようなことはないからすごく助かる。
というわけで、今日はひとりでスター・バニーに来ていた。略してスタバ。
新作を飲みたいから来たとか、そんな邪な考えではなく、純粋に家から1番近いカフェ的なものがスタバだったというだけ。
まあ、陰キャはそもそもこんなカフェに来たりはしない。
家にこもるのがガチ勢って感じだが、俺は陰キャのライトな楽しみ方を知っている。
孤独な陰キャより、孤高な陰キャ。
それに尽きるな。
注文したのは抹茶ラテ。
無難だろう。
抹茶が好きというわけではないが、抹茶のスイーツは好きだ。
これも抹茶ライト層の楽しみ方といえる。
『うわ~、可愛い~』
『甘くてマジウケる~』
すぐ近くでは新作目当てでやってきた陽キャ的女子高生が楽しそうに会話していた。
店内で何をするかは自由だし、文句は言えない。
ただ、もう少しボリュームを下げてもらいたいものだ。
俺は今、抹茶ラテを飲みながら優雅に読書しているのだから。
『清衣ちゃんマジウケる~』
『そんな飲んだら絶対太るし~』
なんか聞いたことある名前が耳に入ってきたが、気のせいだろう。
同じ名前の人なんて、探せばいくらでもいるし。
清衣って名前はそれなりに珍しい気もするが。
『静野さん、ほんと甘いもの好きだよね~』
『それな! だからこんな可愛いのかな~』
甘いもの好き=可愛い、という方程式はどうやったら成り立つんだ?
そんなことより、聞き捨てならない名字を聞き、とっさに声のする方に視線を送る。
さすがに静野清衣という名前の女子高生と来れば――。
「本物だったか……」
スタバ好きだとか自己紹介で話してたくらいだし、そりゃあそうなるよな。
しかも清衣以外の3人も同じクラスだし、バレたらきまずいぞ。
女子高生グループは俺の斜め右の位置に君臨していた。
仕切りがあるのでギリギリ気づかれていない。
こっちが大きな声を出して注意を引いたりしない限りは、店を出るまでバレることはないと思う。
このまま存在感を消す必殺技を行使すれば、なんとかやり過ごせそうだ。
希望が見えてきた。
『清衣ちゃん、さっきから何もしゃべってないけど、大丈夫~?』
『あ、え、うん。ちょっと新作に集中してたから』
『ガチ勢じゃ~ん。すご~』
『やっぱ清衣ちゃんかわゆい~』
なんでも可愛いに持っていくあたり、最近の女子高生は発展しているなと思いつつ、ちょうど視界の中にいる清衣の表情を確認する。
どこかぎこちなく笑っているというか。
新作と向き合うことができずに、ガッカリしている様子が見受けられたのは、俺の気のせいだろうか。
――いかんいかん。
周囲に意識を向けすぎて、自分のやっていることに集中できなくなっていた。
それだと、わざわざ家を出てここまで来た意味が皆無だ。
今日はずっと読みたいと思っていた、『勇者学園の西園寺オスカー』の最新巻を読む。
何ヶ月も前から計画していた、本屋でラノベを買って、そのままスタバに寄ってそれを読むという流れ。
読書オタクのライト層って感じがして最高だ。
今回の巻のヒロインは俺の推しであるクルリンであると聞き、誰よりも発売日を楽しみにしていた。
ちなみに漫画の方が先に出されていたが、その後はラノベも出されるようになり、つい最近ラノベの内容が漫画の内容を追い抜かした。
『ねーねー、清衣ってさ、中学時代どんな感じだったの~?』
『えー、それマジで気になる~? なかなか教えてくれないよね~?』
『やっぱ超モテてた感じ~?』
うむ。
読書よりあっちの会話の方が気になる。
まあ本なんていつでも読めるからな。
この会話は一度しか聞けないことを考えると、優先順位は盗み聞きの方が上だ。
『全然だよ。あんまり男の子と接点なかったから』
『え~、じゃあ部活は~? そこで接点とかあるでしょ~?』
『部活は……あんまり興味なかったんだよね。運動得意ってわけでもないし、文化部も特に惹かれなかったから』
『もったいないね~。でもさ、いきなり告白されたりとかあったんじゃない? 清衣ちゃんめっちゃ可愛いし、なんか、カーストのトップって感じ』
『それな! 神青でいう夢菜様みたいな』
夢菜の名前が出た瞬間、清衣の顔がギクっと固まる。
その夢菜様はなんと同じ中学だったんです、なんて言えないか。
『それな! てか夢菜様ヤバいよね! みんなの憧れって感じ』
『マジわかる~。うちもあんな美人に生まれたかったな~』
『理奈たんも美人だよ~』
『あんがと~。でも夢菜様って美人な上に頭もいいし、運動もできるんでしょ~? もうそれチートじゃん』
『それな! ねえ、静野さんはどう思う?』
『えーっと、すごい人だよね。尊敬するっていうか』
『マジわかる~。でも清衣ちゃんだって可愛いし頭いいじゃーん』
『それな! 今後対抗して新しく清衣派閥ができちゃったりして~』
『うわ、それエモーい。うちら絶対清衣派閥に入るからね~』
『もち~。これから静野さんガンガン推していくから~』
なんという会話だ。
語尾の引き伸ばしというのはこの集団だけの流行りなのか。
そして、それな!とかマジわかる~とか、反応がデフォルト化してしまっている。
恐るべき現代の陽キャ女子高生。
それにしても、やっぱり清衣はどこか居心地が悪そうだった。
それもそうだ。
自分の中学時代に関する詮索は、誰だってされたくないだろう。
俺も同じだからわかる。
それに加え、俺には清衣がグループの女子たちのノリに疲れているように見えてしまった。
――って、つい集中して盗み聞きしてしまっていた。
これ以上聞くのはやめておこう。
そう心に決め、本に視線を戻す。
だが――。
なんとここで、清衣と目が合ってしまった。
ジーっとこっちを見てくる清衣。
俺は冷静を取り繕い、何事もなかったかのように読書を続行するのだった。
『もうみんな飲んだし~、昼ご飯食べいこ~』
『それな! もうすぐ12時だし、マジお腹空いた~』
『マジわかる~』
どうやら清衣のグループはスタバから撤収するらしい。
ちょうどいい。
これで俺もクルリンに集中できるし、清衣の動向をうかがわずに済む。
『みんなごめん、ちょっとこの後用事があるから、先行っててもらってもいいかな?』
『どーしたの~?』
『いきなりお母さんに家帰ってこいって言われてさ』
『え~、マジ~?』
『終わったらまた戻ってくるから』
『もち~。どんくらいで終わりそ~?』
『多分すぐ終わるかな。家すぐ近くだから、1時間くらいしたら戻ってくるよ』
『おっけ~。じゃあ店の中で待ってるね~』
『うん。ありがと』
いきなりのお母さんからの呼び出し。
友達と遊んでる最中に呼び出すなんて、なかなか面倒なことをしてくれたものだ。
とか思っていたら、なぜか清衣は、俺の方にガッツリ視線を送った。




