表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで  作者: 猫都299
【夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで・上】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/32

15 遠出


 とうとうこの日が来てしまった。


 今日は平日。学校を休んだ。……兄の指示で。


 昨日の夜、私の生い立ちについて兄に質問しようと思っていたのに。仕事を終えて帰宅した兄に言われたのだ。「玻璃。明日は学校を休め。遠出するから今日の内に準備しておけ。……お前の話は行った先で聞いてやる」……と。



 指示された内容を訝しんでいた。


 学校を休んでまで遠出……?

 兄らしくない。学校を休む程の用事があるのだろうか?


 眉をひそめる。壁に掛けてあったカレンダーを確認する。


 七月、一日……?


 口があんぐり開いてしまうのを自覚する。

 七月一日って……確か!


 「例のゲーム」で、エンディングの一つである「逃避行ルート」へ分岐する日だったよね? もう明日なの?


 主人公に設定したキャラと意中の相手キャラが、手を取り合って遠くの町を旅する……駆け落ちめいた雰囲気のイベントだ。


 「エンディング」のイベントになるか「エンディングの前にあるイベント」になるのかは、今の私には判断がつかない。逆ハーレムを完成できなかったから。

 このイベントはとても厄介で……かなりの危険が近付いているのかもしれなかった。もし「エンディング」の方なら、待つのは大怪我か死……。「エンディングの前にあるイベント」の方であるなら、助かる見込みもある。


 何故そんな危険が迫っているのかというと。「黒幕」であるキャラクターが動くから。遠出した先で出くわすのだ。

 その人物は主人公に執着している。


 この時点で逆ハーレムのメンバーたちの「主人公への好感度」が高ければ水面下で「黒幕」を妨害してくれる。「黒幕」を倒す事は無理でも足を引っ張ったり体力を削ってくれたりと、アシストを期待できるのだが……。


 私の逆ハーレムは完成しなかった。メンバーはタイチ君一人だし。


 そう言えばおかしいな。私……タイチ君に名前を明かした。お兄ちゃんには教えていないのに。相手役がお兄ちゃんになっている?


 ハッと思い至った。

 ……そうか。


 タイチ君は私を選ばなかったんだね……。


 気持ちが暗く陰る。

 ……これでよかった。最後に、彼を巻き込まなくて済んだ。


 越えられるのか分からない。でも越えなきゃ。「黒幕」に殺される訳にはいかない。兄が悲しむから。


 ここで、このイベントから逃げたとしても多分……黒幕の脅威からは逃れられない。対決するしかない。




 列車の窓硝子越しに外の景色を眺めていた。田舎町の山や畑が後方へ流れて行く。長閑な日和に目を細めた。


 こんなに平和な場所なのに。向かう先で、生きるか死ぬかの戦いに臨まないといけないかもしれない。


 兄にはこの件を伝えていない。予定を変更されると思ったから。黒幕には出て来てもらわないと困る。


 今回の機会を逃したら更に厄介な事になる。黒幕が誰か分からないと、この先も怯えながら生活しないといけなくなる。


 ……「黒幕」は恐らく、私の知っている人だと思う。「登場人物」の内の一人だから。


 窓から視線を外した。横のシートにいる兄へ顔を向けた。仕事で疲れていたのだろう。寝こけている。

 腕組みして上半身をやや斜めにこちらへ傾けた姿勢で、口が少し開いている。無防備な兄の顔を見つめた。心が落ち着く。


 …………もしも。兄が「黒幕」だったとしたら。


 考えて背筋がヒヤリとした。


 私はどうするのだろう。大人しく殺されるのだろうか。それとも止めようとするだろうか。


 変な想像をしてしまった。首を横に振って不安を払いのける。

 きっと「黒幕」は兄じゃない。「かまいたち」らしき現象は教室で起きた。


 薄らと浮かぶ考えに顔をしかめた。


 教室で花瓶が割れた時……花瓶があった場所の最も近くにいたのは、直前に私が逆ハーレムのメンバーに誘っていた子たちだ。ジン君、ミツヤ君、キョージ君、ケンゴ君。……そしてタイチ君。


 友達を疑うなんてと思いつつ、考えてしまう。


 あの時はるりちゃんとクラスメイトの女子たちが険悪な雰囲気で……まさかるりちゃんじゃないよね?

 自分でも「ないない」と苦笑した。すぐに彼女じゃないと断じてしまう程に、あの日るりちゃんが怒ってくれた事は胸の深くに響いていた。


 無闇に友達を疑うのはよそう。


 そう言えば……以前ジン君が「噂はデマだって分かってる」と呟いていた。何の件だったのだろう?


 噂……。記憶を辿った。タクマ君に屋上へ呼び出された際に「オレの言う通りにしないと悪い噂をばら撒く事になる」って言われたっけ。タクマ君が何か噂を流したって事……?


 タクマ君は「黒幕」ではない……よね? 別のクラスだし。



 列車がトンネルへ入る。外の景色が暗くなった。窓硝子に自分が映っている。とても辛気臭い顔をしていた。


 胸に手を当て深呼吸する。


 「黒幕」が誰であっても。万一、私が死んだとしても。

 このイベントで「黒幕」の正体をあぶり出せる。


 私の好きな人たちに生きていてもらえるなら。挑むよ。




 その日、私たちはビジネスホテルで一泊した。

 兄のせいで悩ましい夜を過ごすなどと、この時は思いもしなかった。


追記2025.7.13

「へん」を「変」に修正しました。


追記2025.8.20

「入った」を「入る」、「いる」を「いた」、「した」を「する」に修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ