第十四話 3歳
あの高級ホテルでの話し合いから月日は流れて僕は3歳になった。
体と超能力はしっかりと成長している。身長は少し高くなった程度だが、超能力の方はかなり伸びた。
最近では天使の灰がもう少し欲しくなってきた。しかし、母に頼むにも天使の灰は高いので必須でも無いのに無理しては頼めない。
そんな3歳の誕生日の日。僕は家で今生3度目の誕生日を祝っていた。
去年と変わらず、母のハッピーバースデーの歌の後に息を吹きかけて蝋燭の火を消す。
真っ暗になった部屋の電気を点けてくれた母の右手には誕生日プレゼントが握られていた。
「鞠、これ誕生日プレゼントよ」
「ありがとう」
そう渡された白い箱に赤いリボンが付いたいかにもなプレゼントボックスだった。
ちゃんとラッピングされている誕生日プレゼントをワクワクの気分で僕は開ける。
母からもらった物なのでなるべく丁寧に開けると、そこには一枚の布が入っていた。
「これは眼帯。今までは私が作った眼帯だったけど、臨時でお金が入ったから買ってきたの」
布とは言ったものの、特殊な繊維で出来ているのか肌触りがものすごくいい。デザイン性もよく、中二病の女子が気に入りそうなデザインをしている。
ちょっと中二病っぽいデザインだが、それでもデザイン性が良い事は確かだ。
でも、よくこんな両目を隠せる眼帯が売っているものだ。こんな物が売っているってことは、需要があったんだな。
「ありがとう。だいじにする」
母からの誕生日プレゼントを胸に抱いて漫勉の笑顔で笑う。
これが、僕ができる唯一の恩返し方法だから。
「まり…」
母はその笑顔にうるっと来たのか僕に抱き着いてきた。
母の抱擁はうれしいのだが、その大きな胸があるせいで苦しい。
「ううぅ、鞠が良い子にそだってくれてうれしいわ」
そんな事を言われると照れ臭くなってしまう。
前世の自分なら謙遜でもして逃げていたのだろうけど、今世ではこの気恥ずかしい思いからも、逃げたくない。だから、今のこの時間を精一杯受け取ろう。
とは言った物の、この抱擁は何時になったらほどいてくれるのだろう?もう10分はしているよ?
「ママ、そろそろ眼帯付けてみたい」
「…ごめんなさいね。ついついね」
やっと離れてくれた。でも、そのちょっと恥ずかしそうに微笑む母を見て、僕もうれしくなる。
そんな母に、せっかくなので家族サービスをする事にした。
「ねえ、ママ。この眼帯つけてくれない?」
これはよくある恋人同士のネックレスのやり取りだ。前世では恋人はいなかったが、ドラマとかで何回か見た事がある。
って、考えていたらなんだか悲しくなってきた。もうこれ以上は考えない様にしよう。
「ええ、分かったわ」
母が僕の着けていた眼帯を外す。お風呂の時以外は外さないが故に、ちょっとだけ新鮮に感じる。
そして、今日は誕生日と言う事もあって、久々に瞳を開けた。
ここ一年ほとんど光を浴びてこなかった目は敏感で、細くしか開けられない。しかし、目の前にある母の顔は、はっきりと見えた。
でも、すぐに目を閉じてしまう。体も成長したから大丈夫になったかな、なんて思ったが相変わらず無理だった。
特に視界の情報と、3次元的に見えている視界が重なると酔いそうになる。もう3次元的視界に慣れてしまったおかげか、普通の視界は少し違和感がある。
僕がそんな事をしている間に母は眼帯を着けてくれた。
「はい、付けたわよ。ふふ、似合っているわよ」
自分でも見てみる。
ふむ、似合っている。特に髪の長さと眼帯のデザイン性も合わさって完全に女の子になっている。
その事実にさえ目をつぶれば、肌触りもいい感じだし、似合っているし、良い感じだ。
「ママ、プレゼントありがとう」
「どういたしまして。じゃあケーキ食べましょうか」
去年と変わらずのショートケーキの味は甘く、美味しかった。
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誕生日から数日後。僕は今、半年ぶりにとある人と話した。
そのスピーカー越しに聞こえる声は、豪快でうるさい。
いつも通りの音量から二つ下げないと耳元で会話なんて出来ないほどの音量と言えば分かるだろうか。
「小僧、元気にしておったか?」
「はい」
「そうか!そうか!それならよかった!で、今日連絡したのは例の件の話だ。小僧の親にはすでに確認をとった。そこで許可が出たから小僧に問おう。小僧は特別超能力育成プログラムに参加する気概はあるか?」
もちろんだが、ある。
半年前の話し合いから、いろいろと情報を集めた。この正剛正義の情報もだ。名前に正が二つも付くだけあって、真っすぐな性格の吾人だ。それはすさまじく、不正をしていた幹部35人を処分している。
その真っすぐな性格だけじゃなく、優秀さもすごい。10年前にスサノオの指揮官に就任したのだが、その指揮と士気のダブルパンチで天使の討伐数を1.3倍に増やした。
それだけでは無く、家が武器メーカーということもあり、様々な武器を開発している。
もちろん本人スサノオの指揮官に任命されるぐらいだから強く、軍全体でもトップ10には入る腕前をしている。
こんな人物が正剛正義と言う男だ。
「あります」
「そうか!では、祝だ。小僧にプレゼントを贈ろう。何が良い?」
そう突然言われても困る。
っあ。でも一つあるかも…。
「…男」
「男?」
「男性用の服を…ください」
そう、一着でいい。一着で良いから男用の服が欲しい。母の趣味でずっと女の子用の服を着させられるのだ。1歳や2歳の時なら、別に良かったのだが流石にそろそろ何とかしたかった。
「…なぜそんな物が欲しいのだ?」
「正剛さんは、僕と会った時どんな服だったか覚えています」
「?…確か。…ああ、なるほどな。分かった。服は買おう。だが、それだけでは安い気がするな。…(涼香、次の土日開いているか?」
「(はい、日曜日の午後5時まで空いています)」
遠くなった声から、会話している声が聞こえる。この人めちゃくちゃ忙しいはずなのに僕の為に時間を作ってくれるのか。
「っと言うことだ。小僧は次の日曜に空いているか?」
「はい、空いています」
「では、次の日曜日11時に私の車が迎えに行く。それまでに準備しておいてくれ。あと、このことは母に我から伝えておく」
「わかりました」
こうして、週末の日曜日に正剛少将とお出かけすることになった。
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。