第十八話 病室
扉が開いた事を3次元的視覚でとらえた僕はゆっくりと振り返った。
振り返って眼帯越しに居たのは青髪の少年だった。
僕と同じぐらいの年齢だろうか。僕と少年の身長差はほとんどない。
「あのぉ」
そのか細く消え入りそうな声はしっかりと僕の耳には届いた。
「どうしたの?」
僕は子供に話かける要領で少年に声をかけた。
子供が子供に子供口調で話しかける何ともややこしい光景だ。
「あなた方は誰なのでしょうか?」
もしも、この周りが雑音であふれかえっていたら全く聞こえない声量だった。しかし、幸いなことにこの場は静かだ。
でも、なんて答えればいいのだろう。ここの関係者と言えばそうだけども、ここの管理運営している様なお偉いさんでもある。
僕が悩んでいると正剛少将が代わりに答えてくれた。
「我はここの関係者だよ。そしてこの子は、今後ここに通うのだ。仲良くしてやってほしい」
「そ、そうですか」
正剛少将の気迫に押されて、消え入りそうな声がさらに小さくなった。
一応前世大人として紹介されたからには握手ぐらいはしないとな。
「僕の名前は鞠。よろしくね」
僕は握手を求めて手を出したが、すっと身を引かれてしまった。
ちょっと引かれた事にショックを受けたものの、子供の事と言う事もあり直ぐに気持ちを立て直した。
どうやらこの子はかなりのコミュ障らしい。ちょっとパーソナルスペースには気を付けた方がいいな。
僕が対応を考えていると、か細い声が聞こえた。
「俊。貝塚俊」
貝塚俊君か。
「貝塚俊…貝塚家の者か」
僕が名前の復唱をしていると、隣に居た正剛少将のつぶやきが聞こえた。
って、正剛少将が言った貝塚家って僕でも聞いた事がある名前だ。確か…
「貝塚家って超能力用の器具を売っている会社の社長じゃなかったでしたっけ?」
「良く知っているな。そうだ。貝塚家は軍にも卸しているような商品を作っている。我の実家のライバル会社でもあるな」
前にテレビがそう言った内容の放送をしていたのを覚えていた。
でも、そんな御曹司の息子に出会うとは、、、何ともすごい事だ。と思ったが、そう言えば正剛少将も御曹司だったな。あまりの事に忘れていたわ。
って、あれ?この子怪我している?
さっきまではしっかりと見ていなかったが、よくよく見てみれば左足に切り傷がある。深い傷では無いが、血が少し垂れて服を赤く汚している。
「ねえ、怪我してるの?」
僕がそう問うと、俊はびくっと身体が跳ね上がった。
見て分かるほどなのだから、どれほど跳ねたのかが分かる。
「…なんで分かったの」
さて、なんて答えようか。3次元的に見えていると言っても分からないだろう。
ちなみにだが、僕の視界はすべてを見通す事も出来る。それは人間の体内も例外ではない。けれども、そんな事をしたら脳みそが焼ききれてしまう。もちろん生転で治す事も出来るが、わざわざやりたくはない。後、人間の断片図は結構グロくて気持ち悪いのだ。
っと、話が脱線してしまった。
「何となくわかった?」
これでごまかされてくれるだろうか。
「…そうなんだ」
納得はしていない顔だが、深堀はせずに引いてくれた。
「それよりも聞いて良いかな?なんで目に布を巻いているの?」
おっと、その事を聞いてくるか。なんて答えようかな。これを説明しようと思えばさっきの3次元的視覚の話になってしまう。それでは、さっきぼかした意味が無くなってしまう。
話しても良いのだが、僕と同じぐらいの年齢の子に分かるとは思えない。
僕が悩んでいると正剛少将から助け舟が出された。
「それよりも鞠よ。この俊の足を治してやってはどうだ?」
うーん。その事は僕も考えたのだ。確かに治してあげれるなら今すぐにでも治してあげたい。でも…。
「…僕、他人を癒した事がないんですよ」
そう、毎日自分の体は治しているが、他人の体を治したことが無い。
もしも、間違えて大惨事になったら目も当てられない。
流石にミスってぐちゃぐちゃ人間は作りたくはない。
「ふむ、では…」
そう言うと正剛少将は懐から素早く取り出したナイフで自分の手のひらを切った。切った瞬間、周囲に飛び散った血が地面にまだらな模様を作った。
あまりの事に思考が完全に停止する。そんな僕を次の一言で呼び戻した。
「さあ、治してみろ」
「…」
正剛少将は手のひらをこちらに向けてそう言う。向けられた手のひらからは、ぼたぼたと血があふれ出して床を血で汚していく。
僕は正剛少将に「何をやっているんだ!」と怒鳴りたくなる気持ちよりも先に、この光景を青い顔で見ている俊君に悪いので変に治っても自業自得だ、と心の中で正剛少将の手を治す事にした。
僕は目の前の傷口に指先で触れて超能力を発動させた。
超能力を使用した瞬間、正剛少将の手はナイフで切る前の手に戻った。あまりの一瞬だったが為に治っていく過程が見えなかった。
「おお!これはすごい。何度も見た事はあるが、我も初めて再生を受ける。こんな一瞬で傷口が塞ぐのか!」
正剛少将は手のひらを興味津々に眺めながら興奮気味にそう言った。
それとは違い、横から見ていた俊の顔は蒼白になっていて今にも倒れそうだ。
「あぁ」
フラッと俊の体が傾いた。僕は慌てて俊君の体を抱きとめたが意識が無い。
「大丈夫?!」
声をかけてみたけど反応は無し。
これは完全に失神している。
僕は未だ興奮している正剛少将に声をかけて俊をベットの上に運んでもらった。
「まったく何やっているんですか」
僕は二つの意味で正剛少将に苦言を言う。それは自分の手をいきなり切った事と、俊君にショックな光景を見せた事だ。
今回の失敗を分かっている正剛少将は素直に謝った。
「すまぬな」
「ほんとですよ。もしも俊君が頭を打ったらどうするおつもりだったんですか」
「その時は小僧が治せばよかろう」
そういう問題じゃないんですけど?!死んだ人間を治せる保証なんてどこにもない。
はぁ。今の一瞬で疲れがどっと来た。
「はぁ。まあいいです」
僕は寝ている俊のズボンを上げると、足の切り傷を治した。別にこの傷ならばさっきの正剛少将の傷よりかは遥かに浅い。
一瞬にして傷口が塞いだことを確認すると、僕は俊君のズボンを戻した。
「ふむ、何回見ても再生能力者はすごいな」
「見た事があるのですか?」
「ああ、部下に3人いるからな」
そういえばそんな事、前にも言っていたっけ。
「我は看護師を呼んでくる。少し待っておれ」
そう言うと正剛少将は看護師を呼びに行った。
それから10分ほどで看護師が来た。僕たちは後の事は看護師に任せて帰る事にする。
リムジンで待っていた母は未だに服を見てニヤニヤしていたが、僕たちはそれを無視して車を発進させるのであった。
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。