11 友達
しかし何で兄は七並べを止めに来たのだろう。いいところだったのに。
でも確かに。七並べは二人だけでするより、もっと大人数でした方が面白いかも。
「お兄ちゃんがごめんね」
ジン君に謝った。静かな眼差しを向けられた。
「噂はデマだって分かってる」
小さく呟かれた内容を耳が拾った。
「え?」
見つめ返す。詳しく尋ねたかったのに。
ジン君は「ふふっ」と笑っただけで教えてくれなかった。
仲良くなれたのはジン君だけではない。別の日にそれぞれ三人のクラスメイトと喋っていた。
ミツヤ君は整った短めの黒髪、茶色い大きな瞳が印象的なほんわか優しい雰囲気の子だ。私はそう思っているのだけど周囲の友人らからは「腹黒」とか「二面性」などという不本意なあだ名で呼ばれる事もあるそうだ。おばあちゃんの影響で和菓子が好きなのだとか。
キョージ君はヤンキーらしい。本人が言っていた。肩下くらいまである長さの黒髪を後ろで一つに結んでいる。スラッとした体型で背が高い。普段の彼はめちゃくちゃ明るい……陽気な人だ。
ケンゴ君は栗色の短髪で眼鏡を掛けている。クラスメイトたちや友人らから頭脳派と名高い。クラスでも一位二位を争う程の優等生だ。確か……お父さんがゲーム会社に勤務しているという話をどこかで聞いた気がする。
四人に逆ハーレムに入ってほしいと頼んだけど全員に断られた。普通に考えて当然だよね。
だけど。断られる直前に四人とも……タイチ君の方へ視線を向けていたのは何だったのだろう。
タイチ君は自分の席にいる。頬杖をついてこちらを見ている。もしかして睨まれている……? 多分気のせいだよね……?
「普通に友達ならいいよ」
ミツヤ君が返事の補足をくれた。男の子にしては少し高めの声で、ニコッと笑い掛けてくる。ジン君もケンゴ君もそれぞれに頷いている。
「よろしくなっ!」
側にある机に座って片足を組んでいたキョージ君にも明るく言ってもらえた。ニッと歯を見せてくる様子に安堵する。
逆ハーレムに入ってほしいなどという不可解な要求をしてドン引きされないか心配していた部分も少なからずあったけど、話を聞いてくれた彼らは変な顔一つせず……むしろ親切だった。
「ねぇ、あれ……」
声が耳に届く。教室内の離れた席に三人の女子が集まっていた。こちらの方を気にしているのか視線を感じる。彼女たちは何事かヒソヒソ話をして笑っていた。
恐らく私の事を笑っているんだろうなと察した。それも仕方のない事。逆ハーレムは成そうとしている私でさえ許容しがたい刺激物だと思うから。
件の子たちから目を逸らそうとした。その時。
彼女たちの方へ真っ直ぐに歩いて行く……るりちゃんが見えた。
「ちょっと! どういう意味よ? 今のは?」
ヒソヒソ話をしていた女子たちに咬み付かんばかりの勢いで問い詰めているるりちゃんに仰天した。普段の彼女からは想像できない剣幕だったので怯んだ。けれどこのままじゃいけない!
慌てて近付き、るりちゃんの腕を押さえた。
「いいの! るりちゃんやめて!」
るりちゃんは私の為に怒ってくれたのだ。
女子らとるりちゃんが睨み合う。険悪な雰囲気が高まっていた。
パリンッ!
唐突に何かが割れたような音が聞こえ振り向いた。
黒板の近くに置いてあった花瓶が砕けている。机上に花が散乱し、中に入っていたと思われる水が床へと滴っていく。
「え……?」
誰かの呟きが響く。
割れた花瓶を見つめる。
教室が少しの間、静寂に包まれた。
花瓶は教室の端に置いてある机の上で割れていた。さっき私がいた場所のすぐ側だった。机から落ちた訳でもないのに何で割れたんだろう。
後の休み時間中、教室の至る所で「花瓶が割れたのは怪奇現象だ」という話題で持ち切りになった。
「かまいたちじゃない?」
るりちゃんといがみ合っていた女子たちでさえ、そんな事を言っている。
私も驚いてぼーっとしていた。
かまいたちか……。そう言えば例のゲームに、似た能力を持つキャラクターがいた気がする。えっと……。結構重要なキャラだったような……?
だめだ。どうしても思い出せない。これは…………もう一度あのゲームをする必要があるよね。
その日は私の家に、ジン君、ミツヤ君、キョージ君、ケンゴ君が遊びに来た。自室に男子ばかり四人も来たのは初めてだった。
遊んでいる最中、ジン君の装着しているヘッドホンからシャカシャカした音が漏れていた。
涙目になってしまう。
「酷いよ……」
恨み言を口にする。
「やっと広げて見せてくれたね」
ミツヤ君が舌なめずりをして私の開いた場所を見ている。
シャカシャカシャカシャカ。
キョージ君が笑った。
「チョロい奴!」
うん。どうせ私はチョロい奴だよ。
「これじゃまた私……最後までいけない。今日もいいように弄ばれちゃう……」
泣き言も言いたくなる。
「あなたが弱いからそうなるんですよね? それともまさか。弱いフリで逆に煽ってます?」
ケンゴ君に言及された。彼は指で眼鏡を押し上げつつ冷たい笑みを浮かべていた。
シャカシャカシャカシャカ。
「もうダメぇっ! また負けちゃうっ」
私が嘆いた時、部屋のドアが勢いよく開いた。
「お前らぁっ! いい加減にしろっ! 七並べはダメだって言っただろうがぁ!」
前回同様、兄に怒られた。何故なのか。
「今回は二人でしていません」
ケンゴ君が反論してくれたので私も頷いて意見する。
「今日は五人だよ? 前回は『二人だけで七並べはやめなさい』って言われたから、今日は五人でやってる」
兄は何か堪えるように目を伏せた後、バッサリと言い放った。
「とにかく! 七並べ禁止!」
追記2025.6.22
「その子たちから目を逸らそうとした。その時……」を「件の子たちから目を逸らそうとした。その時」、「るりちゃんが彼女たちの方へ真っ直ぐに歩いて行くのが見えた」を「彼女たちの方へ真っ直ぐに歩いて行く……るりちゃんが見えた」に修正、「、」を追加しました。




