第十一話 2歳
病院に運ばれてから一カ月後の7月7日。僕は2歳になった。
「鞠、お誕生日おめでとう」
そう蝋燭だけの光の中、母が僕の誕生日を祝ってくれる。
確かに母しかいない、少ない誕生日だが、それが何よりもうれしい。
「さあ、鞠ふーってしてみなさい。蝋燭の火を消すのよ」
昔ながらの誕生日の祝い方だが、2度目の人生では初めての事だ。
一歳の頃は、毎日忙しく誕生日を祝っている暇なんて無かった。そう思えばこそ、母にも余裕が出来た証の誕生日でもある。
僕は蝋燭の火に対して息を吹きかけた。2歳児の息なんて強くは無いが故に、何回か吹き付ける事でやっと消せた。
「鞠、本当にお誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとうね」
こう言われるとうるっときてしまう。
ただ、居るだけで、生まれてきただけで感謝される。それ以上の愛は無いと2度目の人生で知った。
「さて、ケーキ食べましょうか」
母がケーキを切り分けてくれる。
そういえば今生では初めてのケーキだと思う。前世でもほとんど食べなかったショートケーキの味なんて忘れていた。
「ゆっくり食べるのよ」
よそってもらったケーキをフォークで食べる。なんだか甘く感じるケーキは今の幸せのような味をしていた。
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2歳になったからって何かが変わるわけでは無い。
いつもと変わらず幼稚園に行き、帰ると超能力の練習をする。ただそれだけの毎日だ。
超能力はあれから進歩した。超能力で一番嫌だった事は成長頭痛だ。あれだけは何ともしがたく、ただ耐えるだけしかできなかった。
しかし、生転によってその頭痛を治せる事が分かったのだ。これによって、さらに超能力の訓練がやりやすくなった。
そしてもう一つ。天使の灰の消費が無くなった。正確に言うならば、無くなった天使の灰も生転で元通りにできるようになった。これは経済的に助かった。どんどん許容量が増えていく中で、将来的に天使の灰は莫大なお金が掛かる事が分かっていたからだ。
そして肝心の超能力の壊転の方はどんどん力を増していっていた。今ならば満杯のユニットバスを3つほど消せるだけの力が出せる。
生転の方は発現したばかりと言う事もあって壊転ほどには力が出せない。しかし、その有用性は壊転以上だ。この都市に15人しかいない他者を癒す能力の有用性は語るまでもない。
そして、あの病院から一番外見的に変わったのが眼帯だ。あれから時間は経ったが未だ視力に関しては良くならない。なるべく目からの情報をカットするために眼帯を付けたのだ。
その眼帯の効果なのだが、悪い意味で効果があった。幼稚園のみんなから避けられる様になったのだ。前までは友達ではないが、鬼ごっこで遊ぶぐらいの仲はあった。けれども、眼帯を着けて登校した日に、みんなから避けられ始めた。それは改善する兆しすらない。
確かに子供に避けられる事は悲しかったが、一人でいる事にはさほどの苦痛は感じていなかった。
暇な時間には読書で暇をつぶす。前世も一人の時が多かった自分からしてみれば大したことではない。
しかし、母がその事を気にかけているのは知っている。僕に友達が出来たか毎度毎度聞いてくるのだ。
さすがに僕もどうにかしたいと思っているが、相手から避けられている現状どうにもできなかった。
幼稚園の事はさておき、今僕にはもう一つの悩みがある。
それは…母の趣味だ。
母の趣味ならば関係ないのではないか?と思う者もいるだろう。でも、その趣味が僕を着せ替え人形にすると言ったら分かってくれるだろうか。
別に服とかならまだいい。着替えればどうとでもなる。いや、良くは無いのだが、その時を耐えれば終わる。でも、髪の毛を切らせてくれないのはどうにかしてもらいたい。いつまでも肩ほどの髪でいるのは嫌だ。
僕にとっては嫌な母の趣味だが、幸いなことに今生の顔は良い。別に前世の顔が嫌いだった訳じゃない。それでも、顔が良いに越したことはない。
そんな僕の顔なのだが、母によく似た面立ちをしている。髪はストレートの黒髪だ。目は母には似ず黄色っぽい色彩をしている。未だ幼いゆえに丸い顔がさらに中性感を醸し出していた。
前世だったらカラコンでもつけていないとおかしい色だ。でも、この世界は不思議なことに色々な髪の色をした人が普通にいる。
これは本当に最近知った。前までは髪を染めているのだと思っていた。死ぬ10年前ほどからそういった色の髪をした人が増えたからだ。別に違和感なんて無かった。
でも、テレビの特集で髪の色の遺伝性。と言う番組でその認識は変わった。
髪の色に衝撃を受けた僕は、目の色の事を母に聞いてみた。
「その目の色?ふふ、夫そっくりの良い目だわ」
そう返された。どうやらこの目は父遺伝だったらしい。まあ、薄々そう感じていたから驚きは無かった。
その流れで父親の事を聞こうと思ったが、なんだか地雷の雰囲気を感じたので避けた。
だって、嬉しそうに夫そっくりな良い目、なんて言っているんだよ。つまりは、喧嘩別れじゃないってことでしょ?それで一人ってことは未亡人の可能性が高い。そんな事は絶対に子供に話してくれないだろう。僕が親なら絶対に幼い子供には話さない。
この話は、そっと横に流して新しい話をした。
それよりも、前から気になっていた母の超能力が気になった。
「ママ。ママのちょうのうりょくってなに?」
「ん?急にどうしたの?」
「きになって」
「うーん、そうね。…じゃあ、クイズにしてみましょうか。私の超能力何だと思う?」
おっと、そうきたか。でも面白い。少し考えてみるか。
まず、母の超能力は目に見える系の物じゃないと思う。これまでに母が超能力らしき力を使っている所を見たことがない。それは、意として見せてなかっただけかもしれないが、それを考えてたら可能性が無限大になってしまう。
と、なるとだ。見えない系の物だろう。まず考えるべきは身体強化の類であるかどうかだ。
…たぶんだが、これも無い。理由は簡単で母が特段力持ちといった素振りは…無かった?いや、一つあるかもしれない。母は良く僕の事を片手で持ち上げていた。普通ならば片手での抱っこは相当きついはず。特にあんな細腕では。
となると、身体強化系の超能力か?いや、多分それは無い。身体強化系の超能力は常時発動されている。そうなれば、日常生活の中でも超能力らしき行動を端々で見れるはずだ。でも、それは無かった。つまりは、常時発動される身体強化系では無い事が分かる。
すこし、こんがらがってきたな。整理しよう。
まず、見える系の超能力ではない。次に身体強化でもない。しかし、僕を片腕で持ち上げられるほどの力をみせた?
…そうか。なんとなく分かった。母は自分の力を上げているのではなく、対象の重さを操っているのではないか?そうなれば、僕の事を片腕で持ち上げられた理由にも納得がいく。
「…おもさを変えれるちょうのうりょく?」
僕がそう答えると母はびっくりした顔になった。
「せ、正解。…鞠は何故そう考えたの?」
「ママがちょうのうりょくを使っている所をみたことがなかった。でも、僕のことを軽々ともちあげていたから、そうじゃないかなーって」
「…」
母は黙り込んでしまった。
そうして僕も思い立った。こんな子供が、論理的に答えを導き出すのなんておかしい。てゆうかあり得ない。
こんな事にも気が付かないこの馬鹿な脳をカチ割ってやりたくなった。
冷や汗をだらだらと流している僕は母の次の言葉を死刑宣告の様な気持ちで待った。
「…鞠は天才ね!」
…どうやら、母は都合のいい方に解釈してくれたらしい。
…よかった。一安心。
「ちゃんと正解で来た子にはご褒美をあげなくちゃね。ママと一緒にケーキ食べに行きましょうか」
未だ乾かない冷や汗をかいたまま、母と一緒にケーキを食べに行った。
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。