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『相変わらず汚い部屋だな!少しは片付けろ!』


 霊体のクラウスはアメリアの部屋を見回して顔を顰めた。

 洋服や本が床の上に散らばっていて足の踏み場も無いうえに、布団は起きた時のまま、机の上も書きかけ書類や本が積み上がっている。


 「私の部屋なんだからどう使ってもいいでしょう!出て行って!」


 当たり前のようにクラウスはアメリアの部屋までついてきた。

 クラウスを追い払おうとアメリアはクラウスの背を押したが、触ることが出来ずに前のめりになる。

 倒れそうになり慌てて踏ん張った。


(触れないのは厄介ね!)


 無理やり追い出すこともできずギリギリとクラウスを睨みつける。

 

『嫌だね。俺が居ないとお前犯人探しをしないだろう!』


 自分には関係ないのだからなぜクラウスを手伝わないといけないのかとアメリアは頬を膨らませた。


「だって私には関係ないもの。城に戻ったお兄様が情報を集めて何とかしてくれるわよ」


『適当なことを!ゴリラ男は護衛騎士隊長で忙しい身だからとても俺の事を真剣に考えているとは思えない。だいたいゴリラは他人に全く興味が無いだろう』


 クラウスの言う通りアーサーは自分以外の事にあまり関心が無い。

 そのおかげでアメリアの汚い部屋も許されている状態だ。

 クラウスの言う通り、あのアーサーが他人の為に動くとは思えない。


『いいか!もし俺が死んだらずっとお前にとり憑くからな!』


「死ななくてもずっと付いてきているじゃない」


 自分の部屋に居ればいいものを、アメリアの後をずっとついてきたクラウスに呆れてしまう。

 いい加減一人にしてほしいが、クラウスはなぜかアメリアの部屋から出て行こうとしない。


『お前を見張るためだ!』


 言い出したらクラウスは一切引かないだろう。

 アメリアはクラウスを追い出すことを諦めて椅子の上に乗っていた寝間着を床に落として椅子に座った。


『おい!だらしがない。寝間着はクローゼットに入れろ』


 顔を顰めて言うクラウスにアメリアは肩をすくめた。


「めんどくさいわねぇ。もうすぐお風呂に入って着るからいいのよ。すぐに持って行けるでしょう」


『そーいうことか。お前のだらしが無いのは……』

 

 呆れた様子でクラウスは部屋を見る。

 たしかにアメリアが暮らしやすいようにすべて手の届く距離に物が置いてある。

 本棚は一応設置してあるが、数冊入っているだけでほとんどは机の上に山済みされたままだ。

 薄っすらと積もっている埃を見て霊体なのにクラウスは咳を数回して口を塞いだ。

 


『ありえないな。人間としてどうなんだ?少しは片付けろ』


「余計なお世話よ」


 霊体のクラウスに文句を言われる筋合いはないとアメリアは椅子の上でふんぞり返った。

 兄や母親も煩く言われなくなったのだから放っておいてほしい。


『部屋の片づけは後にするか……。俺がどうしてあそこで倒れていたのか説明するからよく聞いていろよ』


「別にどうでもいいんだけれど。どうせ、犯人は”騎士と姫”の小説を読んでクラウスに憧れた変な女でしょ?私だってクラウスの本性を知ったらがっかりして死んでほしいと思うわよ」


『俺が女にやられるとは思えないが……。昨日は日勤帰りで、なぜか体調が悪くてフラフラしながら家に帰ろうとしたとこまでは覚えている。気づいたらベッドに寝かされている自分を見ていた』


 思い出すようにクラウスは腕を組んで言う。


「なるほど。薬でも盛られたんじゃない?クラウスに憧れていたけれどイメージと違うってガッカリした女が犯人ね。城の侍女とかが怪しいんじゃない?」


 適当に言うアメリアにムッとしつつもクラウスは思い当たる人が居ないかと考える。


『俺に好意を持った女性は山ほどいるからなぁ』


「はい、はい!それはようございましたね!」


 確かにクラウスは稀にみる美形だ。

 黒い髪の毛と瞳のおかげで寡黙な印象を受けるが、ペラペラと話している印象しかない。

 幼少期からクラウスは怒っているか呆れている印象しかないためにイメージは初めから悪い。


「ねぇ、クラウスが嫌な奴だってお城でも有名なの?」


『阿呆。俺だって成長しているんだ、イライラしてもすぐに口に出したりしない。黙ってやり過ごしている。俺は城では寡黙な騎士だな』


「寡黙な騎士?嘘くさいわねぇ。それだったら物語に出てくる騎士そのままじゃない。どこかで女性に暴言吐いたりしたんじゃないの?」


『思い出せないな。女性が話しかけてきても適当にあしらっているからなぁ』


 本気で思い出せない様子のクラウスを見てアメリアはため息をついた。

 クラウスは適当にあしらったつもりでも、相手は酷く傷ついたかもしれない。

 そう思うとクラウスには思い当たる女性が居なくても相手は殺したいほど憎んでいる可能性はある。


「お兄様が帰ってきたら聞いてみましょう。きっと何か調べているはずよ」


 アメリアが言うとクラウスは素直にうなずいた。

 それを見てアメリアはドアを指さす。


「ということで、さっさと部屋から出て行って。プライベートの侵害よ」


『お前にプライベートも糞もあるか。とりあえず今日は部屋の片づけだな』


「はぁ?私の部屋なんだから自由にしていていいでしょう!」


 すべて使いやすいようにしているのだ。

 急に来たクラウスに文句を言われる筋合いはないとアメリアは頬を膨らませた。


『俺がこんな部屋は無理だ。落ち着かない。お前もこんな汚い部屋で過ごしていたら病気になるぞ』


 クラウスは嫌そうに汚い部屋を見て埃を払うように手を左右に振る。


「だったら部屋を出て行けばいいじゃない」


 部屋を何度も出て行けというのにクラウスはなぜか部屋にとどまったままだ。

 アメリアは片付ける気などさらさらないのでクラウスを無視して机の上の本を開いた。


 何度も読んでいる”騎士と姫”の最新刊だ。

 毎日のように楽しく読んでいた恋愛小説のはずなのに、クラウスがモデルだと知ってしまったら本に集中することができない。

 憧れていた本の登場人物がクラウスにそっくりだからか余計に物語に共感することが出来なくなってしまっている。


 姫のことを思っている優しい騎士が今では演技をしているようにしか思えず読んでいても集中できない。


『本を読むな!片付けろ』


 お互い触ることが出来ないためクラウスはアメリアの耳元で大きな声を出した。

 キーンとする耳を押さえてアメリアはクラウスを睨みつける。


「うるさいわねぇ!耳が可笑しくなったでしょう!」


『とにかく床の上の物を片付けろ』


 母親より煩いクラウスを睨みつけながら動こうとしないアメリア。

 クラウスはイライラしながらなんとかアメリアの重い腰を上げようと腕を掴もうとするが霊体の為につかめない。

 アメリアを動かすことが出来ずクラウスはイライラしながら自分の手を見つめた。


『クソッ。全くつかめない』


「残念でした~。お互い触ることが出来ないっていうのは不便だけれど良い事もあるわね」


 何度も触ろうとしてくるクラウスにアメリアは馬鹿にしたように微笑んで見せた。

 バカにしたように笑みを見せるアメリアの顔にクラウスは余計に腹が立ったようで唇を噛みしめている。


 『絶対、掃除させるようにしてやるからな』


 クラウスはそう呟くとなんとかアメリアを立たせようと両肩に手を置いた。

 瞬間、クラウスの姿がアメリアから見えなくなった。

 突然消えたクラウスの姿に驚いてアメリアは腰を浮かした。

 

「えっ?クラウス?」


 部屋の中を見るがクラウスの姿も声も聞こえない。


「クラウス?……もしかして本当に死んじゃった?」






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