12 味方と黒幕
「お兄ちゃんもやろーよ、七並べ。面白いよ!」
手に持っていた赤いカードを掲げて見せる。兄も取り込もうとした。
兄がジトッとした視線を寄越してくる。
「オレは頗る記憶力が悪い。ゲームと言えどボロボロに負けるのは年上のプライドが許せんから遊んでやらん!」
兄の言い分を不満に思う。「えー?」と口を尖らしつつ考えていた。
もしかして。子供の頃に私と神経衰弱で勝負した事をまだ気にしているのかな? お兄ちゃん十連敗してたもんなぁ。
「尻尾巻いて逃げるんだ」
ジン君がボソッと言った。
見ていたミツヤ君が目を輝かせている。ミツヤ君もジン君に続く素振りで、ニコニコしながら「やーい、やーい」とお兄ちゃんを煽り出した。
キョージ君もフッと笑って挑発を始める。
「お兄さん、案外怖がりなんだな」
ケンゴ君はほかの皆を諫めそうな雰囲気で、この状況を静観しているようにも見えた。だが。
眼鏡の位置を正したのちに、彼も言い及ぶのだった。
「お兄さんは、早く僕たちを帰らせたいのでしょうね。妹さんを独占したいが為の……」
「あー!」
話の途中で兄が口を挟んだ。
「クソッ! やってやらあっ! 但し。一回だけだぞ!」
言い切って腰を下ろした兄に目を向ける。少し意外で驚いていた。
兄と遊ぶのは久しぶりだ。楽しくて笑った。
兄の大敗が決定し、お開きになった。
男子四人が帰った後で「例のゲーム」をプレイしてみた。「何かヒントを思い出すかも?」という期待にわくわくしていた。
さっきまでいた四人には、私がタイムリープした事は打ち明けていない。さすがに信じてもらえないだろうと思って。
納戸を漁って見つけ出した。埃を被っていたので、一旦本体を拭く。貸してくれた友達が転校してしまったので未だに返せていない。
……暫くプレイしてみて思い出した事がある。
かまいたちに似た現象を起こせる登場人物がいた。風を操る能力者で……私の大好きなキャラである「玻璃ちゃん」の命を狙っている黒幕的存在が件のキャラクターだった。
えっ? もしかしてクラスメイトの中にゲームの黒幕的存在も紛れている? しかも殺人鬼の……!
血の気が引いた。とんでもなく大事な件を今日まで忘れていた事にゾッとする。忘れたまま過ごしていたら、もしかすると何も知らない内に殺されていたかもしれない。今の私は、名前が「玻璃」になっているし。
ゲームを最後までプレイするのは時間が掛かるので、途中でセーブして止めた。
納戸を漁っていた際に引っ張り出した荷物を片付ける。
箱を持ち上げた時に何かがひらりと落ちた。箱を納戸に仕舞った後に戻り、拾い上げる。小学校卒業時、同じクラスの子たちと一緒に撮影した写真だった。
そう言えば……。
引っ掛かりを感じ、記憶を辿る。
かつての未来で、夫から聞いていた。いつだったか。「タクマさん」についての話。
酔っ払った夫が「中学生の頃、同級生だった」と口にしたのを覚えていて、卒業アルバムを開いてみた事がある。「タクマ」という名前の子は見当たらなかった。「転校したのかな?」と不思議に思っていたけど、妙に気に掛かる。何日か経って思い至った。
暴力事件を起こして退学になった子が一人いた。その子の下の名前は、確か『タクマ』だった。
夜、悪夢を見た。うなされて起きた。
正体の分からない不安が心に巣くっていた。
汗をかいているのに寒い。そしてやっと。私は……不安の一端に気付いた。
「あれ……?」
かつての中学時代を思い浮かべても、小学生だった頃の記憶を探ってみても。
「いない」
あるのは、兄との思い出ばかり。
「あれれ……?」
絶対におかしい。私の、お父さんとお母さんは?
兄の部屋のドアを開けた。暗がりの中、窓から僅かに月明かりが差している。
「玻璃?」
私に気付いた兄が布団から身を起こした。
「お兄ちゃん」
涙が零れる。側に座り訴える。
「変だよ」
溢れてぐちゃぐちゃになりそうな思考に囚われ口走る。
「私は誰? 誰なの?」
追記2025.6.24
「言ったのが聞こえた」を「言うのを聞いた」に修正しました。
改行を調整しました。
「言うのを聞いた」を「言った」に修正しました。
「和室の部屋に敷いた布団から身を起こす兄を呼ぶ」を「私に気付いた兄が布団から身を起こした」に修正、「兄の」を削除しました。




