12 再生
紫織の兄に起こった事を知る。紫織を庇って怪我をした後、行方が分からなくなったと聞いた。
紫織は暫く、学校を休んでいた。
学校に来るようになってからの彼女は、笑わなくなった。できなかったんだと思う。
オレは傍にいる事しかできず、ただ彼女を見守っていた。
拓馬が以前、玻璃の悪い噂を流したのは……紫織に執着する仁の関心を逸らす為だったようだ。無駄だったけど。
賢吾は薄々、気付いていた。「殺人鬼役」は多分、仁だろうと。
逃避行ルートの舞台を探していた時、地図に番号で1から9までの場所を示されたが……可能性の高い番号を、逆に言ったそうだ。足止めの為に、わざと。
本当は「9」ではなく「6」番が本命だった。
本を逆さに読んでいたのは、オレにヒントを伝えたかったのだと。
分かるかよ!
だが仁は、苦々しい顔で賢吾を睨んでいた。効果はあったらしい。
それにしても。今は魔法を封じられているとは言え。これから仁と、どう関わっていけばいいんだ?
オレは軽い怪我で済んだけど、紫織のお兄さんは……。
あの件があった以降……仁は性格が暗くなったかのように、どんよりした面持ちでいる。
教室の後方の席に座り俯いている仁を、複雑な心境で眺める。
しかし。休み時間中の教室に拓馬が訪れた際、状況が変わった。拓馬が言い放つ。
「こいつの面倒は、オレが見る!」
クラス中の視線が、拓馬と仁……二人へ集中する。
「オレは、この人生も泥臭く生きていこうと思ってる! こいつも、道連れにしてやる!」
拓馬の宣言に、仁の相貌が青ざめていく。
「なっ! オレは……!」
反論しようとする仁の言葉が遮られる。
「オレが色々、教えてやるよ」
提案する拓馬の顔には、魔王のような凄みのある笑みが浮かんでいる。
「いっ……嫌だ……!」
二人の間に、一体……何があったんだ。涙目になっている仁が、拓馬によって廊下の方へと引きずられて行く。
彼らの側へ、歩み寄る人物がいる。賢吾と三弥、恭四だ。
賢吾が指摘する。
「まさか。噂の通り、二人……高校へ行かないつもりなんです? 受験から逃れる気ですか……?」
薄らと……賢吾たちの周辺に、怒りのオーラが漂っている雰囲気を感じる。
三弥も腹黒そうな笑顔で、ねっとりと言う。
「ボクたちを仲違いさせた罪は、重いよ?」
恭四も訴える。
「お前らだけ、ずりーぞ!」
オレも交ざって、ツッコミを入れる。
「恭四のは、ただ勉強をしたくないだけだろ」
仁のした事は許していいものじゃないが……再び道を踏み外さないように、見守るぐらいは手伝わねーとな。
拓馬が、ポカンとした表情で呟く。
「え……オレも?」
その後、仁と拓馬の二人は……賢吾と三弥の指導で、みっちりと勉強させられた。
中学を卒業する頃、紫織に確認する。いつも通る細い坂道の、石垣の側で。やっとの心境で、気持ちを尋ねる。
「高校を卒業したら、結婚してほしい」
振られるかもしれないと覚悟して口を結んだ時、返事をもらった。
……受け入れてくれた。
勢い余って、彼女を抱きしめる。
「フフッ」
彼女の笑い声を聞いたのは、本当に久しぶりで……込み上げるものがある。
涙を溜めた瞳で、微笑まれる。
「何で多一君も、泣いてるの? ……ありがとう」




