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「全く書けないわ……」


 城から帰ってきて数日が過ぎた。

 療養といってダラダラと寝て過ごしていたアメリアだったが、いい加減寝ていることも飽きてきたために小説を書こうと机に座ったが一向に筆が進まない。

 創作の邪魔だったクラウスも居なくなったことだし、思う存分書くことが出来ると思ったが一文字も書くことが出来ずペンを机の上に放り投げた。


「姫様の事を書いたら売れそうだけれど、さすがに 書く勇気はないわ」


 アメリアは呟いて真っ白な原稿用紙を眺めた。

 大きな事件に巻き込まれたのだから大作が書けるだろうと思っていたが、全く小説を書くことが出来ない。

 机の上に置いたままの”騎士と姫”の本を手に取ってパラパラと捲って眺める。


 登場人物の騎士とそっくりなクラウス。

 今はもう、小説の中の人物と重ねることは無い。


 それでも何となく本を読む気が起きなくて本を閉じて机の上に置いた。

 クラウスの監視の目が無いと、とたんに部屋の中は乱雑になっていく。


 机の上に本は置かれたまま、ベッドは起きたままの状態だ。

 何となくやる気がしなくてアメリアは机の上にうつ伏した。



「クラウスはどうしているかしら」


 大きな事件があったから忙しいのだろうとは思うが、四六時中一緒に居たクラウスが居なくなりちょっと寂しい。

 居た時は、早く居なくなればいいのにと思っていたが実際会えなくなると、少しでもいいから会いたいと思う。



「これが恋なのね」


 ビオナ姫の気持ちがわかり、アメリアは大きく息を吐いた。


 ボーっとしているとドアがノックされてエマが顔を出す。


「クラウス君が、来たわよ」


 ウキウキしながら言うエマにアメリアは軽く悲鳴を上げた。


「何ですって。客間に通して、この部屋には来させないで」


 散らかり放題の部屋を見られたら何を言われるかわかったものではない。

 アメリアの訴えに、すぐにクラウスの呆れた声がした。


「お前、また散らかっているじゃないか」


 エマの後ろから顔をだして眉をひそめているクラウスにアメリアはもう一度悲鳴を上げた。


「ちょっと、許可も無く部屋を見ないでよ」


「おばさん、俺が部屋を片付けるように言うから下に行っていいよ」


 アメリアの事を無視してクラウスはエマに言った。

 

「そう?後でお茶を持ってくるから」


 微笑ましいと笑みを浮かべて去っていくエマにクラウスは声を掛ける。


「すぐ城に帰るから、お構いなく」


「ちょっと、勝手に入ってこないでよ」


 霊体だった頃と変わらず、クラウスは我が物顔で部屋に入ってくる。

 机に座りながら怒るアメリアにクラウスは大きなため息をついた。


「お前、あれから数日しか経っていないのに部屋が戻っているじゃないか」


 呆れた様子のクラウスにアメリアは必死に言い訳をする。


「体調が戻らなかったんだもの仕方ないでしょ」


「だからと言って汚くすることは無いだろう」


 ブツブツ言いながらクラウスはアメリアの前に立った。

 クラウスの黒い瞳に見下ろされる形になってアメリアは何を言われるのかと身構える。


 じっと顔を見られてクラウスは軽く唇を上げた。


「顔の痣、治っているな。よかったな」


「そ、そうね」


 てっきり部屋が汚いことを怒られるのだろうと思っていただけに、拍子抜けをする。

 

「さて、部屋を片付けるぞ。俺も実体があるから手伝ってやれるから」


 やっぱりそう来たかとアメリアはため息をついた。

 


 だいぶ部屋が片付いたころクラウスは思い出したように懐から封筒を取り出した。


「俺はお前の部屋を片付けに来たわけじゃないんだ。ビオナ姫から招待状だ」


「招待状?」


 またしても嫌な予感がするとアメリアは封筒を受け取って乱暴に開く。


「お前!またそんな汚く開けて信じられない」


「クラウスはいろいろ煩いのよ」


 相変わらず呆れているクラウスをアメリアは軽く睨んで招待状を開く。

 花のいい香りが漂い、ビオナ姫の直筆でパーティに来てほしいと書いてあった。


「パーティ?一体なんの?まだいろいろ大変でしょう?」


 アーサーはほとんど家に帰ってこない状況から城の中は落ち着いていないだろう。

 首を傾げているアメリアにクラウスは肩をすくめる。


「大変だよ。ブラバード王の葬儀は一年後に決まりその後すぐにバスティア王子の即位が決まった。今はその準備に追われている状態だ。だが、ビオナ姫が可愛いバスティア王子はアリッサム王子との結婚を先に決めた」


「じゃ、結婚式のパーティー?」


「結婚式は執り行わないことになった。その代わり、ビオナ姫のお別れ会みたいなパーティーだな」


「ふーん?でも良かったわ。ビオナ姫が幸せになれて」


 喜ぶアメリアにクラウスは首を傾げる。


「この事件があったせいでビオナ姫は敵国に行くようなもんだろうに、それでも喜ばしいか?」


「何回も言うけれど、好きな人と一緒に居られるだけでうれしいのよ。私だってクラウスが居なくなって寂しかったもの!今、会うことが出来てちょっとうれしいわ。たとえ掃除をしろとお怒られてもね」


 クラウスは照れたように視線を逸らす。


「そう言うものか」

「そういうものよ!」


 アメリアの言葉にクラウスは肩をすくめながらも頷いた。



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