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 クラウスが寝かされている部屋にアメリア達は駆け込んだ。

 

 白を基調とした大きな部屋にベッドと机が置かれているだけの部屋だ。

 ここがクラウスの自室かと部屋の様子を見ながらアメリアはベッドに近づく。

 

 ベッドに寝かされているクラウスは青白い顔をしてピクリとも動かない。

 


 パールは生きているか確認するためクラウスの顔に耳を近づけて呼吸音を聞いている。

 アメリアもハラハラしながら見守った。

 アーサーは反対側に回りクラウスの首元に手を当てて脈の確認をしはじめた。


「息はしているわ」


 ホッとしたように言うパールに反対側に居たアーサーも頷いた。


「脈はあるな」


 無表情な顔をした兄の言葉にアメリアもホッと胸をなでおろした。

 クラウスはベッドから少し離れて自分の姿を何とも得ない顔をしてじっと見つめている。

 

「よかった。クラウス生きているって。早く元に戻って寝た方がいいんじゃない?」


 アメリアの横に立って自分の体を見下ろしているクラウスを振り返った。


『戻れたら苦労しない』


 ギロリとクラウスに睨まれてアメリアはたじろいだ。

 

「クラウスはなんて言っているの?」


 息子が生きていることにホッとしながらパールが聞いてくる。

 まるで実在しているように見えるが、クラウスは自分にしか見えていないのかとアメリアは首を傾げながら答えた。


「不機嫌な顔をして戻れないって言っているわ」


「戻れないのか?俺はよくわからないが、体から出ていると肉体的に良くないんじゃないか?」


 アーサーの言葉にアメリアとパールが頷く。


「そういう物語あったわね。霊体になって彷徨っている間に肉体が死んでしまうっていうの」


 アメリアが言うとパールが微笑んだ。


「”愛していたのに死んでしまうなんて”っていう恋愛小説よね。あれは良かったわ~。悲恋っていうのかしら」


「パールおば様も読んだの?素敵だったわよね。あれは確か美形の王子様と姫の話だったわよね」


 パールも同じ本を読んでいたことが嬉しくなりアメリアが手を叩いて喜んでいるとクラウスは後ろから大きな声出す。


『おい!今はそう言う話をしている場合ではないだろう!俺はどうしたらいいんだ!』


 耳元で怒鳴られたためにアメリアは顔を顰めながらクラウスを振り返った。

 相変わらず不機嫌な顔をして立っているクラウスの恰好を見て首を傾げる。


「あれ?クラウスの服が違うわ」


 ベッドに寝かされているクラウスは白い寝間着を着ているが、アメリアに見える幽霊のクラウスは黒い騎士服だ。

 それもちゃんと剣を差して、ブーツまで履いている。


『騎士服で倒れていたからじゃないか?』


 不機嫌な顔をして言うクラウスにアメリアは頷いた。


「なるほどー。私もパジャマ姿のクラウスがウロウロしているより、騎士服の方がいいと思うわ」


『余計なお世話だ!』


 アメリア達が言い合いをしているのを見ながらアーサーは大きく息を吐く。


「とにかく、クラウスの体は生きている。元に戻れないなら、体が元気になるまで自分を刺した人間を思い出すか探すかするんだな」


『ゴリラ男め!簡単に言うな!』


「クラウスはどうしてそうなったのか分からないの?」


 アメリアが聞くと何故かアーサーとパールが頷いた。


「もし犯人が解っていたら真っ先に仕返しに行くだろうからな。この場に居るという事は誰が刺したか分からないだろう」


 アーサーの言葉にパールも頷く。


「やられたら倍返しの精神ですもの。我が息子とは思えないほど恨みが強くて誰に似たのかしら」


 困ったわとパールは頬に手を当ててため息をついた。


「やだー。昔と変わっていないじゃない」


 幼少期に意地悪な子供に対して倍にしてぶん殴っていた記憶が蘇り思わずアメリアが呟くとクラウスは得意げに口の端を上げて笑った。


『今は相手に気づかれないようにやり返している』


「立ち悪い!パールおば様、どうしてクラウスを物語のモデルにしたの?私ガッカリだわ。もうあの小説を純粋な気持ちで読める気がしないわ」


「仕方ないじゃない。どうしても理想の息子が書きたかったのよ。せめて物語の中だけでも夢を見たかったの」


『十分理想の息子だろうが!姫様付の護衛騎士など名誉だろう!』


「クラウス、すごく文句を言っているわよ。おば様」


 怒っているクラウスを指さしてアメリアはパールに伝える。


「だいたい何を言っているか想像はつくわ」


 疲れたようにパールはアメリアに手を振った。

 アーサーは大きくため息をついて、両手を上げて伸びをする。

 巨体が伸びをしている様は本当にゴリラのようだ。

 大きな体の筋肉質の男が伸びをしているの見てアメリアは本当に似なくて良かったと心から思っていると兄と目が合った。


「とりあえず、俺は城に戻る。それとなく犯人探しをしてみるが俺も忙しいからお前たちも体に戻れる方法と犯人を捜せ」


「お前たち?」


 嫌な予感がしながらアメリアが首を傾げるとアーサーは頷く。


「アメリア、お前は一日中暇だろう。クラウスの姿も見えることだし二人で協力して犯人探しでもしているんだな」


 兄の言葉にアメリアは首がもげるほど左右に振った。


「嫌よ!私は小説を書いて大先生になるんだから……。それに小説の騎士のイメージが悪くなるから傍に居ないでほしいわ」


『お前は!俺に協力できないって言うのか!』


 鬼の形相で見られてアメリアはたじろぎながら薄笑いを浮かべた。


「協力はするわよ!クラウスがその霊体を使って誰にも気づかれず調査して犯人を捜して来たらお兄様に伝えるわよ!それまで近づかないでって言っているの!」


『近づくなだと!お前は俺の事を助けたくないのか!』


 クラウスが怒りながら言うが、アメリアは首を振る。


「大丈夫。言ってくれれば協力はするわよ。でもあんまり傍に居ないでって言っているの!」


 二人の言い合いを見ていたアーサーは頭が痛くなり軽く揉みながら間に入った。


「とにかく、お前たちは犯人探し、どうしたらクラウスが元に戻るか調べていろ。俺は独自に調べるから。あと、妹だから言うが、クラウスと話すときは気を付けろよ。独り言を言っている頭の可笑しいヤツとしか思われないからな。ただでさえ引きこもりの妹の頭が可笑しいと言われているんだからいい加減にしてくれよ」


 アーサーに指摘されてアメリアははっとした。


「本当にクラウスの声が聞こえないの?こんなにはっきり聞こえるのに!私一人で話しているように見えるの?」


「見えるわ」


 パールに頷かれてアメリアはクラウスを指さした。


「協力はするから人前で私に話しかけないで!頭おかしい人って思われたら私の人生お終いよ!小説家としての道は閉ざされるわ」


『そんなもん初めから閉じている!お前には才能があるとは思えないし、ちなみに母上の小説だってなぜ売れているのかさっぱりだ!』


「酷い!おば様の小説までけなすなんて!」


 ムッとしているアメリアの背をパールは慰めるように摩る。


「いいのよ。クラウスは生きていた時からずっと私の小説をけなしていたから慣れているわ」


「可哀想おば様!」


『俺は生きている!』


 クラウスの叫びをアメリアは無視をした。


 


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