第十二話 ホテルの上でのお話1
今、僕は高級ホテル最上階の一室に居る。
目の前にはザ・役人の眼鏡をかけた細い男とガタイのいい軍服を着た50歳ほどの男が居た。
なぜ、こうなったのだろう。そのことを説明するには少し日数を遡る必要がある。
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朝、朝食のパンをジャムで塗って小さな口でかぶりつく。
甘くもさわやかなレモンジャムがくどくなくて、とても美味しい。
僕がパンにかじりついている横で母の携帯のバイブレーションが鳴った。
別に携帯のバイブレーション自体は珍しくない事なので気にすることなくパンに再度かぶりついた。
母は携帯をポケットから取り出して中身を確認する為に電源を入れた。
僕は別にテレビも今面白い物がやっている訳では無いので、気まぐれでそのメールの内容をちらっと見てしまった。
あまり良くない事だとは分かっているが、本当に気まぐれで見てしまったのだ。
宛先人の名前は母の名前だった。僕には関係ないと思い意識を外そうと思った瞬間ある一文が目に映った。
『雨宮菊鞠様へ
大和政府ー防衛省ー超能力庁ー情報科の山本です。
今回、ご連絡させていただいたのは、お子さんの雨宮鞠様の件です。
雨宮鞠様の超能力は大変貴重な超能力という事もあり、いろいろなお話がございます。
もしも、今回のお話にご興味ある場合には下のリンクから超能力庁ー情報科の特設ページからご返事ください。
https:/超能力庁ー情報科com.25-55-a
』
何だこれは?
まず、疑問に思ったのは大和政府?日本政府ではなくて?
確かに生まれ変わってから日本と言う単語をあまり見かけたことが無い。あんまり確認はしてこなかったけど、やっぱり日本と言う国は無くなってしまったのか。ちょっと悲しい。
って、今それよりも大事な事があるな。
自分の事という事もあって母に聞いてみた。
「ねえ、ままそのメール何?」
「見ていたのね。勝手に見るなんて悪い子ね。でも安心して、大丈夫よ」
母は僕を安心させるように頭を撫でた。
って、それよりも内容を教えて欲しいんですけど…。
なんて、心の中では思うものの、母の温かい手はそんな思考を塗り潰すだけのパワーを秘めていた。
素直に頭をなでられていると、もう幼稚園への登校時間が迫ってきていた。
「もう、こんな時間ね。準備しましょうか」
僕はメールの件が気になりながらも、幼稚園に登校するのだった。
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メールが来てから数日後。僕はいつも通りの週末を過ごしていた。
もうすっかりメールの事は忘れていて、ダイニングに寝転がりながらテレビのニュースを見ていた。
そんな時に、母がしっかりとメイクをしている事に気が付く。
母がしっかりとメイクすること自体珍しいので、何か大事な予定があるのかな?なんて思いながらおっさんの様にお尻をかいた。
そんな完全にオフモードの僕に母がある提案をしてきた。
「ねえ、鞠。ちょっとママとお出かけしない?」
急な話にテレビを見ていた意識を母の方に向ける。
急なお出かけの提案だが、それ自体大して珍しくない事なので、気負いなく母に返した。
「いいよ。で、どこに行くの?」
「いやね。ちょっとB区に用事があるから、鞠も一緒にどうかなーって思って」
そういう事か。それならば、なかなか行く機会のないB区に行きたい。
僕は寝転がっていた体制を直して母に「うん、行く」と伝えた。
「そう、それじゃあ’’おめかし’’しないとね」
自分は忘れていた。母と出かけると毎回母の趣味に突き合わされる事に…。
「ゑ?」
そのにこやかに近づいてくる母を見て変な声が出た。
それから数分後、完全にスカート姿になった僕が鏡の前で四つん這いで倒れていた。
「ねえ、ママ。この服嫌」
不服を申し立てる様にそう言う。
「え?似合ってるじゃない。それに外行の服、そういうのしかないわよ」
え?マジで?。こんな、ビラビラのスカートしか、外行の服無いの?
家には僕だけの服で占領された棚がある。それは30着ぐらいは入る棚だ。それが閉めるのにひと手間必要なぐらいにギュウギュウに詰められているのだ。それだけあるのに女用の服しか無いのってマジ?
衝撃の言葉に硬直していると、母は超能力を使って僕の事を持ち上げた。
「さあ、行きましょうか」
ニコニコの母とは対照的に、僕は不満を語るかのような面持ちだった。
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それから、電車に乗ってB区の11番区に来た。
11番区。それは、ホテル街と言われる区画だった。天使が多く現れる18、19、20番区の西側には超能力専門店や武器屋などがある。
その反対側にあるのが、10、11、12番区の東側だ。特に11番区は皇族も使用するような高級ホテルがズラリと並んでいる。この大和の都市で一番お金持ちがいるのが11番区といっても過言ではない。
そんな、お金持ちの区画に来ている。正直、こんな所に来ても、やれる事なんて言うのはない。お金持ちの街と言われるだけあって、全てが高い。たった水一本に、他の10倍以上もの値が付くのがこの場所だ。60番区に住んでいるような人間では水すら買えないのだ。
僕はソワソワしながら、周囲を見ている。みんな高級な服だと一瞬で分かる服装をしている。
完全な場違いな場所に来てしまった事に何とも言えない気持ちになっていた。
「鞠、着いたわよ」
僕が周囲に気を取られていると、目的地に着いたらしい。
「え?」
その着いた目的地なのだが、…何回だてかも分からないほど高い高級ホテルだった。ホテルの窓で分かる。豪華に飾り付けられた装飾は見るからに高い。それだけじゃなく、床には赤いカーペットが置いてある。
「ママ、ここなの?」
「ええ、そうよ。ここで間違いないわ」
え?こんな所で何があるの?
もしかして闇の取引?いや、そんなわけないか。ん?何か引っかかったぞ。なんだ?何か思い当たる節が…そうか!数日前のメール!確か…大和政府ー防衛省ー超能力庁ー情報科からのメール。そうであるならばこの場所も納得ができる。A区は一般人の入場は出来ない。だから、B区のここが選ばれたのだろう。
僕が一人で納得していると、母はためらいなく高級ホテルに入っていった。
「お客様、ご用件を伺います」
入ってすぐにスーツ姿の受付が声をかけた。
「えーっと山本さん?でしたっけ。その方との面会があり」
「そうでしたか。お伺いしています。一応ですがお名前を」
「雨宮菊鞠です」
「はい、雨宮菊鞠様ですね。…確認しました。部屋番号は5501号室です」
「ありがとうございます」
母は簡潔にお礼だけすると、エレベーターに向かった。
エレベーターは10個もある。しかも、一つ一つのエレベーターは大きく、それだけでかなりのスペースを取っている。さすが高級ホテルなだけはある。
エレベーターの中身もすごく、装飾が豪華だ。ちょっと華美にも感じるが、許容範囲のきれいさだ。
って、このエレベーター60階層までのボタンしかない。つまり、最上階付近の部屋だ言うことだ。
しかもこの都市のB区の建物は75階が基準だ。それなのに60階までしかない所を考えると、一室一室が豪華に作られている事が分かる。
エレベーターに乗ってからしばらくして目的の55階層に着いた。
廊下に出ると2つの扉がある。かなり広いはずの階層だが、2つしか部屋が無い。それだけで普通のホテルとは違う事が分かる。
5501と書かれた扉の前に立った。未だ母に抱えられているからこそ聞こえた。母の息を飲む音が。
どうやら母もかなり緊張しているらしい。
母は覚悟を決めて扉を開ける。そこには大きな部屋と二人の男が座っていた。
一人は軍服を着たガタイが良い男だ。軍の階級章なんて分からないが、胸にたくさんつけた勲章などで、その地位の高さが分かる。
もう一人の男はスーツを着たひょろい中年のおっさんだ。前世でも見た中堅サラリーマンと言えば想像できるだろうか。
僕たちが入るとスーツの男が立ち上がり、初めにしゃべった。
「雨宮さんですね。お待ちしていました。こちらに座ってください。今、飲み物を頼みます。そちらの息子さんは何の飲み物がいいですか?」
「ええっと、私は水で。鞠は何が飲みたい?」
「ぶどうジュース」
「分かりました。水とぶどうジュースですね」
そう言ってから30秒と経たずに、水とぶどうジュースが運ばれてきた。きっちりと僕のぶどうジュースにはストローが刺さっている。
さ、さすがは高級ホテルだ。対応が全く違う。
「では、初めまして。私の名前は山本と言います」
名刺を差し出しながら、ひょろい男が自己紹介をした。
母が名刺を受け取ると、次に軍服を着た男が自己紹介をした。低く低温の声は、重くはっきりと聞こえてきた。
「我は正剛少将だ」
え?少将ってマジで?めちゃくちゃお偉いさんじゃん。
そして分かった。今回の話し合いはマジでマジな奴だと。
僕は緊張した場面で僕がストローからぶどうジュースを吸うチューと言う音だけが響いた。
え?なんでこんな場面で飲んだかだって?そんなの決まっている。だって、高級ホテルのぶどうジュースなんて気になるじゃん。
ちなみにだが、ぶどうジュースはめちゃくちゃ美味しかった。
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。