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34(最終話)

 ビオナ姫がクエール王国へ行くことが正式に決定し、アメリアは招待されたパーティーへと出席した。

 ごく身内の小さなガーテンパーティーに出席するのは流石に場違いなのでないかと不安になってくる。


 季節は冬から春になっており、良く晴れた天気のおかげで薄着でも寒くない。

 この日の為、パールに選んでもらったドレスがおかしくないか出席している女性達とさりげなく見比べてみる。

 煌びやかな夜のパーティーとは違い露出をしている女性はおらず、招待客はみな落ち着いている。

 自分のドレスが浮いていないことを確認してホッとしているアメリアをクラウスは見下ろす。


「あまりジロジロ参加者を見るな」


「わかっているわよ」


 正式に書面を交わしたわけではないがクラウスは婚約者としてアメリアのエスコートをしている。

 相変わらず黒い騎士服を着ているクラウスを見上げてアメリアは冷めた目を向ける。


「クラウスはいつも騎士服だから楽でいいわね」


「阿呆。いつでも戦えるようにこの服なんだよ」



 クラウスと小さい声で言い合いをしながら会場内を歩いていると、冷ややかな視線を感じてアメリアは視線を向ける。

 ビオナ姫を囲むように立っている護衛騎士達が冷たい視線を向けているのに気づいてクラウスの腕を叩いた。


「凄い恨みがましい目で見ているわよ。クラウス何かしたんじゃないの?」


「俺が羨ましいんだろ。今回特別に俺だけ任務から外れてアメリアをエスコートすることが許されたから。あいつらも仕事をしないで婚約者を連れてきたかったって嘆いていたもんな」


「なるほど。それは確かに、腹も立つわよね」


 嬉しそうに言うクラウスの顔を見てアメリアは頷いた。

 以前、ドレスをバカにした女性達の姿も見えたがアメリアの姿を見るとそくささと離れていく。

 

 クラウスにエスコートされながらビオナ姫の元まで行くと美しすぎる笑顔で迎えてくれる。

 父親であるブラバード王が亡くなり兄のアダン王子も捕まって先行きが解らない状態で落ち込んでいるようだったが、今はそんなことをみじんたりとも感じられないほど幸せそうな笑顔だ。


「ビオナ姫様 本日は、おめでとうございます」


 膝を折って挨拶をするアメリアにビオナ姫は嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう。来てくれて嬉しいわ。アメリアさんのおかげで幸せになることが出来たの、本当にありがとう」


「私は何もしていません」


 とんでもないと首を振るアメリアの手をビオナ姫は握った。


「いいえ。アメリアさんのおかげよ。愛する人の傍に居れば幸せだって気づくこともできたわ。この国を離れることになったけれど私は幸せになるわ」


 強い意志を持って言うビオナ姫はいつもよりも美しく見えた。

 あまりの美しさに直視できずにいるとクラウスに軽く叩かれる。

 

 ボーっとしていたアメリアはハッとするとビオナ姫の後ろからバスティア王子とアリッサム王子が二人並んで歩いてくるのが見えた。

 集まっていた人たちは同時に頭を下げて迎えた。


 アリッサム王子の周りに居る騎士はグレーの隊服を着ていて剣も細く独特だ。

 肌は王子と同じく褐色だ。

 アリッサム王子の護衛騎士だろう。

 以前よりもはるかに多いクエール王国の騎士の数にアメリアは驚いたが納得もする。


「私があちらの国に言ってもお友達で居てくれる?」


 不安そうに聞いてくるビオナ姫にアメリアは大きく頷いた。


「もちろんです」


「お手紙を必ず書くから、ぜひアメリアさんも書いてくれると嬉しいわ」


「楽しみにしています」


 アメリアが言うとビオナ姫は安心したように微笑んでアリッサム王子達の元へ行った。


 ビオナ姫とアリッサム王子が並んでいる光景は物語の一部のように美しかった。

 並んで立っているビオナ姫とアリッサム王子の元へ人々が挨拶に向かう。


 アメリアはもう十分姫様とお別れが出来たとクラウスの腕を叩いた。


「向うへ行きましょう」


 クラウスと共に会場の奥へと行く。

 会場から少し離れて、池を眺めることが出来るベンチへと腰かけた。

 立ったままのクラウスに隣へ座るように合図をすると渋々ベンチへと腰かける。


「会場にもどらないのか?」


 クラウスに聞かれてアメリアは息を吐いた。


「ちょっと疲れちゃった。緊張していたのかしらね」


 アメリアらしくない言動にクラウスは苦笑した。


「もっとパーティーの様子を見たいのかと思っていたよ」


「そりゃ、興味があるけれど。ビオナ姫様独りぼっちであっちの国にお輿入れをするって考えたらちょっと可哀想かなって今更思ってきちゃった」


 クエール王国の騎士達は恐ろしいほどの緊張感をまじかに感じて、ビオナ姫はあちらの国で上手くやって行けるだろうかと急に心配になったのだ。

 

「何だ急に。この前まで好きな人と一緒なら大丈夫みたいなことを言っていただろう」


 揶揄うように言われてアメリアは唇を尖らせた。


「あの時はそう思っていたし、今でもそう思っているわよ。でもビオナ姫様侍女の一人もつけないでたった一人であちらの国に行くのでしょ?」


「それが条件だからな。あれだけ心配していないようなことを言っておいて」


「クェール王国の騎士の人達怖い雰囲気だったから……。あんな雰囲気の中で過ごすのかと思うと可哀想」


「だから言っただろう、可哀想だって。でも、アリッサム王子が何とかしてくれるから大丈夫だろ」


「そうかしら……」


 確かに優しそうな雰囲気を持っているが、ビオナ姫を守り切れるのだろうか。

 首を傾げているアメリアにクラウスは口の端を上げる。


「愛するものを命がけで守るさ。俺がそうだから」


「……それって私を命がけで守ってくれるって思っていいの?」


 クラウスの口から信じられないものを聞いたとアメリアは目を丸くした。


「当たり前だろ。実際俺は命がけでお前を守っただろう」


「そう言われればそうなのかしら……」


 アメリアが殺されそうになった時駆けつけてくれたことを思い出して頷く。

 はっきりと頷かないアメリアにイライラしてクラウスは顔を覗き込んだ。


 「そうだろうが!俺はお前を命を懸けて守ったんだからな。あの後俺達が殺されてもおかしくなかったんだぞ」


 「そうね。あの時は助けてくれてありがとう。クラウスの瞳ってよく見ると綺麗ね。幽霊の時と全く違うわ」


 太陽の光に当たって輝いているクラウスの黒い瞳を見つめてアメリアは呟いた。

 死んでいるような瞳を毎日見ていたが、今の方が断然素敵だ。


 瞳を褒められたクラウスは一瞬微笑んで、そのままアメリアに口付けた。

 

 一瞬の口づけに驚いて身を引くアメリアの体をクラウスは引き寄せる。


 唇が付きそうなぐらい近くに美しいクラウスの顔がありアメリアはドキドキして目が回りそうになる。


「褒めるのは俺の瞳だけか?ほかにもっといい所があるだろ?」


「こんな近くで言われても思い浮かばないわ」


 離れる様子が無いクラウスに困りながらアメリアが呟く。

 恥ずかしいから早く離れてほしいと願うがクラウスの顔がどんどん近くなってくる。


 アメリアは観念してクラウスの唇を受け入れた。





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