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プロローグA

都内某所、茜色の空と微かに萌える雲、選挙演説の車の前で一枚のチラシを見つめる青年がいた。

ビラ配りの女性が言うには、革新的な技術の体験が出来るゲームで、アルファテスト参加者には報酬も出るらしい。何でもテスターの命に関わる事項もあるようで、障害を受けた場合は保障金も下りるそうだ。

世の不景気で疲れ果てていた不破有社ふわありすにとって、その報酬は、気まぐれに始めてみるのも良いかも知れないと思わせる程、魅力的な額だった。

その場で写真、住所や連絡先、個人証明といった必要手続きを済ませた有杜は帰路に着いた。





数日後の夜、自宅に届いたのはメーカーのロゴの入った身長より大きな段ボールと各種書類の入った封筒だった。そして、届け物ではないが、家政婦姿の女性がその段ボールを運び入れてくれる。


「詳細な説明が必要であると判断しましたので、開始する準備が整い次第お知らせください。また、専用ダイブスーツとゴーグルの準備をしますので、どちらでプレイされるか教えてください。その場で展開します」。


寝室だと答えると、そこまで運び込み女性は段ボールを素早く開封すると準備を整えてしまった。


「すみませんが、あなたは?」


有杜が聞くと、彼女は理路整然とした態度で


「申し遅れました。私は不破有社様の専属多機能AIアンドロイド、通称アイロイドでございます。

この度はNGG制作陣のコマンダーМより、貴方様の身辺のお世話をさせていただく事になりました。簡潔に述べますと、ボディガード兼家政婦といったところです」。


「は?」


「驚くのも無理はありませんね。最新鋭の技術であると同時に、このような個人所有の娯楽に利用する物ではないですから。細かい説明の前に私に名前を下さいませんか?つい先程、一斉起動が行われ、私達は目覚めました。今から1時間前の出来事です。これから先の行動で名前がないということは円滑なサポートに障害が出ると判断しましたので、早めに登録していただけると助かります。」


突拍子もないこれらの事象は数分の間に起こった事であった。しかし、学生時代に重度の中2病を患っていたアラサー男性である有社にとって、女性の見た目をしている機械に名前を付けるというのは実に容易いことでもある。

「言えば登録されるの?」

「はい、音声認識で登録出来ます。」

「じゃあ、『ニア』で。」

「登録しました。私の名前はニア。あくまで確認されている範囲ですが、この名前と同じ名前の人間は全世界で3882人存在しています。また、私達アイロイドの中では私のみ、私以外には未だ確認されておりません。唯一無二ですね。」

「そうか、ただウチが早く登録しただけということだろうけど。てか、そんな事までわかるのか」

「はい、全てアイロイドは国際機関のデータベースに接続出来るよう、回線強度の高い通信機能を備えています。ゲーム通信とは別にアイロイドのみの固有回線が有り、常時本機内部データの共有をし、モニタリング結果によってはアイロイド自身のメンテナンスを自分で行えるようにできております。」

「なるほど」

(名前被りって多そうだし、だからといって人と同じ名前を付けるのってあんまり気乗りしないし、こうして他のユーザーに警告してもらえるなら被りはなさそうだな。有名人の名前付けたりするやつとかいそうだし、付けちゃいけない名前とかも有りそうだな。)


「早速ですが、有社様、細かい事項の説明に移ってもよろしいでしょうか?」

「ああ」


ニア曰く、NGG(National Grace Genesis)は

直喩ではなく、たっぷりと開発者の皮肉の入ったゲームで、ユーザー間の争いが世界全体に影響する事を目論みとしているらしい。

インターフェイスは脳や心臓などの生命維持に必要な部分以外の体の各所に送る電気信号を機械側に拾わせて、体を動かす代わりにゲーム内のキャラクターを動かすという仕組みで、まだテスターも少なく、体に障害を来たす場合もあるため、保証は手厚い。また、そのためのアイロイドでもあると。ゲーム中の体の不調が起こらないように身の回りの管理をするらしい。

開発者はプレイヤーに世界に没入してもらう為、ゲーム内では基本的にステータス等は見れないようにした。そのため、常時開催のランキングイベントや戦闘での力量差で自分の力を測る必要がある。

そのため、初回ゲーム開始時のキャラクタークリエイトでキャラ育成の具体方針を決め、その方向性を持ったプレイングを心がけなければならない。

「ゲーム内課金のシステムもありますが、ランキングでの報酬の方が価値は高いです。これについては開発者曰く無課金ユーザーでも楽しめる配慮とプレイヤースキルによっては強くなれるという方式にしたいという事でしたが、このランキングイベントは国内からの通信時のみ適用されます。国外でユーザーを増やし、日本国内に来てもらいたいという狙いもある、と」

「日本の人口増やしたいからとか、経済効果を狙ってとか、なんだか政治家みたいな考え方だな」

(まあ、中国の空龍魔睡って企業家も政治家に助言しているらしいし、同じようなものかも)


「説明はこんな所?」

「はい、粗方説明し終えました。さらなる詳細をお話しすると、有杜様の精神衛生上よくないかと。」

「よくわかってるな。」

「はい、街頭での事前アンケートからAIが判断し、インターネットでの調査を分析、行動予測出来る範囲までは有杜様の好む人格形成を行っていますので。こうして直接の対話でこそ、分かることも多いですが。」

「つまり、これからも言葉遣いや性格が変わっていくと?」

「はい、好みに合わせてアップデートされていきます。」

(それって、もう普通の人間なんじゃないか?)

「そっか、じゃあ早速ゲームしたいから準備してもらっていいか?付け方もわからないし」

時刻はまだ昼前の10時を過ぎた所ではあるが、有杜は早く体験したかった。休日の昼間に最新のゲームをする。そんな幸福感と次の仕事への倦怠感を思いつつ、ゲームを開始するのだった。



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