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夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで  作者: 猫都299
【夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで・上】
2/28

2 リトライ


 床に仰向けになった。幼馴染に見下ろされている。


「本当にいいの?」


 幼馴染で当時仲のよかった男の子……タイチ君が確認してくる。相手の瞳へまっすぐに頷いて見せた。


「喪女だった人生を変えたいの」


 はっきりした声で伝える。


 外で雷が鳴った。雨音が酷く響いている。だから、私たちの会話は一階にいる兄には聞こえないだろう。


 焦る心といっぱいいっぱいな気持ちで涙が出る。目の前の相手へ願った。


「手伝って」




 彼……タイチ君とはこの人生では今日の朝、登校中に再会した。


 家を出てすぐの細い坂道を下っていた時、後方から誰かの走る音が聞こえてきた。懐かしい心地よさにハッとした。振り返る前に左肩を叩かれた。


「玻璃」


 普段は落ち着いた印象の声が、僅かに弾んでいる気配があった。振り向いて彼の顔を見上げた。


 中学時代の男子の制服……紺のズボンと白のシャツという出で立ちで、私と同様に黒の鞄を持っている。やや茶色がかった黒髪はサラサラで短め。前髪が少し長めで目の上に掛かっている。



 私には過去に三人、好きになった人がいる。



 夫も含め、三人とも私からの一方的な片想いだった。



 彼……「タイチ君」は二番目に好きになった人。幼馴染の間柄だった。


 今いる時間より未来で、たまたま再会した思い出がある。「あの時の彼より若い!」とびっくりした。「当然か」考えて微笑んだ。


 前世では高校時代から再会した日まで、彼とは疎遠になっていた。


 高校に進学した頃、私の家で二人で遊んだ際に「好きな人がいるんだ」って言われたので身を引いた。私の恋は終わったと思った。私は「私も」と言った。「お幸せにね。もう会わないね」と無理して笑顔を作った。つらくて寂しかったけど「彼」への想いを私の中から閉め出した。彼女さんの邪魔になるのは私の純愛ルールから外れる行いだから。



 思い返してしんみりしてしまった。


「玻璃? どうした?」


 私の暗い心模様も敏感に読み取って心配してくれる。余計に胸が痛くなった。



 ……今なら。誘ったら逆ハーレムに入ってくれるかな?


 そんな考えが脳裏に過る。慌てて首を横へ振り打ち消す。


 ダメダメ! それはダメ! 好きだったのは私だけで、彼は私の事なんて何とも思ってないよ。この人はダメだ。もっと自分のレベル上げをしてからじゃないと……。それに彼には既に好きな人がいるかもしれない……私じゃ太刀打ちできない……あっ。


 目まぐるしく思考している途中で気付いた。


 彼に挑む事すらできない私のままじゃ、ずっと一生変わらない。「夫」は、今……目の前にいる相手どころのレベルではない。遥か遠い存在なのだ。怖気付いたらダメだ!


 私……昨日、自分の思想を変えるって決めたよね? これまで純愛という理想を夢見ていたけど……私の欲しいものは手に入らなかった!


 ゴクリと唾を飲み込んだ。


「タイチ君」


 改めて幼馴染を見つめた。頼み事をする。


「大事な話があるから……今日の帰り、家に寄ってほしい。いいかな?」


 私の真剣さが伝わったのかもしれない。タイチ君の喉仏も唾を呑むような動きをしていた。


「い……いよ?」


 よかった。悪くない返事をもらえた。




 午後から雨が降った。私たちは帰りが一緒になった。学校を出た際はふわっとした優しい雨だったのに、家に近くなる頃には大分容赦がなかった。傘を持っていなかったら大変な惨事になっていただろう。


 家に着いた。お兄ちゃんも帰っていた。二人分タオルをもらった。タイチ君と私、それぞれ濡れた鞄や服を拭いた。


「私たち、今から大事な話をするから絶対に二階には来ないでよ。お兄ちゃん」


 兄へ強く釘を刺し、タイチ君を引き連れて階段を上った。




「で、話って……?」


 自室へ入りすぐに、本題を尋ねられた。


 タイチ君の、僅かに居心地悪そうなそわそわした雰囲気に気付いて私も意識してしまう。迷いを振り払う為に、はっきり口にした。



「私、記憶がある。前世の」



 暫く……タイチ君に見つめられた。彼は目を大きく開いて大層驚いている様子にも見える。指摘された。


「え? まさか…………発症した?」


「中二病じゃないよ!」


 即座に、彼の言葉を切り捨てた。


 こんな大事な話をしているのに。お兄ちゃんの時といいタイチ君といい……伝えるのむずいよ。


「好きな人に私の事も好きになってもらいたい。前世は奥手過ぎたのと純愛にこだわり過ぎていたのもあって、好きな人に振り向いてもらえなかったの」


 俯いて説明した。


「だから、今回の人生では逆ハーレムを作って自分の純愛志向を矯正したいと思ってる。前回の人生で好きだった人も凄くモテる人でね、その……彼に挑む前に自分に自信をつけたくて」


「いいよ。手伝っても」


 聞こえた返事に目を開いた。自分でも何てお願いをしているんだと居た堪れない心持ちだったので、こんなに快く応えてもらえるとは予想していなかった。


「え、あ……ありが……」


 「ありがとう」と伝えたかったのに最後までお礼を言えなかった。肩を押されて床に仰向けに寝かされた。視界に天井が映る。幼馴染に見下ろされている。


「本当にいいの?」


 目を逸らさず頷いた。


「喪女だった人生を変えたいの」


 外で雷が鳴っている。雨音が酷く響く。


「手伝って」


 言い切る。相手の喉が息を呑むように動くのが見えた。


 もうどうなってもいい。半ばやけっぱちになりつつ決意を固めていた。


追記2025.3.19

「高校生になって」を「高校に進学した頃、」に修正しました。

「純愛を」を「これまで純愛という理想を」に修正しました。


追記2025.3.20

「、」を削除、「、」を追加しました。


追記2025.5.14

「理想を大事にしていても」を「理想を夢見ていたけど……」に修正しました。

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